38.日本という国は・・・

  見知らぬ土地で名所旧跡をめぐるためには、当然ガイドブックが必要である。小生が当地に持ち込んだガイドブックは『地球の歩き方−スコットランド』一冊だった。しかもスコットランドに関する一切の基礎知識を持たずに来た。基本的目的が観光とは違うところにあったので、これ一冊で十分だと思っていた。
  最初は、その『地球の歩き方』に記載されているアバディーン周辺の施設などをめぐった。ウィンター・ガーデン(Winter Gardens、ヨーロッパ最大の屋内庭園)、フォーヴィー・ナショナル・ネイチャー・リザーブ(Forvie National Nature Reserve、英国で5番目に大きい砂丘)、ザ・ビーチ(The Beach、ここにレジャープールがある)、マーシャル・カレッジ(Marischal College)、キングス・カレッジ(King's College、ここは毎日通っている大学だが、観光名所になっている)、セント・マーカー大聖堂(Cathedral of St Machar)、ブリゴ・バルガウニー(Brig'o'Balgownie、スコットランドでもっとも古い石橋)などだ。
  今年に入ってからは、ヒストリック・スコットランド(HS)やナショナル・トラスト・フォー・スコットランド(NTS)に入会して、毎週末、それに関連する施設をめぐっているが、HSやNTSからもらったサイトガイドは、すべて英語で記載されているので、どうもピンとこないこともある。こんなときは、やはり日本語で書かれたガイドブックが恋しくなる(ガイドブックではないが、ミセス・マックファージンが、今年に入ってホームページの中で、詳細なアバディーン、グランピアンのサイトガイドを日本語でアップしてくれたので、これには大いに助けられている)。

  さて先日、町の本屋をのぞいた時、旅行ガイドブックのコーナーで、Japanと書かれた本を見つけた。パラパラと中をめくってみると、日本のこと、日本中の見どころなどが書いてあって興味深い。『日本のことや札幌のことがどのように紹介されているのだろう』と興味が湧いて、思わず買ってしまった。

  この本、ラフガイド社(Rough Guides Ltd)というところから1999年3月に出版された『Japan The Rough Guide』という。総ページ数840ページ。英語圏の世界各地で販売されているようで、英国では£14.99(ちなみに、オーストラリアでは$34.95、カナダでは$33.99、アメリカでは$23.95)。
  構成は日本で我々が買うガイドブックと同じだが、全編英語の中に、時々日本語の単語が見られる。つまり、これは、このガイドブックを持って日本に来ても、漢字やひらがながわからなければその場所やものが何かわからないので、代表的なものを英語とともに日本語で表示してあるわけだ。我々にしたって、ブリゴ・バルガウニーとカタカナで書いてあり、スコットランドでもっとも古い石橋と日本語で解説されていても、それだけではその場所にたどり着くことはできない。当然、Brig'o'Balgownieと英語でも表示されている必要があることと同じだ。

  まずは、日本の祝祭日やまつり。これはなるほどそういうことだったのか、そのように英語でいうのかと驚かされることばかりだ。
Ganjitsu(or Gantan) January 1. On the first day of the year everyone heads for the shrines to pray for good fortune(public holiday).
Seijin-no-hi(Adult's Day) January 15. Twenty-year-olds celebrate their entry into adulthood by visiting their local shrine. Many women dress in sumptuous kimono(public holiday).
Setsubun February 3 or 4. On the last day of winter(by the lunar calendar), people scatter lucky beans round their homes and at shrine or temples to drive out evil and welcome in the year's good luck.
National Foundation Day February 11(public holiday).
Hina Matsuri(Doll Festival) March 3. Families with young girls display sets of fifteen dolls(hina-ningyo) representing the Emperor, Empress and their coutiers dressed in ancient costume. Department store, hotels and museums put on special exhibitions of antique dolls.
Spring Equinox March 21 or 20(public holiday).
Greenery Day April 29(public holiday).
Constitution Memorial Day May 3(public holiday).
Kodomo-no-hi(Children's Day) May 5. The original Boys' Day now includes all children as families fly carp banners, symbolizing strength and perseverance, outside their homes(public holiday).
Obon(Festival of Souls) August 13-15, or July 13-15 in some areas. Families gather around the ancestral graves to welcome back the spirits of the head and honour them with special Bon-odori dances on the final night.
Respect-for-the-Aged Day September 15(public holiday).
Autumn Equinox September 23 or 24(public holiday).
Sports day October 10(public holiday).
Culture Day November 3(public holiday).
Shichi-go-san(Seven-five-three) November 15. Children of the appropriate ages don mini-kimono and hakama(loose trousers) to visit their local shrine.
Labour Thanksgiving Day November 23(public holiday).
Emperor's Birthday December 23(public holiday).
Omisoka December 31. Just before midnight on the last day of the year, temple bells ring out 108 times to cast out each of man's earthly desires and start the year afresh.
Note that if any of the above public holidays fall on a Sunday, then the following Monday is also a public holiday.

  この他にも地方のお祭り(さっぽろ雪まつりや仙台七夕まつりなど)も紹介されているがこれは割愛。今年から法律が変わって成人の日や体育の日が変わったハズ。ま、これは仕方がない。それにしても成人の日が大人の日、建国記念日が国の創立記念日、お盆が「魂のまつり」、敬老の日がお年寄りを尊敬する日というのは言い得て妙だ。面白いのは七五三。そのままだ。天皇誕生日で、天皇をエンペラーというのはその通りなのだろうが、何かエンペラーというと違和感がある(雛祭りのお殿様をエンペラーと表現しているからかもね)。

  この本の最後に列挙されているのはポップ・カルチャー。
  ここには、庶民の関心事がや身の回りのことが、簡単ながら良くまとまって紹介されている。項目だけを挙げると、Aum Shinrikyo、The Bubble Economy、Comedy、Doraemon and Dango、Enjo Kosai、Focus, Friday and Flash、Games、Hello Kitty and Hanako、Idols、Juku、Karaoke、Love Hotels、Manga and Muji、Nihonjinron、Otaku and OLs、Pachinko and Purikura、Quiz Show、Rusu Sokkusu、Salarymen and Soaplands、Taiga and Trendy Dramas、Uyoku、Virtual Pets and Pop Stars、Worlds、Yakuza、Zoku。
  よくもまあこれらをピックアップしたものだと思うと同時に、日本の文化のエッセンスを良く捉えていると感心する。いちいち紹介すると枚挙にいとまがないので個人的に興味のあるものだけを紹介すると、まずComedy。ここにはManzaiはBoke(comic)とTukkomi(foil)で行われると紹介されている。そして固有名詞では北野武、ダウンタウンが挙げられている(関東・関西の売れっ子を紹介するとはうまい)。Enjo Kosaiは援助交際。説明では「お金のためにハイスクールの女の子がオールドマンとデートすることで、10代の気がかりな現象」となっている。ふーん。Focus, Friday and Flashはいわずと知れた写真週刊誌。Gamesでは、野球とともにゲートボールを挙げているところが面白い。Idolsでは安室奈美恵、木村拓也が紹介されている。生き残った1980年代のポップスターとして松田聖子の名も上がっている。Jukuは塾、Mujiは無印良品の英語名(英国では人気があるらしい)。Rusu Sokkusuはルーズソックスだ。Virtual Petsではたまごっちが挙げられている。Worldsは何かなと思ったら、明治村やハウステンボスなどのテーマパークのことだった。Zokuもわからなかったが、これは暴走族だった。
  これらのことを理解して日本に来れば、まず話題にはことかかないだろう。

  さてさて札幌の紹介。北海道は、295ページから343ページまで紹介され、その中で札幌は10ページを使って紹介されている。
  札幌は人口175万人で日本で5番目に大きな都市である。1972年にはオリンピックが開催された。有名なところでは、サッポロビール園、植物園、すすきのなど。まつりは夏祭り(7月21日〜8月20日)、雪まつり(2月5日〜11日)。日帰りできる場所としては北海道開拓の村、小樽、ニセコ。有名人はクラーク博士。ま、妥当なところが紹介されているようだ。
  そして、札幌の観光地とホテル、食事ができる場所などが、英語とローマ字、日本語で列挙されている。その中でも、観光地としてはBotanical Gardens(Shokubutsu-en、植物園)、Historical Village of Hokkaido(Hokkaido Kaitaku-no Mura、北海道開拓の村)、Hokkaido Museum of Modern Art(Hokkaido Ritsu Kindai Bijutsukan、北海道立近代美術館)、Nakajima-koen(Nakajima-koen、中島公園)、Odori-koen(Odori-koen、大通公園)、Sapporo Beer Garden and Museum(Sapporo Biiru Hakubutsukan、サッポロビール博物館)、Susukino(Susukino、すすきの)が挙げられている。面白いのは食事処だ。

Aburiya Aburiya あぶりや
Aji-no-Tokeidai Aji-no-Tikeidai 味の時計台
Chanko Kitanofuji Chanko Kitanofuji ちゃんこ北の富士
Daruma Daruma だるま
Kirin Beer Garden Kirin Biiru-en キリンビール園
Ramen Yokocho Ramen Yokocho ラーメン横町
Sapporo Bier Garten Sapporo Biiru-en サッポロビール園
Sapporo City Hall Shokudo Shiyakusho Shokudo 市役所食堂
Shaberitai Shaberitai Shaberitai Shaberitai しゃべりたいしゃべりたい
Taj Mahal Taji Maharu タージマハール

  あぶりやは確か炙屋と漢字で書いたと思うが、焼き物が美味しいお店(居酒屋)だ。サッポロビール園は英語の本でもドイツ語で表記するとは知らなかった。味の時計台は村山首相の写真が貼ってあるところだ(ダウンタウンの浜田の写真もあったかな)。だるまは生ラムジンギスカンのお店(いつ行っても満席)。しゃべりたいしゃべりたいは行ったことはないがスパゲティのお店。タージマハールはインド料理店だ。面白いのは、何故か市役所食堂が紹介されていることだ。600円ぐらいで食事ができること、セルフサービスであること、プラスチック製のディスプレイを見て食べたいものを決めてから漢字ラベルの付いた自動販売機で食券を買うことなども紹介されている。まあ、札幌では、ラーメン一杯が1,000円もするのだから、600円で食事ができる場所という点で紹介されても不思議ではないのかもしれない(しかしこの手のお店というのはどうやってリストアップするのだろう)。

  いずれにしても、英語で紹介された日本を眺めてみるのも、日本以外にいるからできることかもしれない。[10/May/2000]


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