8.アルバイトはいかが?

 先日、トイザラスに行った。すると、出口付近に大きな看板が立てかけてあった。その見出しは「あなたもこんなに稼げる!」。そうなのだ、これはクリスマス商戦を控えてのアルバイトの募集の看板だった。

 9月に入って目についたのは、どのお店でもクリスマス関連の商品を店頭に並べ始めたことである。日本では9月といえばまだ残暑があり、とてもクリスマスなどという気分にはなれない。何よりもクリスマスの前にやることがいっぱいある。9月はお月見がある。また地方によっては秋の収穫の頃、芋煮会なる行事もある。紅葉の頃には山への行楽、北海道では観楓会もあって、もっともいい季節が9月10月だ。11月はちょっと休んで12月に入れば忘年会。その流れでクリスマスに突入。つまり日本では、クリスマスはその年の秋から冬にかけての一連の行事の締めくくりとして位置付けられている。いわば季節の風物詩の一つなのである(俳句の季語にクリスマスがあること自体がそれを物語っている)。
 ところが、アバディーンでは、8月の夏物商戦が終わるやいなやクリスマスである。クリスマスは3ヶ月も先である。それにもかかわらず、店ではクリスマス飾りやカードが「今ならお得!」というタグとともに飾られている。

 アバディーンにきて、事前の準備が足りなかったと思うことがしばしばある。その一つがスコットランド、ひいては英国の所得水準や失業率など労働に関するデータである。それなくしてお金の話は先に進まない。というより薄っぺらな話に留まってしまう。そこで大学のBookstoreでそれに関する本を探し出し(新学期なのでテキストが山積み)、ちょっと勉強してみた。

 テキストは“The New British Politics”(Budge.I,Crewe.I,McKay.D and Newton.K ed.,Pearson Education Lid, 1998)。
 データはやや古いが、傾向を探るには問題ないかもしれない。

 まずスコットランド全体の1991年の男性の1週間の平均所得は£297.9。女性は£206.5。アバディーンがある地域はグランピアンで、このグランピアンの1週間の平均所得は、男性が£363.7(女性のデータはない)。£363.7という数字はスコットランドでずば抜けて高い(これは北海油田の影響が大きいかもしれない)。さらに失業率は、全体で9.7%(1993年)、グランピアンでは8.2%でこれはスコットランドでもっとも低い。また余談ながら大卒の労働者はスコットランド全体で7.3%であるのに対してグランピアンは6.2%である。
 さて、これと比較すべき英国全体のデータは、残念ながら入手できない。そこで、ロンドンが位置する地域(South-East)のデータを見てみると、この地域の1週間の平均所得は£368.7、大卒の労働者は13.6%だ。またサウス地区全体の失業率は12.2%である(ちなみに記憶は定かではないが、近年の失業率は、英国経済の好調に呼応して7%台にまで減少しているハズだ)。
 これらを見る限り、アバディーン周辺の所得はロンドン周辺の所得とほとんど変わらないことがわかる。ちょっと驚きだ。 

 閑話休題。トイザラスのこの冬のアルバイトの条件は、18歳、週39時間で、10月から12月までの3ヶ月間で£1,730、11月と12月の2ヶ月間で£1,155である。月割りにすると£577程度である。3ヶ月間フルに働くと13週間なので週£44.4。週39時間の勤務なので時給は£1.14。ちなみにアバディーンの中心部にあるショッピングセンターのパートタイムの時給は£3.5〜£3.8程度である。したがってトイザラスのアルバイトは時給に換算するといかにも安い。ここは期間限定しかも「3ヶ月間で£1,730、2ヶ月間で£1,155」というところに魅力があるというべきだろう。

 ところで、3ヶ月間で£1,730稼いだとしよう。これで何ができるか。たとえば、英国と日本の往復航空券が£470から£570程度である(学割を使えばもっと安い)。英国から見れば日本はまさに極東に位置する(つまり恐ろしく遠い)。そんなところに行くのでも£500程度である。ヨーロッパ諸国、中近東、アフリカ、そしてアメリカ(大西洋を一飛び)なら、確実に£400程度で往復できるのである。残りのバイト代は宿泊や観光に使える金額である。
 どうです、トイザラスアバディーン店でアルバイトしてみませんか。[6/Oct/1999]


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