入学時の提出書類

  我が家の子供達の学校への入学手続きは、今から思えばずいぶん大胆だった。
  まず、通わせたい一番近くの小学校の校長(Head Teacher)宛、「子供達を入学させたい。ついては入学手続きの方法を教えてほしい」と手紙を書いた。ところが、一週間経っても返事がなかったので、直接小学校の事務窓口に行くと、「今日は時間が遅いので明日パスポートを持って来てほしい」といわれ、翌日学校に行くと、その場で手続きが始まったのである。これが極めてレアーなケースか、あるいは「本来的にそんなものなのか」はわからない。
  しかし、それでもちゃんと手続きが完了し、子供達が学校に通い始めたのだから、簡単だといえば簡単だ。

  入学手続きでは数枚の書類を作成することが求められた。事務職員から一枚ずつ書類が手渡され、いわれるままに記入するところは記入し、チェックするところはチェックした。中には『こんな事項、日本には絶対にないな』と思えるものもあったが、学校で記入し、そのまま提出したので控えは手元にはなかった。

  さて、我が家の子供達が通う学校は、プライマリーもナーサリーも、6月29日が終業である(終業式などあるのだろうか)。これで年度が終了し、8月中旬に、新学年に進級してまた新しい年度が始まることになる。
  5月末に、プライマリー・リポートに基づいて担任とのインタビューが終了したと思ったら、6月に入って数枚の書類が配付され作成が求められた。校長からのレターを読めば、卒業するP7以外の児童に関する情報を更新するため、配付した書類を作成し提出してほしいとしたためられていた。
  その書類を一瞥して、我々が入学手続きで作成した書類であることがわかった。つまり、新年度に向けて全児童の学校のデータを更新するために、入学時、そして昨年5月に提出した書類と同じものを、また作成させるというものであった。

  我々の子供は、この6月末で退学するので(小学校で早くも退学を経験する!)、改めて提出する必要もないのだが、読んでみると『そういえばこんなことを書かされたなあ』と思い出すことがたくさんあった。

  提出書類は、個人調書、緊急連絡先、緊急休校措置への対応の3種類。

  まず個人調書。これは、A4サイズ両面刷りのものが2枚にわたっている。氏名・住所などの基本的情報は日本と同じ。しかし、大きく異なる点が4点ある。
  一つ目は、個人調書の1ページ目の最初に、囲み付きで「この書式が1984年データ保護法に従っている」と書いてあること。これは公文書であり、その内容も取り扱いも法律に従うことが明記されているのである。個人情報は、プライバシーを保護するため取り扱いには注意が必要であることは当然だが、それを最初に記載している点は日本とは違うと思われる。
  二つ目は、2ページ目の「追加の父母に関する情報」。ここでは1ページ目に書いたものと同じ内容が示されているが、実はこれは、生みの親とその他の保護者との違いを明確にするための記載欄だった。今、その子供と一緒に生活して実際に面倒を見ている者を1ページ目に書き、1ページ目に書いた者と法的にその子供の親・養育者になっている者が違う場合、2ページ目にも書くのである。
  もっともわかりやすいケースがシングルマザーや離婚。とくに結婚した3組に1組は離婚に終わるというような話を聞くと、離婚が社会問題化しているというより、社会制度化していると思わずにはおれない。したがって、そういった親を持つ子供が多くなるのは当たり前で、それがこういった個人調書に反映されることになる。ついでにいえば、「親」は、Parents/Guardiansとなっており、「生みの親または法的な保護者」と表現されているのも日本とは違う点だろう。
  三つ目は、3ページ目。これこそ「英国だから」といえるような記載欄が並ぶ。まず、民族(Ethnic Origin)。バングラディッシュ人、アフリカ黒人、カリブ黒人、中国人、パキスタン人、ホワイト英国人が選択肢。英国が列強だった頃の植民地だったところが並んでいるが、ホワイト英国人(White UK)とはどんな人種なのか、いまだにわからない。ここには日本人はないのだから、「その他」に記載することになる。次に、母国語。これも17の言語が列挙されているが、聞いたこともないような言語が並んでいる。もちろんここにも日本語はないので、「その他」に記載することになる。最後は宗教。これなども日本では、あえてアンタッチャブルにしているが、当地ではそれを受け止め、その宗教の違いを学校が認識して尊重するという姿勢だ。
  四つ目は、4ページ目の第2項目「その他の情報」。思わず笑ってしまう内容が並んでいる。たとえば、「教職員の監督のもと、インターネットにアクセスしてもいいか」という質問。また、「校医の歯科検診を受けてもいいか」という質問。これも日本なら言わずもがなだ。そういったことに親の同意を必要としているから質問しているのだろうが、ちょっと笑ってしまう。

  第2の文書は緊急連絡先。これは日本と変わりないが、この用紙の最後のほうに「学校で吸入(Inhaler)は必要か」という質問がある。喘息(あるいは蓄膿?)の子供がそんなに多いのだろうか。

  第3の文書は、緊急休校措置に関する親の対応を聞いてくるというものだ。子供達が学校にいるとき、何らかの事情で緊急休校措置になる場合、親は子供の安全を確保するため、どのような対応をするかを聞くものである。これは最初にもらった「学校案内」に出ていたことだが、もっとも考えられるケースが、急激な気象の変化による暴風雪災害の恐れが発生した場合だ。幸いにして、この冬はそんなことはなかったが、子供達が学校に閉じこめられることだってあるわけだ。それに備えた調査といったところだ。札幌のほうがアバディーンよりも暴風雪の恐れは多いが、こんな取り決めをしていただろうか(ま、備え万全の都市だから暴風雪程度で休校にはならないか・・・)。

  それらは封筒に入れて提出することになっている。もちろんプライバシー保護のためだ。提出しなくてもいいだろうとは思ったが、一応作成し子供に持たせた、退学手続きの照会状も同封して。


個人調書 緊急連絡先 緊急休校措置

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