スカイ島計画

【第1日目】

  朝8時40分、我々はスカイ島に向けて出発した。
  例によって自宅からA90に入ってすぐにA96をインヴァーネス(Inverness)に向かう。以前は黄色や山吹色の花が沿道を埋め尽くしていたが、今回はマーガレットのような白い花が風に揺れていた。10時10分、フォッカバース(Fochabers)のバクスターズ(Baxters Visitor Centre)で休憩。11時15分インヴァーネス駅前通過。インヴァーネスからはA82に乗り換えてネス湖畔を走る。ネス湖畔の木々の緑も深みを増して、快適なドライブ。
  当初、昼食をアッカート城(Urquhart Castle)の駐車場で食べようと考えていた。しかし、その場所に到着するとバスやら乗用車の長蛇の列。昨年の10月には閑散としていたアッカート城も、観光客で溢れかえっていた。見れば大陸ナンバーの車も多い。
  「ネッシーのお陰だね。腐ってもネッシーさまさまだ。でも待っていても仕方がない。お城に入るわけでもないし。」
  ということで我々は、その駐車場に入ることを諦めてしばらく走り、「P」の標識のある、とある駐車スペースに停車して昼食を取ることにした。そこで40分ほど休憩。

  12時30分過ぎ、さらにA82を走ってネス湖に別れを告げてA887へ。ここからスカイ島まで西進することになる。A887はやがてA87に名前を変える。A87に名前を変えたと思ったら、左手に大きな湖が見えてきた。その湖にはダムが作られていた。
  A87は渓谷を走る道路である。曇り空ではあったが、青空も見え始め、日差しが強く感じられることもあった。車窓から見える風景は、ゴツゴツした岩が突き出て、山頂付近には緑がまったく見えない小高い禿げ山ばかり。しかし、ところどころに沢や小さな滝があり、風景としては申し分ない。そんな道を時速60マイルで走り抜ける。
  ネス湖畔から1時間も走ると、前方に海が見えてきた。左手に海を見ながら走り続けると、標識に「Skye Bridge」の文字が見えるようになった。1時45分、スカイ島に面する本島側の町、カイル・オブ・ロハルシュ(Kyle of Lochalsh)に到着。そこからスカイ・ブリッジ(Skye Bridge)が見えてきた。
  「あれがスカイ・ブリッジ? 思ったより短いね。通行料金を徴収すると聞いていたからもっと長い橋だと思っていたのに。」
  とはいえ、短くてホッとしたのも事実。小生、ちょっとだけ高所恐怖症。しかも橋脚が高い橋を渡ると今でも足が震えるほど。

  カイル・オブ・ロハルシュの町を道なりに進むと、そこには料金所があった。1時50分到着。アバディーンからは5時間10分、188.3マイルだった(約302q)。
  見れば普通乗用車は£5.70。そこで料金を支払っていよいよスカイ島へ。


カイル・オブ・ロハルシュから見たスカイ・ブリッジ(左手がスカイ島)

  スカイ・ブリッジは太鼓橋である。ずーっと上っていくような感じ。もちろん両側は海(小生は見ていない・・・)。歩いても渡れるようで、わざわざ歩いて橋の真ん中まで来て写真を撮っている人もいる。
  『よくやるなあ。』
  上ったと思ったら今度は下り。アッという間にスカイ島に上陸してしまった。時間にしてわずか1〜2分といったところだ。
  スカイ島に入ると、標識はゲール語と英語の二重表示に変わる。スカイ島は今でもゲール語を使っているという。ゲール語の地名表示の下に英語の表示がある(しかしどちらにしても発音しにくいことには違いはない)。
  スカイ島に入っても道路はA87。その道を最初のツーリスト・インフォメーションがあるブロードフォード(Broadford)に向かう。2時5分、ブロードフォードのツーリスト・インフォメーション前に到着。ここでトイレ休憩。
  「ホテルまではまだ距離があるけれど、結構早く着いたから、どこか見に行こうか。」
  といっては見たものの、天気は相変わらず曇り空。しかも風は冷たい。
  「ホテルの前の道を行くとダンヴェガン城がある。そこなら建物の中は寒くないだろうし、行くだけ行ってみよう。」
  15分後の2時20分に出発。A87を北進。スカイ島の山々(といってもそんなに高くはない)も、すべて禿げ山。見事に頂上ははげている。中腹ぐらいから灌木が生えている。しかし、同じ禿げ山でも、ネス湖からA87に入った時に見た禿げ山とは印象が違って、何か荒涼としている。そんな風景を見ながら車を走らせる。ところどころに草をはむ羊が見える。

  A87から今度はA863に入り、スカイ島の西側を走る。ストルアン(Struan)という集落に入って給油。ポンプが二つしかないスタンドに車を入れると中から無精ひげを生やしたおじさんが出てきて、勝手にタンクのふたを取って給油し始めた。当地に来て自分で給油することに慣れた小生は、人に給油してもらったことにちょっと驚き、そして感激(日本なら当たり前のことだけど)。
  「ウリニッシュ・ロッジ・ホテルはこの近くですよね。」
  「んじゃ、その先に看板があるじゃて。その看板を左に折れるんじゃ。なーに、ほんの1マイルだがな。はて、どれぐらい泊まるんじゃ?」
  「1泊だけですが。」
  「いいとこだよ。いいホリディになるといいね、ふにゃふにゃ。」
  後でロードアトラスを見ると、ストルアンと書かれたすぐ近くにウリニッシュ・ロッジ・ホテルの文字。
  「なーんだ、書いてあったのか。」

  ウリニッシュ・ロッジ・ホテルの看板を見ながらさらに車を走らせて3時22分、ダンヴェガン城に到着した。
  駐車場に車を停め、ファミリーチケット(£15)とガイドブック(2冊セット£3.5)を購入してお城に向かった。

Dunvegan Castle

  ダンヴェガン城(Dunvegan Castle)は、入り江に建つマクラウド(Macleod)家の住まいで、その歴史は13世紀まで遡れるという。外観は古色蒼然としている。雰囲気はよし。
  内部に入ると、部屋ごとにA4サイズのいくつかの言語で書かれたガイドがあった。日本語もあった。こんなところにも日本語のガイドがあるということはそれだけ日本人の訪問が多いということだ。4世紀頃まで遡れるフェアリー・フラッグ(The Fairy Flag)というボロボロの旗などはあるにはあったが、そんなに興味深いものも見当たらなかった。庭園も見たが、一様に緑の草花や木々ばかりで華やかさはなく(落ち着いた趣といえないこともないが)、1時間ほどでダンヴェガン城を後にした。

  ダンヴェガン城を出てA863をホテルの方向へ引き返した。もう4時30分をまわっていたので、一旦ホテルに入ろうということにしたわけである。
  ホテルの場所は先ほど看板で確認していたので20分ほど走ってホテル着。

  ウリニッシュ・ロッジ・ホテルはスカイ島の西側に面した海沿いに建っている、こじんまりとしたホテルだった。我々がドアを開けて入っていくと、そのホテルの主人と思しき男性が出てきて「ウェルカム、ミスター・オハラ」と握手を求めてきた。早速部屋に案内され、部屋の内部の説明をしてくれた。部屋の内部は、坂本さんがいっていたようにホントに清潔できれいだった。窓から外を見ると日も差し始めていた。


Ullinish Lodge Hotel
         
Reception

  夕食の時間を確認すると、7時からとなっていた。まだ2時間ほど先だ。
  「部屋にいてもつまんないから、ニースト・ポイントまで行って来るか。」

  ホテルを5時15分に出て、またまたA863をダンヴェガン方向に走る。しかし今度はダンヴェガンの手前で左に入るB884に乗り換えた。


コレは宿泊したホテル。こんな白壁の家がスカイ島
の特徴なのか、いたるところに点在している。

  坂本さんの情報では「スカイ島のB道路は一度試してみるといいですよ、でも、走行には注意して。何といってもスカイ島の羊たちは自動車をまったく恐れませんから」とのことだった。
  なるほどここのB道路は、これまで経験したどのB道路よりもスリル満点だった。まず、道幅は乗用車一台がやっと走れるほどしかない。しかも起伏が激しい。50〜100メートル間隔で待避所(Passing Place)が準備されている。つまり対向車が来たらそこで待っていてすれ違うわけである。万が一、双方の車がパッシング・プレイスのない場所で向かい合ったらどうするか。どちらかがバックするしかない。何度か経験したが、バックも容易ではなかった。車一台分しか道幅はないのだから。
  また、羊たちにも驚かされた。坂本情報のとおり、その狭い道のそばで草を食べているかと思えば、何喰わぬ顔で横断するものなど油断がならない。そのたびにこちらがブレーキを踏み、そのたびに停車しなければならなかった。

  対向車と羊にビクビクしながら30分ほど走ってニースト・ポイントの駐車場に到着。


こんな風景が見える
     
細い道が続くNeist Point。見える海の向こうはアメリカ!

  ニースト・ポイント(Neist Point)は、スカイ島の最西端である。最西端ということは、海の向こうはアメリカだ(ちょっとオーバー)。見える海は大西洋。

  ニースト・ポイントに到着した時間には、急速に青空が広がり、風も弱くなって最高の気分を味わうことができた。
  駐車場に車を停めて先端目指して歩く。左手には海に突きだした断崖絶壁と、手前には羊の群。先端に通じる通路のそばには、アザミが花開いているものもあった。思えば、スコットランドに来て、はじめて野に咲くアザミの花を見た。なかなか感動的である。空気は優しく、時折聞こえるのはカモメの鳴き声ぐらい。時間が止まっているように感じる。
  「来てよかったね」と子供達に話しかけると、「うん」と一言。そして深呼吸。

  6時15分、自動車に戻り、また対向車と羊に気を付けながらホテルを目指した。

  この日の走行距離289.3マイル(約463q)だった。


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