43.ハイランド・ゲーム

 スコットランドには、市町村ごとに開催される大運動会がある。それをハイランド・ゲーム(Highland Games)またはハイランド・ギャザリング(Highland Gathering)という。

  このハイランド・ゲーム、19世紀から、スコットランドのみならず、カナダのほとんどの地域あるいはアメリカでも行われているという(Microsoft ENCARTA Encyclopedia 2000による)。そしてもっとも有名なハイランド・ゲームはブレイマー・ギャザリングだ。これは、毎年9月に、避暑のためバルモラル城を訪れる王室がこぞって観戦することから有名になったようだ(バルモラル城を訪れたとき、その1998年の模様を収めたビデオを入手した)。

  今年のアバディーンでのハイランド・ゲームは、ミレニアム・ハイランド・ゲーム&ファミリー・ファン・ディと称して、6月18日、アバディーン一広い公園、ヘーゼルヘッドパーク(Hazlehead Park)で開催された。アバディーンのハイランド・ゲームは、今年が40周年目だという。
  6月に入ってアバディーンの夕刊紙にその広告が出ていたし、ミセス・マックファージンからも「是非行ってみて!」といわれていたので、その日が待ち遠しかった。
  広告によれば、ハイランド・ゲームは朝10時から午後5時まで開催される。日曜日ということもあってバスの便が極端に少なくなる我々の住む地域からは、自動車で行かなければならなかった。年に1回の大運動会なのだから、アバディーン市民のみならず近隣の町からも出場者、観客が大挙して押し掛けるハズだ。これは早めに行って駐車場を確保しなければならないなと思っていた。

  当日、9時30分過ぎ、自宅を出てA90を走ると、沿道のところどころに、「Highland Games」と書かれた矢印付きの小さな案内板が出ていて我々を会場まで案内してくれた。会場に近づくにつれ、駐車場に入る道は大渋滞、と思いきや、いつもの日曜日と同じ程度の自動車しか走っていなかった。案内板に従って順調に公園までたどり着いたものの、なかなか会場に近い駐車場に入れなかった。というのも、公園まで来るとハイランド・ゲーム会場を示す案内板が消え(いたるところに公園入り口の看板はある。広すぎる公園というのも困る!)、しかも自動車が少ないため前の自動車のあとに続いて会場に入るという「ワザ」も使えなかったのであった。
  やっとのことで会場に通じる道を見つけ(その道の入り口に会場に近い駐車場を示す案内板があった)、その道を入ると右手に広大な広場が見えてきた。進行方向にはテントなども見える。警官や市の職員が自動車を誘導してくれる。その誘導の通りに走り、駐車するように指示された場所は、最初に見た広大な広場の中で(きれいな芝の上!)、しかも、ちょうど10時頃であったにもかかわらず、出場者の自動車の方が多いといった感じだった。日本ならこんなわけにはいかないだろうが、さすがスコットランド、さすがアバディーン。我先にいい場所確保のために、早めに会場に入るなどということはないらしい(結局、その広大な広場が満車になることはなかったようだ)。


フェイスペインティングは無料
       
アバディーンFCマスコットアンガス君も登場

  会場に入るには入場料がかかる。我々はファミリーで£10。ちなみに大人は£4、子供は£2とのこと。ほったて小屋のような入場ゲートで入場料を支払い中に入ると、観客はまばら。ここそこでバグパイプの音が聞こえる。向かって右手にはフェンスで囲まれた競技場が見え、左手には、テント小屋に売店があったし、その奥には、クリスマスの時にユニオンストリートで体験した移動遊園地があった。この移動遊園地、ユニオンストリートのものよりはるかに規模が大きかった。またフィッシュ&チップスやハンバーガーを販売するバンもあちこちで開店の準備をしていた。 
  競技場内を見るとすでに競技は始まっていた。
  キルトを履いたむくつけき野郎どもが何かを投げていた。それは石投げ競技だった。

  ハイランド・ゲームは、大きく分けると、5つぐらいの種類に分けられるようだ。まず重量戦(Heavy Events)、綱引き(Tug of War)、バグパイプ(Piping)、ハイランドダンス(Highland Dancing)、そして徒競走やマラソンである(今年のアバディーンのハイランドゲームでは徒競走やマラソンはなかった)。
  重量戦はさらに、石投げ(Putting Heavy Stone:砲丸投げのような感じ)、ハンマー投げ(Throwing Hammer:石に棒を付けたもの、まさにハンマー)、石高投げ(Throwing Over Bar:後ろ向きで石のようなものを高く投げて走り高跳びのようなバーを超えさせるもの、やっぱり石高投げと呼ぶにふさわしい)、そしてケイバー投げ(Caber Tossing:ケイバーという長い丸太を垂直に持ち上げて、前方に投げ、持ち上げた丸太の下が空中でまっすぐ回転して向こう側を向いた方が勝ち。コレ、説明が難しい)。

  キルトを履いた男たち。キルトはもちろんスカートである。スカートは風に当たるとゆらゆらと揺れる。風に当たらなくても、飛んだり跳ねたりすれば揺れる。男たちは走って勢いを付けて石を投げる。自分でキルトを揺らしているようなものだ。勢いを付けて飛んだり跳ねたりすればどうなるか。当然、キルトはめくれ上がる。めくれ上がれば中が見える。
  キルトの中は何も下着を付けないのが普通だという。キルトがめくれ上がれば、当然・・・・・。しかし競技者たちはちゃんと短パンやパンツを履いていて一安心(何が?)。

  また競技場内の別の場所では、ちょっとした舞台の上で、バグパイパーがゆっくり歩きながらパイプを演奏している。その下では、二人の初老の男性がそれを見ながら何か書いている。これはバグパイプの個人演奏の競技であった。また、競技場外の一角ではでは、行進をしたり、号令で同じ動作をしたり、輪になって演奏したりとバグパイプの団体戦が行われていた。
  ふと、競技場に目をやると、重量戦は、石高投げをやっていた。

ケイバー投げ

  午前中は、広い会場をあちこち歩き回って初夏の一日を楽しんだ。ファミリー・ファン・ディでもあるのだから、ハイランド・ゲームばかりでなく、遊具やゲーム、いくつかの団体の展示参加もあった(グランピアン警察までパトカーを展示していたのには驚き。しかもそのパトカーのタイヤがツルツルだったことにも驚き。日本なら整備不良もいいところだ)。
  お昼頃、会場内のホットドッグバンでホットドッグやハンバーグを買い、芝の上に腰をおろして昼食。雲はあったものの日差しもあり、それなりに暖かな陽気であった。
  その時間になると、会場内には多くの観客の姿が見られた。移動遊園地にも大勢の子供達が集まっていた。
  昼食を終えて、競技場に目をやると、今度は、ケイバー投げだった。

  プロブラムを見ると、各競技とも賞金が出る。一番高いのは、ミレニアム・アバディーン・ケイバー投げの優勝者に出る£500。これだけが突出しているので、記念大会の特別賞金なのかもしれない。16名によるバグパイプ団体戦の優勝チームが£210。2位が£140、3位が£100、4位が£70。その他では、石投げの優勝者が£40、2位が£30、3位が£20、4位が£15といった具合。バグパイプ個人戦の優勝は£45。5位でも£10。ダンスは優勝が£12、2位が£10、3位が£7、4位が£6(賞金は4位までで、しかも金額が半端)。綱引きは優勝チームに£220。副賞としてウィスキー9本が付くのには笑わせられる。
  実感としては賞金はそんなに大したことはない。それでもいい小遣い稼ぎにはなりそうだ(だからといってひ弱な小生ではどれにもエントリーできないが)。

  午後1時過ぎ、場内アナウンスが「これから公式の開会式を始めます」といった。
  「えっ、これから公式の開会式だって? 今までのは何?」
  アナウンサーは続けていう。
  「アバディーン市長、マーガレット・スミス女史のご挨拶。」
  スミス市長の挨拶。拍手はまばら。観客はほとんど聞いていない。
  その挨拶が終わるとまたアナウンス。
  「ハドー・ハウスからアバディーン侯爵夫人、本大会の競技委員長、レディ・アバディーンがお越しです。それではご挨拶を。」
  真っ赤な帽子、真っ赤なコートを来た老女がマイクの前に立ってしわがれた声で何かしゃべっている。残念ながら遠くてお顔をよく見ることができない。
  『これがあのレディ・アバディーンか・・・。』
  ハドー・ハウスを訪れたとき、案内役の「渡辺真理」から聞いた人だ。またもやまばらな拍手。
  それが終わると、「メニー・パイブ・バンドの行進です」とアナウンサー(数の多いバグパイプとドラムの行進)。さすがに迫力がある。


セント・アンドリュース旗をバックに迫力ある行進

  ふと競技場内の重量戦の場所に目をやると、パイプ行進の最中も、石投げをやっていた。

  パイプの行進が終わると、競技場内に設置された2ヶ所の舞台の上で、ハイランドダンス競技が始まった。女の子だけでなく男の子も踊っている。プライマリーかセカンダリーの児童生徒たちの演技のようだ。世界的に見てハイランドダンスがどれだけ知名度があるかはわからない。しかし、バグパイプの音色に合わせて、高く飛び跳ねながら踊るさまは、なかなか健康的で魅力的だ。ただ、競技場内のすぐ近くの舞台では、バグパイプ個人戦をやっており、ちょっと離れたところでは、バグパイプ団体戦をやっていたので、ダンスのためのパイプの音が良く聞き取れないうらみがあった。
  そのダンスを踊る舞台の奥では、ハンマー投げに興じる男たちがいた。


パイプに合わせて踊る
    
パイプを吹きながら歩く

  また会場内をうろつく。その時間には観客は結構な数にのぼっていた。だからといって競技を見ている者ばかりではない。テント小屋を冷やかしたり、持参したビール片手に友人と語らったり、遊園地で遊んでいたり・・・。
  競技場の外の一角では、鷹匠(ハヤブサ)の演技が行われていた。足に鈴を付けたハヤブサが大空を飛び回っている。鷹匠が紐の先に何か疑似エサのようなものを付けたものを振り回している。いっこうにハヤブサは下りてこない。それでも鷹匠も観客もずーっとハヤブサが下りてくるのを待っていた(これとハイランド・ゲームはどんな関係にあるのだろう? そうかファミリー・ファン・ディの一部だな、コレは)。


Tug of War

  競技場では、綱引きが始まった。これは見ている方も力が入った。何しろ向かい合った8名の男たちが綱を引っ張ったきりしばらく動かないのである。ナビゲーターが何かいっている。まったく動かないまま数分が過ぎる。そして一瞬動いたかと思ったら、今度は総力で引っ張り合いだ。ナビゲーターの顔も紅潮する。そしてまた均衡状態。結局、一方が、相手のバランスが崩れた一瞬のスキをついて引きずって決着。そんな勝負を3回やるのだから、見ている方も疲れてしまう。
  目を転じると、またぞろ石投げをやっていた。

  プログラムを見れば、これから決勝戦が行われることになっていたが、10時からいる我々はやや疲れてきていた。結果論だが、午後から来ても良かったようだ。
  「そろそろ帰ろうか。」
  時計を見ると3時をまわっていた。
  帰りしな、フト振り返って競技場を見れば、やっぱり・・・・・。[23/Jun/2000]

 
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