プライマリー・リポート

  5月ももうすぐ終わろうとしている時期に、子供達がそれぞれに封筒に入った書類を持ち帰ってきた。その中身は「プライマリー・リポート」であった。

  プライマリー・リポートは、日本でいう「通知表」に相当する。しかし、何もかもが違っているといっても過言ではない。

  まず、その時期。子供達が通う学校は6月29日が終業である。終業までまだ一ヶ月以上あるこの時期に、通知表が配付されたのである。これは今までもらったことはなかったので、年1回もらうもののようだ。しかもこれは返却の必要はない。
  次に、その書式。中身はともかく、日本のように学校独自に作成したものではなく、アバディーン市役所教育局のヘッダーが付いたもので、アバディーン市のプライマリー全体が同じ書式の用紙を使っていることが伺える。
  さらに、評価に比べて担任のコメントの割合が非常に多いということである。日本のように、あらかじめ印刷されている「生活の様子」の一覧から、「よくできる」「ふつう」「もっとがんばろう」などという項目に○を付ける形式ではなく、とにかく担任が気付いたことを書くといった形式だ。長女の担任はワープロで作成していたが、長男と次女のものは手書きだ。これを25名程度、一人一人書くのだから、担任の苦労がわかる。


Primary Report

  日本にない特徴は、このプライマリー・リポートとともに、評価についての疑問を学校にフィードバックする3枚複写の用紙が入っていたことであった。これは、各科目ごとに、評価に疑問があればその科目のチェック欄にチェックするか、あるいはコメントを書くことになっている。コメントがなくても、署名をして、その用紙の下2枚は学校に提出しなければならない(上の1枚は親の控だ)。この用紙のヘッダーもアバディーン市役所教育局となっているので、2枚のうち1枚は学校、残りは教育局に渡されるのだろう。

  子供達が持ち帰った封筒には、父母面談の日程が記載された案内も同封されていた。児童1名あたり10分で、放課後実施される。小生の子供の中で一番遅い面接時間は7時である。プライマリー・リポートと親からの質問票に基づいて面接が行われるというわけだ。

  さて、そのプライマリー・リポート。これには担任のコメント以外に、評価対象と評価水準、そして評価尺度が示されているが、それぞれの意味についても別紙で解説書が添付されているという念の入れようだ。
  まず評価対象。
  これは、国語(Language、小生の子供の場合は英語ということになる)、算数、環境科目(Envirnmental Studies:いわゆる環境教育ではなく、日本の社会、理科に相当する)、表現法(Expressive Arts:音楽、図画工作)、そして宗教道徳科目である。

  次に、評価基準。
  これは、スコットランド教育局(the Scottish Office Education Department)が定めたガイドライン(指針)に沿って、次のように分類されている。
WTA Level Aのための準備段階(Working towards level A
Level A 1年から3年のほとんどすべての児童が達成すべき水準
Level B 3年の一部の児童が達成できるが、ほとんどは4年の児童が達成すべき水準
Level C 4年から6年のほとんどの児童が達成すべき水準
Level D 5年、6年の一部の児童が達成できるが、ほとんどは7年の児童が達成すべき水準
Level E 7年と中学(セカンダリー)1年の一部の児童が達成できるが、ほとんどは中学2年の児童が達成すべき水準

  もし、Level Bを達成できると見なされる場合、その児童は自動的にLevel Cの内容に進むことになるという。その水準は担任が決めるのだろう。子供達によれば、一つのクラスで3〜4のグループが作られているという。これはいくつかのレベルに合わせて勉強するためのグループ分けだったわけだ。

  最後は評価尺度。
  これはそのレベルの内容のどの程度を達成できたかを6段階で評価したものである。その評価は「effort」と表現されている。「努力の程度」といった具合だろう。その6段階は次のように規定されている。
 6  ほとんどの時間、間断なく熱中して勉強し、そして課題に取り組むことについて自発的である。
 5 一般的に、勉強に集中するためのほんの少しの注意を受けながら自覚して勉強する。
 4 勉強に集中するための注意は必要であるが、申し分のない、そして指導に従った勉強をしている。
 3 勉強に集中するためのより多くの注意を必要とするが、一般的に勉強ができる。
 2 コンスタントな注意が必要であり、一定の基準の勉強を行うことができない。
 1 一般的に勉強を遂行することができず、一定の基準での他の児童の勉強が混乱する原因になる。

  なかなか興味深いのは、6から3までは「勉強ができる」という肯定的表現を使っており、2と1は「できない」と否定的表現を使っていることだ。ということは、6から3までが「合格」といったところだろうか(ただし「一定の基準(regular basis)」がどのような基準なのかはわからない)。

  我が家の子供達は、言葉の壁があるので、学年に見合った評価基準での内容を勉強することはできない。しかし、プライマリー・リポートを見れば、水準は低いものの、評価尺度は「5」が多い。それなりにがんばっているといったところだろうか(ハハハ、親の欲目)。

  子供達がもらってきたプライマリー・リポートを日本語にしてみた。これは、子供達にも読ませるためもあるが、何より、面接に備えて、書いてあることをそしゃくし、何か質問を考えなければならないという、小生の切実な思いもあった。よく読んでみると、3つのリポートそれぞれに共通することは「enjoy」という言葉が多く使われていることだった。この言葉は、いうまでもなく「楽しむ」という意味だが、「喜んでそれをやったか」ということを担任は見ていたのだ。日本語でエンジョイというと、どうも遊びの言葉としてイメージしてしまうが、勉強もエンジョイするという表現はいい得て妙だ(理屈の上では、本来勉強は楽しいものというが、本当だろうかという思いが強い、個人的には。やらされているというイメージが強かったので)。
  翻訳後、子供達に「ホームページで公表してもいい?」と聞いたところ、OKの返事をもらったので、個人名を伏せてその全文を公表することにした。

  しかし一言コメントすれば、「日本もこんな評価制度を採用すればいい」とは思っていない。教育制度の歴史的、社会的前提が違っているのだから、英国には英国の、日本には日本の教育制度があっていいし、もし英国流の評価制度を日本にも導入するのであれば、教育制度全体の改革が必要だろう。したがって「こんな評価制度もあるんだなあ」程度に読んでいただければ幸いだし、それが真意でもある。
  それでも「日本よりはいいなあ」と思うとすれば・・・。あとは皆さんの考え方次第ということで・・・。

  ちなみに当地の新聞によれば、その激務と努力に見合わない給料のせいで、辞めたいと思っている教師が相当程度いるらしい(日本と同じかな?)。


5年プライマリー・リポート 3年プライマリー・リポート ナーサリー・リポート

グラッシュバーン・スクール紹介

Turn To Top