39.2000年

満開になった裏庭のリンゴの花(5月下旬)

  当地に来たばかりの頃、スコットランドでは、3つの銀行から紙幣が発行されていて、これにイングランド銀行発行の紙幣が加わるため、4種類の紙幣が流通していること、さらに、同じ価値を持つ硬貨のデザインが何種類もあることなど、お金にまつわる、日本では考えられない事柄に驚くと同時に、非常に興味を持ったものである。それも、時間が経つにつれ、当然のこととして普通に使うようになったから面白い。
  また、当地に来たばかりの頃、道ばたに落ちている硬貨がやたらに目に付いて、たとえそれが1pであったとしても「こまめに」拾っていた。それが、コイン見つけの名人であった長男でさえ、最近では、「あ、落ちている」と気付いても、『なーんだ1pか』と思うのだろうか、通り過ぎるようになった。『長男ももいよいよアバドニアン風の感覚になったのかな』と思わず笑ってしまう。

  さてそんな我が家の次なる話題は、2000年発行の紙幣や硬貨であった。

  わずか1年しか滞在しないとはいえ、2000年という区切りの年にスコットランドに滞在しているので、2000年発行の紙幣や硬貨を記念に持ち帰ろうと思っても不思議ではない(とくにミーハーは我が家の感覚では)。
  紙幣であれば、新券に近いかたちで流通しているハズだし、硬貨であればピカピカに光り輝いているハズであったから、2000年発行のお金は容易に区別ができる。

  ところが当地での生活に慣れてくると紙幣を手にすることなどあまりなくなった。いうまでもなく、スウィッチと小切手のせいである。どんなところで買い物をしても、たとえそれが5ポンド程度(1,000円以下)であっても、端数でもらうおつりが嫌だったこともあってスウィッチを利用することが多くなった。おつりとして1pをもらっても使い道に困る。思わず『ポイしようかな』という気になってしまう(おっ、この気持ちがアバドニアン?)。
  それでも、たまにCD機で紙幣を引き出す時には、それとなく気にするようになった。しかし、CD機から出てくる紙幣はクシャクシャのものが多く、確認するまでもなく2000年発行ではないことが見て取れるものばかりだった。しかも、CD機から出てくる紙幣は10ポンドと20ポンドだけ。時々おつりとして5ポンド紙幣を見ることもあるが、これは10ポンドと20ポンド紙幣以上にしわくちゃだ。発行されているという「噂」の50ポンド紙幣など唯の一度もお目にかかったことはない。
  『2000年発行の紙幣は手に入れることは難しいな』

  一方ゲットする確率が高いのは硬貨だ。かみさんがスーパーで買い物をするときは現金で支払うことが多いので、その分、おつりとして硬貨をもらうことが多い。スーパーは何といっても身近でもっとも硬貨が流通する場所だから、2000年硬貨を手に入れる確率がもっとも高いと思われた。
  しかし、1月が過ぎ、2月、3月が過ぎても2000年発行の硬貨は手に入れることができなかった。たまにピッカピカの1pや5pを手にすることがあり、『2000年かな?』と思って発行年を確認すると、1998年や1999年だった。
  『硬貨は、一括してイングランド銀行が造幣しているのかもしれない。だとすれば、スコットランドの、アバディーンくんだりまで硬貨が流れてくるには相当時間がかかるだろう。』

  もちろん、そんな理屈はない。たとえそれがイングランド銀行で造幣されていても、スコットランドの銀行にダイレクトに送金されるハズだし、太古の昔ならいざ知らず、現在ではロンドンからジワジワと流通が始まるなどということはないだろう。とはいえ、4月になっても、2000年発行のいかなる硬貨も、我が家には1枚も入ってこなかったのである。
  『おかしいなあ。まだ今年は硬貨を発行していないのだろうか。』

  日がどんどん長くなると同時に、我々が当地に滞在する期間がどんどん短くなってくる。

  そんな5月中旬、我々は、ついに2000年発行の硬貨を1枚手に入れたのであった。
  それはいつものようにアスダ(ASDA)で食料品を買い求め、現金で代金を支払ったおつりの中に入っていた。
  まず気付いたのは長女である。
  「2000年だ!」
  「どれどれ」と小生。小さい銅貨である1pの、エリザベスU世の横顔が彫り出されている、その喉の辺りに「2000」の文字。
  「やっと来たね。」
  しかし、ピッカピカに輝いているハズの2000年硬貨は、これまで見てきた1998年や1999年発行の硬貨とそんなに輝きは変わらなかった。それでも記念品を1枚手に入れたことで何となくホッとした。
  『これから2p、5p、10p、50p、£1、£2・・・・。先は長いなあ』

  記念すべき1p貨は、今、小生の免許証入れの中で、日本行きを心待ちにしている。[26/May/2000]


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