2011年3月

トーナメント理論で結果オーライ

 ご卒業おめでとうございます。
 唐突ですが、皆さんは阿刀田高という作家をご存じですか。阿刀田氏は「奇妙な味」の小説を書く第一人者で、小生は学生時代にむさぼるように読みました。
 阿刀田氏は短編の名手ですが、氏が初めて書いた長編が『夜の旅人』です。手元にあるのはその文庫版で、出版は1986年10月(今日卒業するほとんどの方はまだ生まれてませんね)。
 この小説の中にトーナメント理論という面白い考え方が出ています。ここでいうトーナメントとは、いうまでもなくスポーツなどの世界でいうトーナメントです。
 阿刀田氏は、スポーツなどのゲームだけではなく占いを信じる者がいるのもトーナメント理論が適用できるといいます。1回目でたまたま当たった人が信じ、2回目も占ってもらう。2回目も当たれば3回目も占ってもらうというわけです。一方、当たらなかった人は占いを信じない。勝ったチーム(人)だけが勝ち進み(当たった人だけが信じ込み)、多数の負けたチーム(人)が戦列を離れる(当たらなかった人は占いから離れてしまう)というゲームに似ています。
 阿刀田氏はまた、これを生き方にも適用できるといいます。阿刀田氏の考え方を敷衍していえば、たまたま大学進学を選んだ人だけが大学に入学し、たまたま経済学部を選んだ人だけが経済学部で学び、たまたま会計を選んだ人だけが会計を学びました。阿刀田氏は、これを結果の方から眺めるといつも最善の道で、それだけを見ると奇蹟に近いが、全体の構図から見れば、それはトーナメントと同じであると述べています(会計を学ぶことが最善の道で、それが奇蹟かどうかはさておいて)。 この考え方は、若かりし頃の小生に少なくない影響を与えました。つまり、たまたま選んだことであっても、結果オーライということをいくつか経験してきました。これは、自分が選んだからそうなったということもできますが、選ばなかった人がいたから自分にとって結果オーライになったと考えられないこともありません。
  さて卒業する皆さん。
  皆さんは、今卒業の時を迎え、結果オーライといえるでしょうか。もしいえるとすれば、卒業後も今のトーナメントを勝ち進んでください。もし結果オーライといえない人は別のステージで勝ち進んでください。期待しています。

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