7.銀行口座開設顛末記

 9月に入って、利便性を考えて3つあるスコットランドを本拠とする銀行の一つ、Bank of Scotlandに口座を開いた。
 ちなみに9月24日、資産総額英国第7位のBank of Scotland(世界ランキング77位)が資産総額で英国第2位(世界ランキング28位)のNatWestを株式の公開買い付けによって買収する意向であることが明らかになり、この日は朝からBBCをはじめ各局が報道したことは記憶に新しい(データはAmerican Bankerがこの8月に発表した1998年度ランキングによる)。「してやったりスコティッシュ」と応援するつもりはないが、このニュースを見たときは自分が口座を開いたばかりのこの銀行が頼もしく思えたものだ。

 アバディーン大学構内にはClydesdale BankとBank of Scotlandが支店を持っている。小生が口座を開いた支店名はその名もズバリUniversity Branch(大学支店)。実をいえば支店内に入るまでにちょっと躊躇した。というもの、この支店というのが造りが小さく小窓と入り口のドア以外花崗岩で囲まれており(当たり前だが)、中がまったく見えなかったからだ。

 中に入ると、外見とは違って幅は狭いものの奥行きがあって明るい。受付にいる若い女性行員に「当座預金口座を開きたいのだが」と告げ、入手したばかりの大学のIDカードをこれ見よがしにちらつかせると「大学の方ですね」という。『よし、順調にいくぞ』と思い、にこやかに「そうだ」というと、「それでは身元確認のために大学との契約書が必要です」という。
『???』。
「契約書を持ってまた来て下さい」といわれて、腑に落ちないながら「OK」といってしまい、トボトボと支店を出た。外に出て『契約書って何だろう』と考えると、どうやら彼女は小生を大学の正規の(少なくとも雇用契約を結んだ)教員と勘違いしたらしい。だから大学との雇用契約書を持ってこいといったのだと気付く。小生、特別研究員の資格なので契約書などない。そこでまた支店に引き返した。
 再び女性行員との会話。「私、特別研究員、契約書、ない。これ(といってInvitation Letterを見せ)、招聘状、これでダメあるか」(と彼女には聞こえたかもしれない)。招聘状をしばし読んだ行員は「ちょっと待っていて下さい。上司に聞いてみます」といって奥に行った。数分後、戻ってきた彼女は「これでオーケーです」といって、「コピーをとりますので、パスポート、招聘状、住所確認のための書類を貸して下さい」といってくれた(小生、ホッと一息)。これらの書類が必要なことは英国での暮らし方のガイドブックに記載されていたので、あらかじめカバンに入れていた。いわれたとおり、パスポート、招聘状、BTの請求書(最初の通話料金の請求書が届いたばかりだった)を行員に差し出す。それを受け取った行員は、また席を立ち奥へ(奥にコピー機があるらしい)。
 コピーを持って席に戻った彼女は、パスポート、招聘状、BTの請求書を返してくれ、「それでは手続きをしましょう」といって脇にあるパソコンの端末に向かう。この画面は小生にも(つまり顧客にも)確認できるようになっている。データベースソフトで作った顧客名簿だ。最初のうちは、コピーを見ながら小生に関するデータを一所懸命打ち込んでいた。

 面白かったのは、彼女が一通りデータを打ち込んだあとだった。一枚のシートをくれて「これに記入して下さい」という。「いいですよ」と答えてシートに目をやる。『何々・・・、何だ、生まれた場所? えっ、最初に通った学校の名前? そしておふくろの旧姓だと? こんなこと聞いてどうするんだ』と思いちょっと戸惑ったものの、出生地、小学校の名前、おふくろの旧姓を記入して提出。次に書かされたものは日本での住所。これを受け取った行員は、また顧客名簿に打ち込む。さらに女性行員は「この口座は何のために開くのですか」と質問。小生「私のサラリー、受け取る、日本から。あなた、サラリー、わかるあるか。ペイメント、私に対する。私、困る、もし口座がないと」(と彼女には聞こえたかもしれない)。行員はニッコリとうなずく。「何かお聞きになりたいことはありますか」といわれたので、とっさに「これで、バンクカードと小切手、使えるあるか」と尋ねた。彼女はにこやかに「そうです。バンクカードは1週間以内、小切手は2週間後に届きます」といってまた奥に消えた。『そうか、やっと手続きが終わったな』と思い彼女を待った。すぐに戻った行員は「これで終わ りですが最後に一つお聞かせ下さい。当行を選んでいただいたきっかけは何ですか」。「私の友達、紹介」と小生。「わかりました、当行のご利用、誠にありがとうございます。これがあなた様の口座番号とソートコードです」といって名刺に小生の口座番号とソートコードを書いて手渡してくれた。ちなみにソートコードは、日本の銀行の支店の認識番号にあたるらしい。
 そのあといくらか記念に入金していこうと思い、「入金、いまできるあるか。私、お金ある」(と彼女には聞こえたかもしれない)というと奥のカウンターを指差してくれた。『そうか入金する係はまた別なのか』と思いながら、そのコーナーに行き、いましがたもらったばかりの口座番号が書かれた紙片とお金を差し出して入金。この日はこれで終わり。所要時間は30分ぐらいだったかもしれない。

 手続きの3日後、早速バンクカード(日本でいうキャッシュカード)が届いた。それと同じ日に別便で案内書も届いた。その案内書は電話取引のための案内書で、セキュリティーを万全なものにするために、今すぐ電話して下さいというものだった。電話取引とは、いわゆるテレフォンバンキングのことで、電話一本で口座残高(通帳はなく毎月取引明細書が送付される)、振替、送金などができるサービスだ。小生、そんな大それたことをするつもりはなかったが、いろいろ読んでみると、電話しなければカードも小切手も使えないような気になり、説明書を読んでみた。そこには電話取引のため5〜8文字のPIN(Personal Identification Number)を決めて伝えてほしいと書いてあった。小生、citibankの利用でPINを使っていたのでPINの役割は知っていたが、困った問題が一つあった。それは、こんな大事なことを電話で伝えられるかということであった。

 指定された番号に電話。すぐコンピュータ音声。解説書にはそのまま聞いていればオペレータにつながると書いてあったのでしばし聞いていると声が変わった。「ありがとうございます。Bank of Scotlandです。どんなご用件でしょうか」(といったと思う)。「私、お伝えしたい、PIN」。「ペラペラペラペラ」(と何かいってる)。「私、非英語圏から来た、どうぞ、ゆっくり話して下さい」と小生。「了解しました。そ、れ、で、は、ま、ず、あ、な、た、の、う、ま、れ、た、ば、しょ、を、おっ、しゃっ、て、下、さ、い」。『何だって、生まれた場所?どこかで聞かれたぞ』と思いながらも答える。「つ、ぎ、は(面倒なのでカンマ省略)、最初の学校は?」小生答える。「お母さんの旧姓は?」小生答える。「PINをどうぞ」小生答える。その後何かしゃべっていたが、いまではまったく思い出せない。ただ、カードの暗証番号のことが気になっていたので質問した。すると、小生が非英語圏から来たことをすっかり忘れてしまったオペレーターは「ペラペラペラペラ」。一言「another mail」という言葉が聞き取れたので「届くあるか、暗証番号、別便、後日」(と彼女には聞こえたかもしれない)と聞き返すと「イエース」と応答。こちらもにこやかに「サンキュー!」といって受話器を置いた。

 その3日後暗証番号(Password)が届いた。こちらでは暗証番号は銀行が決めたものを使う(変更も可能らしいが小生はしていない)。そしてその1週間後小切手帳が届いた。

 小生が手にしたバンクカードは、一枚の小切手の銀行の保証額が£100のものである。これは小生が切った小切手の額面£100まで銀行がその額を保証してくれるものらしい。しかし現在、Switch(スウィッチ)と呼ばれる小切手に代わる決済方法によって、バンクカードが小切手の代わりをするシステムが一般化している。小生のカードにもそのマークがある。もうすこし説明すれば、たとえば、£30の買い物をしたとする。これまでは£30の小切手を切っていた。しかしバンクカードのSwitchを利用すると、小切手不要で、バンクカードで決済ができてしまう。日本では、キャッシュカードはCD機で現金を引き出す機能だけが一般化しているが、英国ではCD機で現金を引き出す機能とともに、いわばデビットカードと同じような機能をカードに持たせ、これが一般化しているのである(しかし、小生まだ利用していない)。通常、小切手の決済は使用後3日程度だというが、Switchもまた3日後に決済されるということを何かで読んだ。

 これが銀行の口座開設の顛末であるが、まとめてみると、
 1.口座開設のためには自分の身分を証明する書類とともに、自宅住所がわかる郵便物が必要
 2.自分のお母さんの旧姓は確認しておくこと
 3.出身地・最初の学校名・母の名前は、本人を本人であると確認するためのセキュリティーチェックのために使われること。
 4.PINは自分で決めなければならないが、暗証番号は銀行が決めてこちらに伝えてくること
 これだけ知っていれば銀行口座は意外に簡単に開設することができる(とはいえ、一つ一つの手続きは不安があるけれどね)。

 ところで、もう一つ「もしかしたらお得」になる情報。

 小生、当地の銀行口座開設前まではcitibankの普通預金口座から、ダイレクトにポンド建てで現金を引き出していた。便利であることには違いはないが、引き出すたびに為替相場が気になっていた。しかも£1ごと為替レートにプラスして手数料がかかっていたため、円高局面のときはそれほど気にならないが、円安のときは引き出しをためらうこともあった(幸いにして9月上旬まで円高基調だったが)。

 当地に口座を開設したことで次のようなことが可能になった。
 @円高と判断したときに、citibankの円普通預金口座からマルチマネーポンド普通預金に振り替える(その日のレートが適用され、もちろん手数料なし)。
 Aそのあと、当地の銀行口座に送金。citibankとの取引高が一定額以上だと送金手数料がタダというのは大きな魅力。
 Bおおむね1週間後、当地のCD機で引き出し可能。
 これによって、送金した額の範囲内で、為替レートを気にせず現金を引き出すことができるわけである。手数料はどこにもかからないから、円高と判断するタイミングが問題になるだけである(相場は神のみぞ知る)。ただし、送金の前に、送金先をcitibankに届ける必要がある。[01/10/1999]


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