42.OH! SUSHI PartU
その情報は、ラジオの宣伝広告によってもたらされた。
ちょっと前まで自動車ではクラシックFMを聞いていた(現在は軽音楽中心のBBCラジオ2)。そのクラシックFMで、突然英語に混じって「SUSHI」という言葉が出てきたのである。これは日本人であれば、思わず聞き耳を立てたくなる言葉である。聞き流していたFM放送を、耳をそばだててよく聞くと、SUSHIを販売しますと聞こえ、最後にマークス・アンド・スペンサー(Marks
& Spencer)と名乗ったのであった。
『へー、マークス・アンド・スペンサーでSUSHIか』
職業別電話帳、イエローページでは、マークス・アンド・スペンサーはデパートに分類されている。日本のデパートのイメージとはちょっと違うような気もするが、スーパーかといえば、決してスーパーのイメージではなく、やっぱりデパートなんだろうなあと思ってしまう(デパートにあまり行ったことがない小生には、日本のデパートと比較できるだけの材料がない)。いずれにしても高級店であることには違いはない。
『こりゃ、チャレンジしてみなければならないな』
マークス・アンド・スペンサーアバディーン店は街(ユニオンストリート)のど真ん中にある。しかし、なかなか食べる機会に恵まれなかった。ここのところ、とんと街に出ることが少なくなっていたからである。街まで自動車で20分もかからないながら、自宅と街の間に大学があり、自宅と大学の往復をしている限り、街に出るきっかけがつかめない。しかも、SUSHIといえば、テスコ(TESCO)のSUSHIを試して、やっぱり日本のものとは違うということを実感し、『あえてSUSHIだけを買いにマークス・アンド・スペンサーまで出かけることもあるまい』と思っていたからであった。
さて、6月に入って、ちょっと用があって街に出た。その帰り、『そういえばマークス・アンド・スペンサーでSUSHIを売り始めたんだった』と思い出して立ち寄ってみると、調理済み食品の棚にSUSHI BOXが陳列されていた。
SUSHI BOXは5種類ぐらいあった。これもテスコのSUSHIと同じように、見るだけだったら日本の寿司と変わらない。そこで、もっともオーソドックスと思われるSUSHI BOXを3種類買うことにした。それは、Medium Oriental Fish Box(£3.00)、Medium Sushi Box(£3.00)、Large Sushi Selection(£5.00)である。
![]() Medium Oriental Fish Box |
![]() Medium Sushi Box |
![]() Large Sushi Selection |
何が入っているか読んでみると、次のように書いてあった(数字は個数)。
Medium Oriental Fish Box | Medium Sushi Box | Large Sushi Selection |
1 Beetroot Infused Salmon Nigiri (ビートに浸したサーモンにぎり) 1 Smoked Peppered Mackerel Nigiri (スモークしたサバのにぎり) 1 Thai Tune Gunkan (タイ風ツナ軍艦巻) 2 Thai Prown Carifornia Rolls (タイ風エビのカリフォルニア巻) 1 Noodle Futo Maki with Sweet Chilli Dip (ラーメンとピーマンの太巻) |
1 Smoked Salmon Nigiri (スモークサーモンのにぎり) 1 Prown Nigiri (蒸しエビのにぎり) 1 Crab Meat Gunkan (カニ肉軍艦巻) 3 Tuna & Cucumber Carifornia Rolls (ツナとキューリのカリフォルニア巻) |
1 Smoked Salmon Nigiri (スモークサーモンのにぎり) 1 Smoked Peppered Mackerel Nigiri (スモークしたサバのにぎり) 1 Prown Nigiri (蒸しエビのにぎり) 1 Omellette Nigiri (玉子のにぎり) 1 Surimi Nigiri (カニ棒のにぎり) 1 Roasted Red pepper Nigiri (ロースト・ピーマンのにぎり) 2 Cucumber Maki (かっぱ巻) 2 Tuna Maki (鉄火巻) 2 Red pepper Maki (ピーマン巻) |
テスコのSUSHIを食べていた我々にとって、赤ピーマンがネタとして使われていることには驚かなかった(学習効果)。
面白いのは、最初のOriental Fish Box。SUSHIではなくフィッシュ・ボックスであり、それはオリエンタルだ。ツナの軍艦巻もタイ風だという。タイ風エビのカリフォルニア巻に至っては、「なんのこっちゃ?」と思わずにはおれないネーミングだ。太巻など、ラーメンとピーマンを巻いたもので、どの国で食べているのだろうと思わせるような組み合わせだった。
ボックスを開けてみると、魚の形をした容器に入った醤油が入っていたし、ビニール製の経木も使われていて、なかなかのものだ(ただし、箸は付いていなかった)。
さて早速試食。
結論からいえば、いずれも「それなり」の寿司だった。テスコのそれはSUSHIだったが、マークス・アンド・スペンサーのものはSUSHIよりは寿司に近い。
特筆すべきネタは、蒸しエビとカニ。蒸しエビは北海道の寿司ネタというよりは関東の寿司ネタだ(札幌の寿司店では見たことがない)。味も日本のものとほとんど変わらない。カニもカニのほぐし身が乗った軍艦巻きだ。
「それなりに美味しいよね。」
何より、シャリはテスコのものとは違って、ジャパニーズライスではないかと思わせるものだった。ただ炊き方はかなり柔らかめだったり固かったり、にぎり方も握ったというより長く伸ばしてネタに合わせて切ったといった感じで、不満は残るものの、少なくともテスコのSUSHIよりも寿司に近いといった印象だった。
当地ならではのネタとしては、スモークサーモンとスモークしたサバ。スモークしたサバは、三枚におろしたサバをスモークし、身のまわりにコショウをまぶしたもので、スーパーなどで簡単に入手できるものだ。我が家でも当地に来た頃はよく食べたものだが(コレ、酒のつまみにもなる)、それを寿司ネタにするとは恐れ入る。
驚いたことに、マークス・アンド・スペンサーの寿司を食べていて、不思議と「ゲテモノ食いモード」にはならなかった。
『結構イケル』
思ってみれば、テスコのSUSHIを食べていたので当地の寿司に慣れてしまったせいかもしれない。また、ネタになっているものも、普通に食卓に出ていたものが多かったので、安心して食べられたのかもしれなかった。
ここまで書いていてハタと気が付いた。
『もしかして、我々の舌は、英国のSUSHIに慣れてしまったのではないだろうか。だからマークス・アンド・スペンサーのSUSHIを食べても美味しいと思えたのではないだろうか』
そうに違いない。そして帰国した我々は、日本の寿司を食べてきっとこう叫ぶに違いない、
「これは、我々が知っている寿司ではない!」[12/Jun/2000]
マークス・アンド・スペンサーの寿司の話をアップしてすぐ、昨年の11月からグラスゴーに来ているHiroshiさんという方から次のようなメールをいただいた。
(前段省略)
さて本題ですが、"OH SUSHI PartII"でマークスアンドスペンサーで寿司を始めた旨載っていましたが、Glasgowのセインズベリー(の一部店舗)では、旧来から扱っていたSUSHIラインアップを刷新し、"Go
out YO-SUSHI"シリーズの販売が5 月から始まりました。M&S/SB共に、小生が昨年来た頃には、既に今回御紹介されているものとほぼ同じSUSHIを扱っていましたが、いかんせん、1パックのvolume
が少ないのが難点の一つではありました。今回のYO-SUSHIシリーズでは,(巻物込み)12個入りと大きめのパックも販売されるようになっています(確か8ポンド前後はした)。内容は、サーモン、ツナ、海老(ゆでた日本と同じもの)、玉子が各2個ずつ、それに椎茸の軍艦巻き、イクラの軍艦巻きが各1個、それとカッパ巻き6個。味は...小生が食べた分は、
M&Sの従来品よりやや上かな???という感じでしたが(シャリが。パッケージも含め外見上も日本の(コンビニで買う)寿司に近くなってきた)。物知りの現地スタッフによると、YO-SUSHIはLondon近郊の業者で、セインズベリーの独占販売下で北進しているようです。アバディーンで入手できるようになったら、お試し下さいませ。
このメールを読んだとき、真っ先に思ったことは『ははあ、小生のような悪食がいるんだな』ということだった(Hiroshiさん、スイマセン)。そして次に思ったことは、Hiroshiさんがセインズベリーの寿司をマークス・アンド・スペンサーの寿司より高く評価し、コンビニで買うものに近くなってきたというのであれば、早速試してみなければならないということであった(飽くなき好奇心!)。
機会があってセインズベリーに買い物に行って(いやSUSHIを探しに行ったのだが)、何気なくサンドウィッチコーナーをのぞいてみると、SUSHIボックスが2個だけあった。見れば帯に確かに「YO! TO GO SUSHI」と書いてある。Hiroshiさんがおっしゃっていた£8のものはなく(多分売り切れ)、一つは£3、もう一つは£2のものだった。
![]() こちら£3 |
![]() こちらは£2 |
我々が購入したものは帯にベジタリアンと書いてあったので生ものはないことはわかっていたが、その内容はテスコのもの、マークス・アンド・スペンサーのものより徹底していた。
£3ボックス | £2ボックス | |
1 Egg Nigiri (玉子のにぎり) 1 Kiwi Nigiri (キーウィのにぎり) 1 Shiitake Gunkan (椎茸の軍艦巻) 2 Pepper Thin Rolls (ピーマン細切巻) 1 Bottle Soy Sauce (醤油) 1 Sachet Pickled Ginger (ガリ) |
1 Mango Nigiri (マンゴーのにぎり) 1 Tomato Gunkan (トマトの軍艦巻) 1 Vegetarian Thick Roll (ベジタリアン巻) 1 Avocado Thin Roll (アボガド細切巻) 1 Pickled Ginger Thin Roll (ガリ巻) 1 Bottle Soy Sauce (醤油) |
これは見事というほかないラインナップである。
日本で見るものは玉子だけ。あとは見事にオリジナルである(多分、世界中のどこかには同じものがあるのだろうが)。我々を感心させたのはキーウィ、マンゴー、トマトをネタにしたものだった。それぞれの味は十分わかる。しかしそれを寿司ネタにするとは・・・。
早速ピーマン細切巻を口の中へ。ピーマンのSUSHIはお馴染みだ。美味しい。
次にベジタリアン巻。これは、キューリ、ニンジン、赤ピーマンを千切りにしたものが太巻にしてあり、ご丁寧にもマヨネーズが入っていた。美味しい。
アボガド細切巻。アボガドはすでにカリフォルニア・ロールとして我が家では定番になっていた。美味しい。
シャリは固い部分もあり、さすがに日本とは違っていたが、それでも、テスコやマークス・アンド・スペンサーのSUSHIとは違って、一番「寿司らしい」味があった。
「何が違うのだろう。」
キーウィのにぎり、マンゴーのにぎり、トマトの軍艦巻は好き好きといったところだ。でも基本的には美味しい。
感心したのは椎茸の軍艦巻。椎茸は細切りにして煮てある。しかもうす味。ちょうどそぼろご飯にのっかっている椎茸のようだ(ちょっとほめすぎ)。美味しい。
美味しさの要因は、実はシャリにあった。食感は日本米だ。これはマークス・アンド・スペンサーと同じ。しかし、テスコにもマークス・アンド・スペンサーにも出せなかった味。それがセインズベリーにはあった。それは酢であった。セインズベリーのシャリは酢の味が感じられる酢飯だったのであった。
寿司とSUSHIの違い。それはネタではない。スコティッシュ・ライスでも日本米でもない。ひとえに酢飯かどうか、その酢の香りが感じられるかどうかだ。奇しくもHiroshiさんがシャリも外見もコンビニに近いとおっしゃっていたのは、実は酢飯の食感にそんな感想を持ったのではないだろうか。
[何のかんのといったって寿司は日本で食べるから寿司。たとえコンビニの寿司であっても、日本以外ではそれを超える味は絶対に出せないというのが持論。小生は(たぶんHiroshiさんも)、それを承知でSUSHIを食しているのであり、この点、お忘れなく。]
ところで、セインズベリーでSUSHIを買って気付いたこと。テスコアバディーン店では、SUSHIは鮮魚コーナーに陳列されている。マークス・アンド・スペンサーアバディーン店では総菜コーナー、そしてセインズベリーアバディーン店ではサンドウィッチコーナーに置いてあった。SUSHIを巡る英国人の見方の違いがかいま見えるようで面白い。日本人的感覚では、セインズベリーが一番探しやすい。何といっても寿司ボックスは、当地のサンドウィッチと同じ感覚で買うものなのだから。
日本にいてこのページを見ている皆さん、『よし、私も試してみよう』とお考えの方もいるでしょうね。味の点では、セインズベリー、マークス・アンド・スペンサー、テスコの順。しかし、テスコ以外には箸は付いていませんので持参することをお忘れなく[19/Jun/2000]。
Previous | Turn To Top | Next |