ナショナル・トラスト・フォー・スコットランド(NTS)は、HS(ヒストリック・スコットランド)と同じように、スコットランドの歴史的遺産や自然を保護しようという財団である。
  NTSの存在については日本にいるときに知り合いから聞いていたし、当地に来てからもよく見聞きし、会員になろうかなとは思っていた。しかし結果的には会員登録したのは、アバディーン滞在も8ヶ月を過ぎた頃であった。これには、もちろん理由があった。我々がアバディーンに来たのは8月。ロードマップを買い、ようやくアバディーンやグランピアン地方の地理がわかり始めたのは10月下旬。その時にはすでにNTSの施設は冬期休業に入っていたのである。しかもそれらの施設がオープンするのは、ほとんどが4月下旬(イースターウィークエンド以降というのが多い)。もちろん会員の最低期間は1年なので、いつ会員になっても良かったが、実際に施設が見られるようになる時期まで待つことにしたわけである。
  我々はNTS管轄のお城のうち、2番目に訪れたドラム城で手続きをした。お城の前に、「今なら3ヶ月分が無料!」という会員加入ポスターが貼ってあった。よく見ると年会費が正規の会費から3ヶ月分が無料になるという。家族会員は正規では£45.00。それが£33.75になる。1ヶ月£3.75で3ヶ月分は£11.25。これがディスカウントされて£33.75になるわけだ。ちなみに、25歳以下の会員は年間£12.00(割引価格£9.00)、普通会員は£27.00(割引価格£20.25)である。
  ところが、手続きをして気付いたことなのだが、この割引を受けられるのはダイレクト・デビット(Direct Debit:口座振替)を利用して会費を支払う場合に限られるのであった。現金やカードの支払いでは割引を受けられない。ということは、この割引を受けられるのは英国内の銀行に口座がある者のみということになる。その事情を知らなかった小生も、最初は例のスウィッチで会費を支払おうとした。係りの男性も最初はスウィッチでの支払いを条件に書類を作成した。しかしキャッシュ・カードを提示すると、その男性は「ここに銀行口座を持っているならダイレクト・デビットにした方がお得ですよ」といって書類を再度作成した。初めから割り引きを期待していたので異存はない。ここで申込書の写しをもらう。これが仮の会員証になる。正式な会員証はほぼ2週間後に手元に届いた。
  ちなみに、NTS管轄下のお城・庭園の入場料は、2000年は18歳以下の子供は無料とのことだった(だから最初に見たクラスィス城の入場料は大人分だけだったわけだ)。また、HS(ヒストリック・スコットランド)のような売店での買い物に対する割引制度はない。

  手続きと同時にもらった『ガイド2000年版』(Guide 2000)を見てみると、NTS管轄の施設はスコットランド全土で112ヶ所。それはお城の場合もあれば庭園もある。はたまた歴史的に重要な土地(たとえば戦場)や自然環境を保存すべき土地なども含まれている。
  その中でアバディーン・グランピアン地方にある施設は次の10ヶ所である。

フレイザー城と庭園
Castle Fraser & Garden
カッスル・トレイル 大人£5 ハッドー・ハウス
Haddo House
カッスル・トレイル 大人£5
クレイギーヴァー城
Craigivar Castle
カッスル・トレイル 大人£6 リース・ホールと庭園
Leith Hall & Garden
カッスル・トレイル 大人£6
クラスィス城と庭園
Crathes Castle & Garden
大人£6 ピットメデン庭園
Pitmedden Garden
大人£4
ドラム城と庭園
Drum Castle & Garden
大人£5 マー・ロッジ
Mar Lodge Estate
なし
ファイヴィー城
Fyvie Castle
カッスル・トレイル 大人£6 プロヴォスト・ロス邸
Provost Ross's House
なし

  10ヶ所のうち5ヶ所がカッスル・トレイルに含まれている。
  プロヴォスト・ロス邸は、1593年に建てられた、アバディーンに現存する3番目に古い建物である。もちろん老朽化が激しいのだが、この建物は、アバディーン海事博物館(Aberdeen Maritime Museum)の一部として利用されている。我々はすでにアバディーン海事博物館を訪れており、その時にこの建物を見てきた。なお、プロヴォストは市長の意味なので、16世紀末のロス・アバディーン市長の家ということになる。
  マー・ロッジ(Mar Lodge Estate)もまた、グランピアンにあるNTSの施設とはいえ、『ガイド2000』によれば、これは、29,380ヘクタール(72,598エーカー)もある広大な土地である。場所はブレイマー(Braemar)の西5マイルでケアンゴーム(Cairngorms)といわれる地帯の一部らしい。この地帯には英国でもっとも高い山のうち5つが含まれているという。散策路はあるらしいが、ビジターセンターなどの施設は一切ないとのことなので、子供連れの我々には不向きだろう。

  さて、NTSの施設は、HSとは違って、お城とはいっても廃墟ではない。つい最近までちゃんと人が住んでいたお城なのである。つまり「屋根付き」なのである。しかも広大な庭園もある。こんな環境にある施設が多いのだから、そこで何かイベントをやってもおかしくない。

  NTSの施設に行くと、『What's on 2000』という冊子が置いてある。無料なのでいつでも何冊でももらうことができる(一人で2冊はいらないけれど)。この冊子は94ページもあるが、その内容は、地域ごと、月ごとに分類されたイベントが記載されているのである(だいたいが週末にイベントが組まれている)。
  たとえば、アバディーン・グランピアン地方の施設で、4月21日の土曜日には、イースター関連のイベントが4ヶ所で開催された。22日には1ヶ所、23日には6ヶ所、イースターマンディの24日には1ヶ所、30日には3ヶ所でイベントが行われた。そのイベントは、ヒヨコ探しあり(これはイースター関連)、中世の兵士のデモンストレーションあり、コンサートありウォーキングあり、と多種多様だ。これは、HSの施設ではなかなかできないことだ。ここに、NTSとHSとの違いがある。
  また、HS管轄の遺跡・史跡には売店やトイレがないところが圧倒的に多い。売店はまだしも、トイレがないというのには苦労させられた。入場料を必要とするところには必ず売店がある。そして売店があるところにはトイレがある場合が多かった(売店の係員も利用するのだろう)。しかしその数は少なかったため、街道沿いの公衆トイレを探すこともあったし(見付けたもののクローズしていることもあった)、売店がある史跡までじっと我慢することもあった。
  しかし、NTSの施設は、まず間違いなく売店もトイレもある。これはすこぶる安心であった。

  ついでにいえば、NTSはHSに比べて入場料が高い。これは各施設に説明要員がいて、いつでも質問に答える体制ができているからだろう。何しろ、各施設の各部屋に係員が配置されているのである。調度品などの盗難防止の意味もあるのだろうが、とにかく係員が多い。極端なことをいえば、HSは、そこにストーンサークルがあるだけである。たとえ入場料を払う施設であっても、売店に一人いるだけで、あとは誰もいない(もちろん盗難にあうだけのものもないのだが)。
  NTSの入場料の高さは決して施設に見合っていないということではない。HSに比べて高いというだけである。むしろそれだけを支払っても見るべき価値は十分ある。それだけのものがあるからそれなりの入場料が必要だともいえるわけだ。

  我々のNTS巡りもまた、HSと同じように、アバディーン・グランピアン地方の施設を巡ることから始めることにした。しかし、フレイザー城、クレイギーヴァー城、ファイヴィー城、ハッドー・ハウスそしてリース・ホールはカッスル・トレイルの一部なのでそちらで紹介することにする。ここで紹介する施設は次の3つである。

クラスィス城と庭園 ドラム城と庭園 ピットメデン庭園

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