32.花の都アバディーン

  3月に入ってすぐに久しぶりに雪が降ったが、その後のアバディーンは安定した日々が続いている。最高気温は11度前後、最低気温は4〜5度。
  安定した日々とはいえ、毎日の天気が「ある傾向」で安定しているわけで、決して穏やかだというわけではない。つまり、基本的に曇り空で比較的強い風が吹いている。天気予報では毎日「ウィンディ(風が強く)、クラウディ(曇りがち)」。ある日などはこれに「フレッシュ・アンド・コールド」が付いた。『風が強く曇りがちだが、午後から風は爽やかで寒い・・・・?』 おかしいと思って辞書を引くと、気象用語でフレッシュは強い風という意味だった。つまりは終日曇り空で寒く、風が強いということだ。そんな日は稀だけれど、ウィンディ・クラウディは3月に入ってからの毎日の天気で、その意味で安定した天気というわけだ。

  しかし強い風ながらその風は本当に暖かくなった。まだそんなに多くはないながら、柔らかな風が吹く日もある。そんな日の風は、ちょうど東京の春霞が出る頃の香りに似ている。
  また日の出が早くなり、日の入りが遅くなった。朝は6時には明るくなり、夕方は暗くなるのが6時を過ぎる。
  曇り空といっても暗い雲でないことが我々の気持ちをラクにする。曇り空であっても明るいのだ。そして面白いのは、どんなに曇り空で太陽が見えない日でも、必ずといっていいほど午後2時か3時頃には太陽がのぞき強い西日が射す(西日といっても太陽はまだ高い)。
  どれだけ陽の光が強くなったのかは、我が家のSinging Bird Clockが鳴き始めたことからもうかがえる。2月まではまったく冬眠状態に入っていた鳥時計は、3月に入って、1時、2時、場合によっては3時にも鳴くようになった。
  庭にやってくる小鳥たちも、ロビンの姿はめっきり見えなくなり、ブラックバードも少なくなった。代わりに雀に似たレン(Wren)やスターリング(Starling)が多くなった。彼らは夜も明けないうちから騒がしく鳴いている。



裏庭の水仙

前庭のクロッカスと
スノードロップ

  さて、そんなアバディーンの3月。我々の目を楽しませてくれるのは咲き始めた花々だ。
  2月の上旬に最初に咲き始めた白い花(「マイルドな冬」参照)はスノードロップ(Snowdrop)という花だった(日本名はマツユキソウ、ユキノハナというらしい)。それと前後してプリムラなども花を咲かせた。そのあと、一斉にクロッカスが咲き始めた。ある家では軒下に、ある家では芝生の中に植えられているクロッカスが、黄、紫などの花を咲かせた。我が家でも前庭や裏庭のあちこちでクロッカスが花開いた。そしてクロッカスが終わりかけた現在、今度は水仙が黄色の花を咲かせ始めた。クロッカスにせよ水仙にせよ、球根をまとめて植えると咲いたときにきれいだが、当地でもおびただしい数の球根が庭に埋められたようで、それはそれはきれいだ。そして今は、チューリップが出番を待っている。
  木々にも花が咲き始めた。小生そういった名前を知らないので何という木なのかわからないが、黄色の小さい花を付けた木もあれば、白い花を付けた木もある。大学の構内では、桜に似た木が満開になってそよいでいる。


桜に似ていませんか?

大学植物園のアイリス

  先日、新聞の中にB&Qの広告が入ってきた。春の園芸特集といった感じで、日本と同じように温室で栽培された花が、ポットに入った状態で売られている。そしてこれまた日本と同じように、その花はパンジー、ビオラ、ポリアンサス、プリムラ、ゼラニウムなどだ。札幌では、これらはおおむね100円前後で販売されている。それらを庭にカッコよく植えようとすれば結構な出費になる。
  『当地ではいくらぐらいかな』

広告は日本と同じ

  興味津々で値段を見て驚いた。基本的に1個売りはしていない。
  まずはパンジー。10パック£2.5。1個当たり25p。30パック£3.90。1個当たり13p。そしてお買い得商品としてパンジー100パックというものまである。これは100パックで£10、1個わずかに10p。£1=¥180で換算すると1個18円(円安に振れて£1=¥200になったとしても1個20円!)。
  『買いたーい!』
  ビオラとゼラニウムは30パックで£3.90、ポリアンサスとプリムラはちょっと高くて15パックで£4.50。それでも1個当たり30pだ。日本円で54円(日本でもプリムラはパンジーよりは高い。毎年咲くからかもね)。
  『あーこれも買いたーい!』

  草花に比べて野菜系は少ない。B&Qでも広告ではいちごのポットしか掲載されていない(1個68p)。実際に店舗に出向いて見てみたが、野菜はじゃがいもの種芋しかなかった(さすが、じゃがいもの国! ちなみにこれは2.5kgで£2.99)。一方ハーブ系のポットは結構な種類がある(我々もパセリ(大)を一つ購入した(£1.99)、もちろん趣味と実益を兼ねて)。
  野菜系のポット売りはないとはいえ、3月に入ってから、スーパーなどでは野菜の種を販売し始めた。だいたい一袋49p。オーガニック種(有機種。普通の種とどう違うのだろう)が98p。スーパーに行くたびにそのコーナーを見てくるのだが、あまり売れている様子はない。少なくてもウチの近所で家庭菜園をしている家はない。家に庭はあるが家庭菜園用の畑は見られない(じゃ、誰が買い求めるのだろう?)。
  札幌でちょっとだけ土いじりをしていた小生は、そんな種を見ていると何となくここでもやってみたくなった。もとより前庭にも裏庭にもそんなスペースはない。仕方なく水栽培でカイワレを育てることにした(カイワレと思っているのは我々だけかもしれない。正式な名前はCress)。

  ところで、1月に届いたアバディーン市の広報には今年のアバディーンの花が紹介されていた。とても柔らかな色合いのピンクのバラである。ミレニアム・ローズと名付けられている。広報によれば、このバラを市内各所に植えていくらしい。
  アバディーンは英国でも有数の花の都だ。「花の町コンテスト」でも過去10回以上の優勝歴を持つという。思い返せば、10月頃の広報では、アバディーン市の地域ごとのガーデニングコンテストの優勝者とその庭が紹介されていた。市内でもコンテストが開かれているくらいなのだ。どの家の庭もよく手入れが行き届いているのもうなずける。

  これからますます日照時間が長くなって日差しも強くなり、それにつれていろいろな花が我々の目を楽しませてくれるだろう。
  カレンダーを見れば、もうすぐサマータイム。[20/Mar/2000]


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