13.テレタビ−ズと夏時間

  テレタビーズ(Teletubbies)という番組をご存じだろうか。どこかの星に住んでいるらしい4人(4匹?4頭?)の愛らしいテレタビーズが単純な動作や仕草で子供たちを魅了している番組である。すでに日本でも放映されているので、子供がいる家庭ではご覧になったことがあるかもしれない。
  この番組、当地では、毎週日曜日の朝7時30分からBBC2の“Children BBC”の中で放映され(BBC1で放送することもあり油断がならない)、現在、再放送が毎日、午前10時から放映されている。

  我が家の子供たちも、日本で見たことがあったので馴染みがあるせいか、この番組が好きである。というより、ほとんど英語をしゃべらず、もっぱら「ハロー」「アッアー」「ババーイ(バイバイ)」だけなので、わかりやすいというのがいいらしい。

  ところで、余談ながら当地に来てお気に入りの番組がいくつかできた。毎週日曜日にグランピアンテレビ(ITVというキー局がネットするローカル局)で放映している“You've Been Framed !”。これは、視聴者投稿ビデオを見て楽しもうという番組で、日常生活の中のハプニングを集めたものである。司会のリサ・ライリー(Lisa Riley)は、太ったお姉さんで愛嬌がある。日本にも同じような番組があったハズだ。我が家では、最初にこの番組を見たとき、「世界まる見えテレビ」のオープニングクイズを思い出し(ビデオを見て、このあとどうなったかを解答するというクイズ)、それ以来この番組を「世界まる見え」と呼んでいる。また、土曜日にグランピアンテレビで放送する“The Moment of Truth”。司会のシーラ・ブラック(Cilla Black)は歯切れのいい口調でこの番組を進行している(シーラには失礼だが、上の前歯がやや出ていて、口元だけみればネズミ男のように見える。でもセンスはいい)。この番組は、毎週3家族が出演する。番組登場1週間前に父親か母親に課題が与えられ、それをテレビ局の会場で間違わずにできれば豪華賞品がもらえるというもの。たとえば最近では、英国のすべての市外局番を憶える、100人の子供たちの写真と名前を言い当てる、一輪車に乗って30秒間ほとんど動かずにいる、20メートル離れた10本のビンに玉を当てて倒すなど、記憶力を試すもの、運動神経を試すもの、運次第のものなどがある。この番組は何といっても豪華な賞品が目玉だ。あらかじめ希望賞品を聞かれているようで、お父さんはだいたい新車、お母さんは海外旅行、ハイスクールの子供はパソコンかオーディオセット、プライマリーの子供はコンピュータゲームを希望することが多い。これが各家族にすべて与えられるのだ。そして驚くことに課題ができなかったケースはほとんどない(たまに失敗するが、それは運次第の課題だ)。そして最近ではBBC1で放送が始まった“Walking with Dinosaurs”(コンピュータグラフィックを駆使した恐竜時代の様子を再現したもの)もお気に入りだ(概して、我々が見る番組は英語の理解力に乏しくてもいいものに限られる)。

  そういえば、当地の番組は、放送時間がきわめてフレックスだ。日本のように毎週その時間に放送するとは限らない。今週午後8時にある番組が来週も同じ時間にあるとは限らないのである。そこで、毎週番組ガイドを買って(小生は“What's on TV”というテレビガイドを買っているが、他のテレビガイドを含めて1部35p程度)、見たい番組をチェックする必要がある。ちなみに先週の“You've Been Framed !”は日曜日の午後8時、“The Moment of Truth”は土曜日の午後6時45分(何と半端な!)だった。それが今週は前者は同じながら、後者は7時5分からだ。
  もう一つおまけに付け加えれば、当地では、BBC1、BBC2、Grampian、Channel 4の4チャンネルしか視聴できない。Channel 5もあるがChannel 5はまったく見えない。しかも小生の家に備え付けのテレビは古いカラーテレビで、そのせいかどうかわからないが、Channel 4は映りが悪く、結果的にBBC1、BBC2、Grampianしか見ない(これでもテレビライセンスは£101である)。BBC1はNHK、BBC2は教育テレビ、Grampianは日テレといった印象だ。地元の人々はもっと多様な番組を見たいらしく、多くの家でパラボラアンテナを設置して衛星放送を視聴しているようだ。

  さて10月31日の日曜日。
  この日もテレタビーズが午前7時30分から放送されるハズだった。いつものように子供たちに「7時半からテレタビーズがあるよ」と話して7時頃に子供たちを起こした。日曜日のBBC2は、7時30分までBGMとともに文字放送が流されている。日曜日の朝の最初の番組がテレタビーズである。
  時計の針は7時30分になった。しかしまだ文字放送のままだ。最初は『当地の番組は2、3分遅れて放送することもあったな』と考え、たいして気にしなかった。しかし10分過ぎても始まらない。子供が「まだやらないのー?」と聞いてくる。『おかしい。でもBBCのことだから、また放送時間を変えたな』などと思っていた。そのうち朝食の準備ができたので「始まる前に食べちゃおう」と話題をそらし朝食を食べることにした。朝食後、再びテレビをつける。もう8時をとっくに過ぎている。今度はやっているハズだった。「やってないよー」と子供の声。画面は依然として文字放送だった。「おかしいなあ。」
  その時である、文字放送の右上の時刻表示に気付いたのは。そこには「31,Oct、07:20」と表示されていた。つまり10月31日、午前7時20分である。そうなのだ、10月31日の未明をもって夏時間は終了したのであった。

  10月31日に夏時間が終わるということを知らなかったわけではなかった。しかし小生にはある思い込みがあった。それは11月1日から冬時間に戻るという思い込みである(冬時間なんていい方するのだろうか。標準時間のことだが、小生、夏時間・冬時間と表現する癖がついている)。10月31日から冬時間になるより11月1日からの方がキリがいい。10月31日に変わるはずがない。てっきり11月1日から冬時間になると思い込んでいた小生は、この日から冬時間になるなどとはまったく思わなかったのである。

  英国の標準時間と日本の時間を比べると、英国の時間の方が日本より9時間遅い。つまり時差9時間である。これとは別に、英国の日照時間の事情から、3月末から10月末までサマータイムを採用し、この期間は時計の針を1時間進める(必然的に時差は8時間になる)。夏時間の終了とともに時計の針を1時間遅らせて標準時間に戻すわけである。
  この夏時間はアメリカではdaylight saving timeというらしい。要は陽の光の有効活用だ。朝6時には明るいのに仕事が9時からでは3時間がもったいない。時計の針を1時間進めれば6時だった時刻が7時になり、標準時間の8時が9時になって、仕事の時間になる。明るい時間にさっさと仕事を終えて(標準時間の6時がサマータイムの5時)、さらに明るい時間を有効に使うことができる。確か日本でも1948(昭和23)年から1952年にかけて「夏時刻法」に基づいて実施されたことがある(テレビ番組で見たような気がする)。この時は敗戦後で田舎では徹底されず、混乱を生じたため廃止されたようだ。最近、日本でもまたサマータイムを導入しようという動きがある。サマータイム導入のためのいくつかの理由があり、それに反対するいくつかの理由がある。個人的には北海道でだけ導入すべきだと思うが、導入しなくても不都合はないとも思う。

  小生が来たときはサマータイムの時期だったが、それが標準の時刻だと思って生活していたので何の不都合も感じなかった。ところが、10月に入ると、朝は8時でもまだ暗く、夕方は5時には暗くなった。朝8時に煌々と光る月を見たのは初めての経験だ。明るくなるのは9時前だ。当然、そんな中出勤するわけである。これは不都合である。それが、夏時間の終了とともに時計の針を1時間戻したので、8時は7時になった。明るくなり始めるのは8時前になった。標準時間に戻したことで朝暗いうちに家を出る必要がなくなったのである。これは精神的に気持ちを楽にする。こうやって考えてみると、夏時間からスタートした小生の場合、サマータイムで時間を有効に活用するというよりも、標準時間に戻すことによって暗い朝を回避する効果の方が大きい。

  10月31日、この日から標準時間が始まったことを知った我々は、早速時計の針を1時間戻した。我々が7時だと思って起きた時間は実はまだ6時で、8時過ぎに終わった朝食は実はまだ7時過ぎであった(食べ始めたのは6時台だ)。時間が1時間戻ったことで、この日の午前中は時間の経つのが非常に遅く感じたものである。 

  いうまでもなく、7時30分ちょうどにテレタビーズは始まった。テレタビーズを見ながら『3月末には絶対に失敗しないぞ』と密かに誓った。[5/Nov/1999] 


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