33.英国インターネット事情

  インヴァーネスのアヤコさんが家電量販店のディクソンズ(Dixons)からもらってきたCD-ROMはフリーサーブ(Freeserve:FS)というプロバイダのものだった(「闇夜にドッキリ」参照)。アヤコさんに教える手前、小生もディクソンズに出向きそのCD-ROMをもらってきて小生のマシンにインストールした。

  あとで知ったことだが、フリーサーブは英国一の接続料無料のプロバイダだった。接続料が無料ということは、あとは接続している時間に応じた通話料(正確には通信料)だけが自己負担だ。フリーサーブでは、通話料金は市内通話料金だけがかかる特別の市外局番(0845)を使っていたのでアクセスポイントを探すなどということもない。

  ディクソンズからもらってきたCD-ROMをインストールして驚いたことは、ブラウザのインターネットエクスプローラ(IE)もメーラーのアウトルックエキスプレス(OE)も、すでに小生のマシンにインストールされていたバージョンが上書きされてしまったことであった。いつもはディスプレイの右上にある「e」のマークが「FS」に置き換わった。つまりは、IE(そしてOE)でありながら、そのソフトはフリーサーブ仕様になってしまったのである。機能それ自体はIE・OEと変わらないので問題はなかったが、何より困ったのは「受信トレイ」が「Inbox」、「送信トレイ」が「Outbox」という具合に、すべてが英語表記になってしまったことであった。通常、こういった表示言語に関してはカスタマイズできるハズであったが、そういった操作を行うリストを見ても、「Japanese」の選択肢はおろか、「English」以外の選択肢はなかったのである。さらに面白いことは小生のマシンはすべて英語表示だったが、アヤコさんのそれは、英語の部分と日本語の部分が混在していたのである。

  ところで、日本にいて、もっとも気になるのが通話料である。接続料はプロバイダのサーバを利用する使用料と同じだと考えられるから、どういった形態の契約を結ぶのかによって安いものも高いものもある。しかし通話料は、ダイヤルアップ接続でサーバに接続している時間だけ料金がかかるわけだから、フリーダイヤルを通して接続するのでもない限り、いつでも通話料が発生するわけである(これも安い通話料で接続できる商品がNTTから販売されてはいるが)。

  さてワールドワイドウェッブ(WWW)の主要な利用方法はインターネットと電子メールである。インターネットはもちろんホームページ閲覧のためにWWWを利用するのであり、電子メールはメールを送受信するためにWWWを利用する。小生は日本では大学のサーバを利用して(つまり学内LANを通して)WWWにコネクトしていたし、自宅からも大学のサーバをプロバイダ代わりにダイヤルアップ接続してWWWにコネクトしていた。しかし、かみさんについては、メールアカウントを大学からもらうわけにはいかないので、Gooのフリーメールを利用してメールのアドレスを取得して電子メールを利用していた。
  このフリーメール。電子メールのアドレスの取得は無料である。しかもどこにいても、誰のマシンからでも自分に届いたメールを読むことができるし、返事を送ることができる。その意味では利用価値があった。ただ問題は、届いたメールに返信するとき、とくに、相手のメールを引用しながら返信するとき、つねにWWWに接続していなければならなかったことであった。つまりメールの送受信はつねにオンラインでなければならず、したがって通話料がかなりかかることであった。

  アバディーンにきてからも、小生はアバディーン大学のサーバを利用できたので問題はなかった。かみさんは、依然としてフリーメールを利用していたが、ここでもやはり通話料が気になっていた。仕方なく、メールの受信はフリーメールで行い、送信は、小生のアドレスが設定されているOEからということにした。ということは、受信はまだしも、送信内容はすべて小生が把握することになるから、メール内容のプライバシーはなく、しかも、そのメールを受け取ったかみさんの友達からの返信メールが小生のアドレス宛に届くこともあったので、どちらに届いたメールかわからなくなることさえあった。
  これを解消するためには、プロバイダと契約し、かみさん専用のアカウントを取得しメールアドレスを取得すればいいのだが、そんなに頻繁にメールを利用することもなかったので、とりあえず、かみさんのフリーメール・アドレスにメールが届いたときには、小生のアドレスに受信を知らせる通知の設定をしておいた(メールの転送ではない)。この通知が届いたときのみ、かみさんはフリーメールにアクセスしてメールを読んだのである。

  アヤコさんの一件以来、もしかみさん用にアカウントが取得できればウェッブ・ベースではなく、OEを利用してメールの送受信ができると考えた小生は、フリーサーブでかみさん用のアドレスを取得することを考えた。しかしこれでは帰国後このアドレスが使えなくなるので、同様のサービスを行っている日本のプロバイダを探すことにした。そういったとき、たまたま『英国ニュースダイジェスト』(2000年3月16日号)に米国のアルタビスタと英国のモバイル会社ジョン・コードウェルが通話料無料のサービスを開始するという記事が掲載された。また、その記事によれば、BTも通話料無料のサービスを始めることも記載されていた(この場合、通話料は無料だが接続料がかかる。つまりフリーサーブと逆のケースだ)。いずれにしても、欧米では通話料か接続料が無料のプロバイダがあるのだから、日本にあってもおかしくないと思ったわけである。

  そんなある日、たまたま検索エンジンを通して見付けたのがライブドア(Livedoor)というプロバイダであった。これは日本の接続料無料のプロバイダである。昨年の12月にこのサービスを始めたらしい。しかも、近々、50MBまでホームページ用スペースをこれまた無料で提供するという。アクセスポイントを見ると、札幌にはなく東京ということになる。アバディーンからアクセスするのであれば、例の格安電話回線を利用すれば、1分8pであるし、メールぐらいなら十分役に立つ、と考えた小生は、ライブドアのホームページから専用のソフトをダウンロードして、かみさん用のアカウントを取得する設定を開始した。この設定が無事終了すれば、ドメインネーム「@livedoor.com」のメールアドレスが取得できるハズであった。
  ところが、接続ウィザードを一つ一つ設定して、接続先を選択する画面になり、接続先の一覧があるドロップダウンリストをクリックして驚いた。そこには「英国」の文字があったのである。迷わず「英国」を選択する。日本まで国際電話をかけるよりはトクだ。すると今までライブドアの設定をしていたものが、x-streamという、英国のプロバイダに変わって設定が進んだのである。
  設定が終了すると、かみさんには「@x-stream.co.uk」というドメインネームを持つアドレスが与えられた。しかも50MBのファイルスペース付きだ(ライブドアより早く50MBのスペースを持ったことになる)。
  早速コネクトしてみる。面白いことに、ダイヤルアップ接続するアイコンはライブドアのアイコンのままだし、ログインの画面もライブドアのままであった。しかしアクセスするサーバはx-streamである。このプロバイダもフリーサーブと同じように、市内通話料金だけがかかる電話番号(0845)を持っていた。ログインのアイコンをクリックしてすぐ、認証を終えてディスプレイに現れたのは、画面上部にバナー広告であった。見たことがなかったがとくに目障りというものではない。まずIEを立ち上げる。まったく問題ない。ブラウザそれ自体は、FS仕様のままだった。次にOEを立ち上げる。これも依然としてFS仕様で英語バージョンのままだったが、まったく問題がなかった。この状況を想像してほしい。デスクトップにある接続アイコンはLivedoor、であるにもかかわらずログインはx-stream.co.ukのサーバ。コネクトするとLivedoorのバナー広告。IEやOEはFS仕様。しかも英語バージョン。なんだかよくわからない状態のまま、正常に作動したのである。思わず笑ってしまう。

  そしてほんの数日前、x-streamから通話料無料のダイヤルアップサービスを始めたという案内が届いた。つまりフリーダイヤル(0800)を通したWWWへのコネクトである。ということは、通話料も接続料も完全に無料になることを意味する。『ホンマかいな』ということで、早速コネクト。1回目、ビジー状態。2回目もビジー状態。パソコンは何度も自動でコネクトを繰り返す。かみさんの話では、30分トライしてもビジー状態だったこともあるという。x-streamのホームページを見れば、このサービスは今は試行状態で、大変かかりにくくなっていると弁明している。早くコネクトしたい人はいままでの有料ダイヤルを使ってほしいとも書いてある。
  それにしても、通信料・接続料無料は大きな魅力だ。ヒマさえあれば、無料の回線がつながるまで待てばいい。これまでのところ、日中は無理だが、夜11時頃には5分ぐらいコネクトを試みてつながったこともあった。

  こうして、専用のメーラー、専用のアドレスを使ってメールの送受信ができるようになった現在、いままでは、パソコンと電話回線との接続やブラウザの起動までを小生がやって、メールを読むことだけがかみさんの「仕事」だったのが、かみさんはその一切を自分でできるようになった。そして、プライバシーが守られるようになったためか、それとも返信が便利になったせいか、かみさんは、以前より増してメール書きに忙しくなった。そして今日もまた、寝不足状態が続いている。[22/Mar/2000]


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