4.コルガルフ城(Corgarff Castle)

  カッスル・トレイルにも含まれているコルガルフ城を見学に行ったのは2月の下旬の土曜日であった。
  ウィークエンドを利用した史跡めぐりとしては、初めてディーサイドを走るドライブである。ディーサイドは、ディー川(River Dee)付近一帯を指す言葉らしく、このあたりではもっともスコットランドらしさを満喫できる地域である(と、あるリーフレットに書いてあった)。

  我々はまず、A93を西に向かって進む。やがてバンコリー(Banchory)、エボイン(Aboyne)を通過。A93の左側には、時には離れ、時には寄り添うようにディー川が流れている(もっとも我々の進行方向と逆に流れているのだが)。
  やがてA93に別れを告げてA939に入る。A939に入った途端、道幅は狭くなり、起伏も激しくなった。何度か上り下りを繰り返しながら標高が上がっていく。それにつれて、道の両側に残雪が見え始める。それでもどんどん進むと遠くの山々(といっても標高700メートル級の山)にも残雪が見えてくる。

  A939はA道路とはいえ山岳道路、しかも残雪があるのでインバーネスに向かうA96などとは趣が異なる。とにかく風景が絵になる。このあたりは、清水が川になり、やがてはドン川(River Don)かディー川に合流する。
  ドン川もディー川もアバディーンに河口があり、その二つの川に挟まれるようにアバディーン市街が広がる。しかしA939あたりでは、ドン川の支流もディー川の支流も接近しているようで、いくつもの川が流れている。その川にかかる橋がまた絵になる。

  そんな起伏の激しい道、そして最高の風景を見ながら運転すること2時間弱。あたりに雪の残るコルガルフ地域に到着。コルガルフの標識を見ながらお城に通じる小道に入ると、そこは道路にもまだ雪が残っていた。その直線道路をちょっと走ってコルガルフ城の駐車場に到着。

  駐車場から、なだらかな丘の上に立つコルガルフ城が見える。出発時には晴れ間も見えていたにもかかわらず、コルガルフ城に着いた途端、厚い雲が大空を覆い始めた。
  駐車場からお城までは結構なエントランスを歩いて行く。そのエントランスの両側には、ブラックフェイスの羊たちが草をはんでいる。

  驚いたのは、この羊たちは柵のなかにいるのではなく、お城に続くエントランスを自由に横断して移動できることであった。それを見た我々は『大丈夫だろうか』と思ったが、我々が接近すると、彼らの方が道をあけ、遠くに逃げ去る。そして我々の行く方向をじっと眺めているのであった。

  10分程度歩いてコルガルフ城の入り口に到着。第一印象は『これでもお城というのだろうか』というものだった。コルガルフ城は、これまで見たお城や頭の中でイメージしたお城とはまったく異なる形式のお城だったからである。
  こういった形式のお城は、特別にタワー・ハウス(Tower House)というらしい。

  それはさておき、早速中に入ろうと思い、入り口のドアを開ける。ところがうんともすんともいわない。ヒストリック・スコットランドのサイト・ブックや、その他の観光資料でも、冬期間は、週末のみ開館するとしたためられていた。駐車場のそばにあった開館時間を示す案内板を見ても、今日は開館しているハズであった。ところが、ドアは開かないばかりか人気もまったくなかった。小高い丘の上で冷たい風が吹きすさぶ中にいる我々は途方に暮れた。まわりの風景はすこぶるよかったが、肝心のお城の内部に入れない。

  我々は、仕方なくトボトボと羊たちの中を駐車場に戻り、『サマータイムになったらもう一度来よう』と話し合いながら、途中で仕入れたサンドウィッチを食べ、次の目的地に移動した。

[1回目のルート]
Aberdeen-(A93-B972-A939)[63miles]-Corgarff Castle-(A944-A97-B9094)[23.8miles]-Tomnaverie Stone Circle-(B9094-B9119)[3.8miles]-Culsh Earth House-(B9119-B9125)[21.9miles]-Cullerlie Stone Circle-(B9119-A944)[18.5miles]-Aberdeen[Mileage:101miles]

【コルガルフ城再訪】

  ダラス・デュ蒸留所を出たのは3時50分頃だった。冬ならばとっくに暗くなっている時間だったが、サマータイムに入って日はまだ高く、4月の上旬だとはいえ、すでに夜8時近くまで明るさが残るようになっていたので、もう1ヶ所訪問することが可能な時刻だった。そこで、前回訪れて内部が見られなかったコルガルフ城に行くことにした。

  しかし、地図を見れば、まだ一度も走ったことがない山道を50マイル(約80km)ほど南下しなければならない。理論的には平均時速50マイル(約80km/h)で走行すれば1時間後にはコルガルフ城に着く。4月からヒストリック・スコットランド関係の施設の開館時間が朝9時30分から午後6時30分までに延長されたが、閉館30分までに入場しなければならない。まだ2時間ほどの余裕があったが、6時30分にコルガルフ城を出ると、今度はアバディーン到着は8時を過ぎてしまう。「時間との勝負だね」などといいながら、とりあえずコルガルフ城を目指した。

  ダラス・デュを出てすぐ山道になる。まわりは雪景色に変わる。A940はダヴァ(Dava)という町でA939に合流する。ずーっと山岳地帯を走る。そのあとグランタウン−オン−スペイ(Grantown-on Spey)という町の先でA95に乗り換えて、またA939に戻る。このあたりの道は標高も高くなり、起伏も激しい。徐々に登ったかと思えばグーッと下がるような道が続く。落差20%という坂もある。トミンチュール(Tomintoul)という町を越えたあたりから、起伏の激しい道路とは裏腹に、視界が広がり、最高の風景を楽しむことができる。いわばスカイライン。真っ青な空とあたり一面の銀世界。左手は崖(これは恐い)。50分も走った頃、左手の山肌にリフトが見えてきた。「スキー場じゃない?」と話しながら近づくと、やはりスキー場だった(Lecht Sky Area。これってもしかしてあのレヒト少佐にちなんだ名前?)。そのスキー場を過ぎると今度はどんどん山道を下る。緩やかなカーブを曲がって眼下に広がったものは、コルガルフ城を中心とする田園風景だった。前回とは逆の方向からコルガルフ城へ接近したのであるが、今回のルートの方がはるかに絶景で感動的だ。

  午後5時コルガルフ城の駐車場に到着。
  前回エントランス付近の牧草にいたあの羊たちは今日はいない。そのかわり、前回はあまりなかった雪が一面に残っている。

  早速、お城の入り口を目指す。『今日こそ中に入れるだろうな』と思っていると、先に行った子供達が「あいてたよ」と一声。
  中に入るとすぐに受付兼売店。フレンド会員証を示す(一般の場合は大人£2.50、子供£1.00)。ここの受付の女性もフレンドリーで「今日はどこか行ってきたの?」と聞いてきた。今日一日の行程を話し、ここがグランピアンにある施設の最後だよというと、目を丸くして驚いていた。

  お城の内部は、1912年まで使われていたということもあり、完全な形で残されている。兵士達の駐留所だったこともあって、兵士の部屋にはベッドやテーブル、カバンなどの備品などもあった(たぶんレプリカだろうけれど)。また窓から見る景色は何とものどかだった。

       
この日はお城の裏に数頭の羊がいました

  このお城は城郭を持つ。その形は星形である。我々はすぐ五稜郭を思い出した。しかしここの城郭は五稜郭のように5角形ではなく、長方形の各辺の中央が尖った8角形だ。そしてその壁には、いくつもの銃口用の切れ目が入っている。
  帰り際、受付の女性が「出て右側に蒸留室があるから見ていってね」と教えてくれた。その蒸留室は、先ほど見たダラス・デュの施設のミニチュア版といった感じで、狭い部屋ながら、たしかにお酒を造るのに必要なものが揃っていた(かわいらしいスチルまであった)。

  まだ日の高い、午後6時、「来て良かったね」と話し合いながら帰路についた。アバディーン到着は午後7時を20分ほどまわっていた。


[2回目のルート]
Aberdeen-(A944-A97)[42.2miles]-Kildrummy Castle-(A97-B9002-A941-B9014)[29miles]-Balvenie Castle-(B9014-A941)[23.7miles]-Elgin Cathedral-(A96-A940)[14.5miles]-Dallas Dhu Distillery-(A940-A939-A95-A939)[47.4miles]-Corgarff Castle-(A939-A944-A97-A944)[57.7miles]-Aberdeen[Mileage:214.5miles]

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