12.国際電話とWWW

  現在の小生にとって、WWWは必須の手段である。 

  研修に際して最大の関心事はパソコンとその周辺機器であった。目標は日本と同じ環境でパソコンを使い、WWWを使うことであった。日本では学内LANを利用して研究室からWWWにコネクトし、自宅からは大学にダイアルアップ接続してWWWにコネクトしていた。自宅からはもっぱらメールの送受信のためにWWWを利用していたが、そのためにわざわざISDN回線を契約していた。そんな環境を英国でも作りたかったわけである。

  まず準備編。
  ノートパソコンを持参することにしていた。このノートパソコンはNECながらIBMコンパチ(LavieNXといったほうがいいか)である。英国での周辺機器の購入が容易だと思ったからである。ノートパソコンのACアダプタは英国の240Vにも対応していたが、念のため変圧器も購入した。もちろんACアダプタを電源コンセントにつなぐソケット(BFタイプ)も購入した。
  次はモデムである。日本のパソコンにはモデムが内蔵されているが、英国でそれを使うと高い電圧に耐えかねて壊れてしまうということを数人の経験者から聞いていたので、海外仕様のモデムを購入した(TDKデータ/FAXモデムカードDF5660)。これにはケーブルも添付されていたが、あいにく、電話回線とケーブルをつなぐアダプタは、日本と英国では形状が異なる。そこでケーブルに添付のモジュラージャックを利用して英国の電話回線に適合させるアダプタを購入した(これまたTDK CEX2814C)。理屈の上ではこれでWWWは利用できる。
  余談ながら、プリンタ(Canon BJC-50V)と、このプリンタに付けてプリンタをスキャナにするというスキャナカートリッジ(IS-12)も持参した。

  次は導入編。
  英国では、アバディーン大学のサーバを利用してWWWにコネクトしようと考えていた。ところがこの手続きが予想以上に遅れて1ヶ月以上かかってしまった(「遅れた」と思っているのは小生だけで、職員の皆さんはしごく当たり前の時間のようである。It's Scottish way)。それまでの間、国際電話回線を利用して日本の勤務先である北星学園大学のサーバを経由してWWWを利用することにした。ここで問題となることはただ一点、コストである。WWWに入り込むためには電話回線が必要である。当然通話料がかかる。これを少しでも安くしたいというのは誰でも同じで、NTTなどは、基本料金を下げればいいものを、あえて「テレホーダイ」などという商品を売り出しているくらいだ。日本にいても通話料が気になるのである。それが英国と日本の間の通話である。日本の情報を得たいしメールも読みたい。でもコストが気にかかる。でも読みたい。

  そんな中、WWWの利用とは別に、格安電話回線を利用する契約を結んだ。格安電話回線があることも同僚をはじめ何人かから情報を得ていたし、当地に来て『英国ニュースダイジェスト』からも情報を得た。格安電話回線を提供する会社はたくさんあるようだが、『英国ニュースダイジェスト』に広告を出していたAXS Telecomという会社と契約することにした。この電話回線を利用すると、BT(British Telecom:ま、NTTのような会社)なら1分67pのところ1分14pで日本に電話できる(契約後すぐに12pになり、現在は8pである)。契約は自宅の電話を使って申し込むだけである、もちろん日本語で(あとで文書による正式契約を結ぶ)。仕組みはこうである。現在利用しているBT回線を使いながら別ルートで通話しようというものである(ま、DDIのようなことをするわけだ)。通話はいたって簡単。その会社の認識番号を相手番号に先立ってプッシュするだけである(0077とか0088とか、日本と同じ)。利用料金はデポジット制で、あらかじめ£25を支払う(キャッシュではなくクレジットカード引き落とし。いろいろな支払方法があるらしいが小生はクレジットカード支払いを勧められた)。使った分だけ補充されるように引き落とされる(会計ではこれを「インプレストシステム(定額資金前渡法)」という、なんちゃって)。 

  さて、格安電話会社と契約したのが8月11日、そしてアバディーン大学のサーバを利用できるようになったのが9月7日頃だったので、約1ヶ月間、国際電話回線を利用して北星のサーバからWWWにコネクトしたことになる。AXS Telecomから届いた利用明細書から北星のサーバに電話をした総時間を集計してみると、216分も電話したことになっている。それで通話料は£24程度である。大雑把にいえば、1ヶ月の国際電話が、£1=¥180で換算すると¥4,320ということだ。ISDNと変わらない金額で、日本に電話できるのである。WWWの接続など問題なしといったところだ。

  最後に実践編。
  9月7日以降、やっとアバディーン大学のサーバを利用することができるようになった。小生、コンピュータには強くないのでよくわからないが、当地では学内をイーサーネットという通信網でつないでいる。聞けばLANと同じだというが、イーサーネットにつなぐためにイーサーネットカードが必要で、これは大学の担当部署を経由して購入した。大学のComputing CentreからWWWの使い方やホームページのパブリッシュ(公開)の仕方を書いた資料(Fact Sheet)をもらってそのとおり設定したが、はじめはつながらなかった。会計学部の教員で学部サーバ管理者のアレックスにヘルプを求めると、イーサーネットを利用するためには専用のソフトウェアが必要だという。そしてそれは大学全体のコンピュータ管理者から入手しなければならないという。小生が途方に暮れていると、アレックスはその管理者にメールを送ってくれた。翌日、管理者の指示でコリンというComputing Centreの職員がソフトウェアを持ってオフィスを訪れて設定をしてくれた。コリンは、日本語Windows95をあたかも英語のWindows95のように正確に操作していた(「世界標準」のすごさを思い知る)。そしてやっと、オフィスからWWWに接続できるようになったのである。この時はちょっとした感動をおぼえた。
  次は、自宅からのダイアルアップ接続である。これもComputing Centreから接続の仕方を書いたFact Sheetをもらっていたが、はじめはうまくいかなかった。結局つながるようになったのだが、これは小生の思いこみによるミスであった。日本でやっているように設定したまではよかった。問題は実際に電話をかけてダイアルアップ接続をするときの手続きも日本と同じようにやってしまっていたことだった。よーく資料を読めばどのようにダイアルアップ接続するかが書いてあったのだが、設定にだけ気を取られてほかのことはまったく軽視していたのであった。

  というわけで、現在、アバディーンにいて日本と同じような環境を作ってWWWを利用している。
  あるメーリングリストでは、マイクロソフトのWindows95添付メールソフト、Outlookはダメだというような意見もあったが、小生まったく問題なく使っている。さらに、ブラウザはアバディーン大学ではNN(ネットスケープナビゲータ)を推奨しており、サーバからダウンロードできるようになっているが(そしてコリンはダウンロードしてくれたが)、IE(インターネットエクスプローラ)でもまったく問題がない。そういえばNN英語版で、日本語のページが読めることに初めて気付いた。当たり前といえば当たり前だが、日本語環境の中にいると、そういうことにも気付かないものだ(日本では英語のブラウザを使う必要などないからね)。ハードの面では、今のところ電圧の違いによるトラブルはない。自宅では変圧器を使い、オフィスではそのままコンセントにつないでいるが、これでも問題は起きないようだ。

  つまりは、英国でWWWを利用したかったらパソコンとモデム、そして電話回線とケーブルをつなぐアダプタを持ち込むこと、これだけである。電話回線さえ利用できれば日本のサーバにコネクトする形でインターネットも電子メールも利用可能だ。ちなみに、民間のプロバイダと契約しているならば、アクセスポイントは英国にもある(ローミングサービスというそうだ)ので、日本に国際電話をかけずに、さらに格安にWWWが使えるはずだ。[3/Nov/1999]


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