2010年3月

偶然と必然

 ご卒業おめでとうございます。

 唐突で恐縮ですが、ちょうど10年前のこの時期、海外研修の機会を得て英国に滞在していました。その目的の一つは、当時、日本でも話題になり始めた環境会計の「本場」をこの目で見てみようというものでした。
 環境会計の本場の状況は惨憺たるものでした。子どもたちはお菓子の空袋を路上に捨てる、一般市民はタバコの吸い殻をポイ捨てする、家庭では生ゴミも壊れた電機製品も分別せずに同じゴミとして一緒に出すといったことが日常的に行われていました。その光景を目の当たりにしたとき『市民一人一人が環境保全を考えない国がなぜ環境会計のリーダーなんだ?』と、激しく戸惑いました。しかし今から思えば、そんな状況だったからこそ、市民の意識改革の意味を込めて、環境会計の理論研究が行われていたと考えられないこともありません(ちょっと皮肉が過ぎますかね)。
 ところで10年前の今頃、皆さんはどこで何をしていましたか。小生が環境会計の本場で愕然としていたとき、皆さんのほとんどは小学生か中学生ですよね。そのときには、皆さんは、小生の講義を受講するとは思ってもいなかったでしょうし、小生自身も皆さんに講義をするなどと思ってもいませんでした。
 もう20年ほど前になるでしょうか、社会事象の一つ一つは偶然発生するが、後から振り返ってみるとそれらは起こるべくして起こっている、つまりは必然なのだという経済学者の話を聞きました。10年前の英国滞在は、たまたま海外研修の機会を得たからでしたし、たまたま環境会計の黎明期だったからといえないこともありません。しかし、それが現在でも環境会計への興味につながっています。また10年後に、皆さんの卒業をお祝いできるのは、皆さんがたまたま北星学園大学に入学し、たまたま会計学に興味を持ってくれたからといえないこともありません。それらの偶然が重なり合ったからこそ、必然的に卒業をお祝いすることにつながっています。
 とはいえ、すべては偶然だからなすがままでいいといいたいわけではありません。自分の意思が一定の方向に向かっているからこそ偶然という出来事に遭遇するわけで、時の流れに身をゆだね、社会がこんな状態だから仕方ないと思っていては何も起こりません。大学で何かを学びたいという意思を持った皆さんが、偶然、将来に役立つ学問に出会い、必然的に今日の日を迎えることができた、だから、卒業後もみずからの意思で生きていけるということを信じつつ、皆さんの卒業をお祝いしたいと思います。

おくることば 2009年→2010年→2011年

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