ピットメデン庭園(Pitmedden Garden)

  NTS管轄の施設は、お城ばかりではなく、自然環境や庭園なども多いようだ。NTSのお城を巡っていて気付いたことだが、NTS管轄のお城は、決まって立派な庭園を持っていて、それがまた、庭園管理者の手によって見事に管理されている。

  そうした中で、このピットメデン庭園は、庭園そのものがNTSの管轄になっている。

  この庭園は、アバディーンの自宅からは、A90−B999のルートをとる。ピットメデンの町に入ってB999とA920が交わるところに庭園への道標が見え、それをA920に乗り換えるとすぐ庭園だ。自宅からは、ちょうど14マイル、25分ほどである。ちなみに、ピットメデンを過ぎてB999を少し行くとトルクホン城、さらにターベス中世の墓標、そしてターベスを過ぎてB9170を走ると、じきにハドー・ハウスにいたる。アバディーンからは日帰りで4つの史跡・名所が見られる、観光銀座通りの一つがこのB999だ。

  さて我々がピットメデン庭園を訪れたのは、お花の時期にはまだ早いかな、と思われる5月の初旬だった。しかしこの日は、この庭園で、午後2時30分から4時30分まで音楽のコンサートが開かれることになっていたので、それを聞きに行くことも目的の一つだった。この日のイベントは『What's on 2000』によれば、エアーズ&グレース(Airs & Grace)という、北東スコットランド(いわばアバディーン周辺)で有名な二人組で、私的なリサイタルをグレート・ガーデンで開くということだった。広い庭園でいい歌声が聞けるかなと楽しみにしていた。 
  ピットメデン庭園に着いたのは、3時半少し前。この日は、午前中こそ曇り空だったが、午後から太陽の光がまぶしく、最高気温の予報は15度だったが、暑く感じるほどだった。庭園でのんびりするには最高の日和だ。
  駐車場には結構な数の車が停まっていた。我々はまず、売店がある管理棟に行って会員証を提示した。あまりに暑かったので、売店でアイスクリームを買った。NTS管轄の施設なので、HSで買って食べたハントリー特製アイスクリームではなく、アバディーンシャーでは有名な会社のアイスクリームが置いてあった。ちなみに、ここの受付のお嬢さんは笑顔が可愛い若いお嬢さんだ。
  それにしてもスコットランドのこういった施設でいつも思うことながら、別に入場料を支払わなくても自由に入れるような構造で、『こんなもので大丈夫なのだろうか』と思ってしまう。基本的に性善説に立っているのだろうか。

  アイスクリームを持って庭園の中に入り、早速アイスクリームを食べる。これもよく思うことだが、日本の観光施設では食料品の持ち込みは厳禁されていることが多いが、スコットランドではそういうことはほとんどない。もちろん、調度品が展示してあるお城などでは、写真を撮ることも、食べることも厳禁だが、庭園などは制限はない(ただし、どの庭園にも犬を連れて入ることは禁止されている)。
  我々がアイスクリームを食べた場所は、グレート・ガーデンへのゲートウェイの前だった。その右手にはハーブ庭園(Herb Parterre)、左手には石の庭園(Stones Parterre)がある。アイスクリームを食べて、右手のハーブ庭園に行ってみると、何やら書いてある。読んでみると、そのハーブ庭園に中につがいのオイスターキャッチャー(Oystercatcher)という鳥が巣を作っているので近づかないようにと書いてあった。その鳥の名前は知らなかったが、見てみると、自宅周辺でも最近よく見る、くちばしが長くオレンジ色で、体はマグピーによく似た黒と白の鳥だった。近づこうとすると激しく鳴いてくる。威嚇しているような感じだ。我々は、遠くの方からしばしオイスターキャッチャーを観察した(それにしてもこの鳥の名前からして、牡蛎を採って食べるのだろうか)。

  さてメインは、グレート・ガーデン。
  ここは、そもそも、アレクサンダー・セトン卿(Sir Alexander Seton)によって1675年に作られたもので、エディンバラのホリールード宮殿の庭園を模したものだという(エディンバラには行ったものの残念ながらその庭園には行かなかった)。NTSがこの庭園を管理するようになったのは1952年からである。その広さは40ヘクタール(100エーカー)。しかし、単に広いというわけではなく、よくまとまっているのでそんなに広さは感じないから不思議だ。


セトン庭園

ライオン庭園

デイジー庭園

  ゲートウェイとグレート・ガーデンには段差があるので(ゲートウェイからは階段でグレート・ガーデンに下りる)、ゲートウェイからグレート・ガーデンを見下ろすことができる。これがすこぶるきれい。4つのガーデンがそれぞれ迷路のような形で模様が作られている。その模様は、なんと垣根で作られているのだ。その造形美といったら例えようがない。6月ぐらいに来れば、その模様の間に、花々が植えられ、色とりどりでそれはそれで美しいのだろうが、グリーン一色の庭園も趣がある。その垣根が高いものと低いものにきれいに分けられて手入れされている。どんな種類の木によって作られているのかわからなかったが、低いものは一様に背丈30センチほどに揃えられている。


見事な手入れの垣根

石の庭園(植樹中のようだ)

壁にはわせたリンゴの木

  グレート・ガーデンにある4つに区分された庭園は、それぞれに名前があって、ゲートウェイから見て前方左がセトン庭園(Seton Parterre)、その奥がライオン庭園(Lion Paerterre)、前方右がデイジー庭園(Daisy Parterre)、その奥はテンペス・フジット庭園(Tempus Fugit Parterre)だ。セトン庭園には二つのエンブレムが形作られている。つまりそのエンブレムとは、セントアンドリュースとセッソー(つまりアザミ)である。ライオンガーデンは中央にライオンの像が建ててある。デイジー庭園は、垣根が雛菊の模様に形成されている。そしてテンペス・フジット庭園は、テンペス・フジットがどんな意味なのかわからなかったが、その文字が垣根で作られていた。

  グレート・ガーデンは、もちろん、その迷路のような垣根のまわりを散策できるのだが、やはり、ゲートウェイから一望した方がいい。こういう庭園を見ると、日本の庭園とはまったく発想が異なることに気付く。日本の庭園美はそのバランスの良さにあるが(よくわからないがいわゆる侘び寂びの世界)、当地の庭園は、人工的な模様の美しさ、配色に気を使っているように思う。

  ところで、例のコンサート。我々が到着したときにはグレート・ガーデンには音楽の「お」の字もなく、内心『またやられたかな』と思った。というのも、フレイザー城を訪れたとき、出演者のドタキャンでリサイタルが中止になっていたからである。しかし、しばらく庭園内を散策していると、どこからともなく、笛の音色が聞こえてきた。その音の方向に歩いていくと、ファームハウス(Farmhouse)と書かれた建物の前で、初老の男性と、それよりはちょっと若い女性が、笛(男性)とアコーディオン(女性)で、伝統的なスコットランドのダンス音楽を奏でていた(歌のコンサートではなかったわけだ)。聴衆はたった4名。そこに我々がいったのだから聴衆が倍増。しばし聞き惚れる。どうしてスコットランドの音楽の曲調は日本の曲調に似ているのだろう。簡単に日本語の歌詞を付けることができそうで、かつてのフォークソングのメロディーを思わせる曲調だ。

  かみさんたちはその演奏を聴いていたが、小生は、そのファームハウス(農家ですね、これは)の奥にある博物館を見学。博物館とはいっても、要はこの地域の、伝統的な農機具などを展示しているものだった。馬が重要な動力として活躍していた時代のもの。この手の博物館は日本にもある。身近では北海道開拓の村。ま、機械化によって不要になったが、廃棄するのはもったいない、時代の移り変わりを後世に伝えようという展示博物館だ(博物館とはいってもほとんどが屋外)。

  戻ってくるとコンサートも終盤。最後の曲を聴いて、我々もこの庭園を後にした。快晴の空。日はまだずっと高いところにあった。

【ピットメデン庭園再訪】
  7月の中旬、ピットメデン庭園を再訪した。
  前回訪れた時には、垣根の緑が印象的だったが、今回は垣根の中に小さな花が植えられていた。ただ、前回は緑がきれいだった垣根は、やや色あせたように感じ、またきれいに剪定されていた垣根もやや形が崩れているように思えた。
  それでも、やっぱり全体的な造形美は素晴らしく、しばしゆっくりした時間の流れを満喫した。


植えられているのはマリーゴールド
      
リンゴの木の前にも花が咲いていた(リンゴの実もなっていた)。


クラスィス城と庭園 ドラム城と庭園

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