9.Singing Bird Clock

 当地に来て、いくつか時計を買った。その一つがSinging Bird Clockだ。この手の掛け時計は日本にもあるが、これは12種類の英国の野鳥が1時間毎に時刻を知らせてくれるもので、その鳥の絵も描いてあり「日本に持って帰ってもいいかな」と思い購入したものである(実は中国製だが)。この時計、特別なセンサーが付いており、暗くなるとセンサーが働き鳴き声が止まるという優れものである。

 時を知らせてくれる鳥たちは、12時がTawny Owl。黄褐色のフクロウだ。1時はズアオアトリ(Chaffinch)。この2羽はちょっと悲しげに鳴いて、晴れた日に聞くと気分が暗くなってしまうほどだ。2時はカッコウ(Cuckoo)、3時はシジュウカラ(Great Tit)、以下、キツツキ(Great Spotted Woodpecker)、ツグミ(Song Thrush)、フクロウ(Barn Owl)、ミソサザイ(Wren)、クロウタドリ(Blackbird)、青シジュウカラ(Blue Tit)、サヨナキドリ(Nightingale)、コマドリ(Robin)の順に並んでいる。元来、野鳥の種類などとんと不案内な小生ではあるが、こうして12種類の野鳥が描かれた時計を見ると、実際に見てその鳴き声を聞いてみたくなる。

 9月に入り、裏庭のリンゴの実が色付き始めると、夜も明けないうちから甲高い鳴き声が聞こえるようになった。よーく見てみるとクロウタドリ(ブラックバード)だ。くちばしだけが黄色で後は真っ黒。その容姿に似合わず、とても心地よい鳴き声を聞かせてくれる。アバディーンにはブラックバードが結構いるようで、大学でも木々の中からもその歌声が聞こえてくる。また、色付いたナナカマドからは、シジュウカラやコマドリの歌声も聞かれることもある。さらに、その名前も知らない小鳥たちがその声を競っている。まったく自然がいっぱいだ。Singing Bird Clockのおかげで、英国の野鳥にも興味を持つことができた。「やっぱり買って良かったね」と家族と話したものである。

 しかしそれとは対照的に、この頃、我が家の鳥たちは、その鳴き声を聞かせてくれなくなった。電池が切れたわけでもなく、時計が壊れたわけでもない。9月上旬まで、アバディーンは毎日好天(日本とは逆の意味での異常気象)で、しかも朝は6時には明るく夜は9時頃まで明るかったので、朝8時のブラックバードから、夜7時のミソサザイまで、その鳴き声を聞くことができた。ところがその後、「普通のアバディーン」になり、朝は7時でも暗く、日中も曇り空とにわか雨のせいで薄暗く、夜も早くなった。もとよりこちらの明かりは電球でそんなに明るくはなく、しかも傘をかぶっているので光はごく限られた範囲にしか届かない。もちろん時計に光を当てるような構造にはなっていない。優れものであるハズのセンサーが「まだ暗いから鳴くのはおよしなさい」といって鳥たちのさえずりを止めているのだった。

 これから本格的な冬に向かう。ますます日の光がささない毎日が続くハズだ。その間、我が家の鳥たちは「冬眠」に入ることになるのだろうか。

 今年は幸いにして好天が続いたから良かったものの、平年なら、アバディーンでこんな時計を買ってもほとんど鳴き声が聞こえないのではないだろうか。

 そして今日もまた、センサーは忠実にその仕事を遂行しているのである。[7/Oct/1999]


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