25.Who Wants to Be a Millionaire ?

  かつて、当地で我々が見ている番組として、“You've Been Framed !”と“The Moment of Truth”を紹介した。現在はそのどちらも放送していない。たとえ人気のある番組でも、2〜3ヶ月放送して休み、数ヶ月後また放送するような形態のようだ。

  さて“You've Been Framed !”や“The Moment of Truth”と同じように、昨年当地に来て以来、必ず見ている番組が“Who Wants to Be a Millionaire ?”というクイズ番組である。これは日本なら『百万長者は誰の手に?』というようなタイトルがつきそうな番組である。現在放送しているのは、我々が当地に来て2回目か3回目のシリーズである。この番組もまた、放送時間が定まっていない。しかも放送するときには毎日放送する。今回のシリーズは次のような放送時間であった。
 1月16日 7:00pm−7:30pm
 1月17日 8:00pm−9:00pm
 1月18日 7:30pm−8:00pm
 1月19日 8:00pm−9:00pm
 1月20日 8:00pm−9:00pm
 1月21日 8:00pm−9:00pm
 1月22日 8:00pm−8:55pm
  今回のシリーズは、おおむね8時から9時の放送であったが、前回のシリーズは、7時から7時半まで放送し、途中で他の番組をはさみ、9時から10時まで放送するというような形態もあった。こういったフレックスなタイムテーブルも、慣れてくると「こんなもんだ」と思ってしまう。慣れとは面白いものだ。

  「皆さんこんばんは、司会の上岡竜太郎です。『百万長者は誰の手に?』新シリーズがスタートしました。あなたも挑戦者になってみませんか。ご希望の方は、オー・ナイン・ダブルオー・ツー・ダブルフォー・ダブルフォー・ダブルフォー(09002 44 44 44)にお電話を。さあ、今夜の挑戦者を決めましょう。」
  もちろん司会は上岡竜太郎であるハズがない。クリス・タラント(Chris Tarrant)である。しかしこの人物、その口調や歯切れの良さ、間の取り方、時々発するクールな会話が上岡竜太郎そっくりなのだ。

  「今夜エントリーした挑戦者は、東京から江戸川太郎さん、札幌から北海くまこさん、・・・・」
  というように、10名の挑戦者の氏名と居住地を声高らかに呼び上げる。

  「それでは問題です。次の4つをアルファベットの早い順に並べなさい。A:Nine、B:Eight、C:Five、D:Ten」
  まずは挑戦者を決めるための早押しクイズ。10名の挑戦者の前にはパネル型のスイッチボードがあり、誰よりも早く間違わずに答えた者一名だけが挑戦権を得る。
  「こんなの簡単じゃないか。B−C−A−Dだ」とテレビの前の小生。
  「さあ、正解です。正解はB−C−A−Dの順です。正解者は3名、その中でもっとも早かったのは北海くまこさん、8秒34でした!」
  ここで示した問題は実際に出た問題(以下同じ)。解答時間もほぼ実際と同じだ(自慢すると小生は5秒程度で解答した)。
  挑戦権を得た者は、ステージ中央の特別の解答席に招かれ、一問一答方式で問題に答えていくことになる。

  「北海くまこさん、ようこそ。今日は北海くまこさんのお母さまも会場に来て応援しています。」(カメラはお母さんを映す)
  「ルールを説明します。問題は15問、15問正解でミリオネアがあなたのものです。あなたには3つのライフラインが与えられます。一つは会場の皆さんの意見を聞くことができるというもの(オーディエンスという)、二つ目は4つの選択肢のうち間違ってる2つを消すことができること(フィフティ・フィフティ)、三つ目は友達に電話をして友達の意見を聞くことができるというもの(フォン・ア・フレンド)です。それぞれ一回ずつしか使えません。よろしいですか。」
  「はい」とくまこさん。
  「ミリオネアを手にしたらどうします?」
  「旅行に行きたいですね。」
  「どちらに?」
  「スコットランドに。」
  「ス、スコットランド? ミリオネアで? そりゃいい!」などとちょっとした会話。
  「それでは問題にいきましょう。『百万長者は誰の手に?』」

  さて、15問正解してミリオネア、つまり100万ポンドが与えられるというのがこの番組のすごいところである。100万ポンドまでの階段は次のように設定されている。
第15問目 £ 1,000,000
第14問目 £  500,000
第13問目 £  250,000
第12問目 £  125,000
第11問目 £  64,000
第10問目 £  32,000
第9問目 £  16,000
第8問目 £   8,000
第7問目 £   4,000
第6問目 £   2,000
第5問目 £   1,000
第4問目 £    500
第3問目 £    300
第2問目 £    200
第1問目 £    100

  第5問目と第10問目は特別な意味を持っている。第5問目まで正解すると£1,000が与えられる。たとえばそのあと、第8問目で不正解になったとしても、最低保証£1,000が与えられる。つまり第6問から第10問までの間で間違っても最低保証£1,000というわけである(これだけでもすごい)。第10問目までいけば£32,000が与えられる。そのあと第15問までで不正解でも、最低保証£32,000が与えられるというわけだ(これも凄すぎる)。

  それにしてもこの金額、日本円に換算してみると、恐ろしくなるほどの金額になる。たとえば、£1=¥180とすれば、£100は¥18,000、£500は\90,000である。£1,000は¥180,000。このあたりまでは身近な金額。ところが、8問目の£8,000は¥1,440,000、10問目の£32,000は¥5,760,000にもなる。そして首尾良く第15問目まで正解すると、ミリオネア、つまり£1,000,000、その金額なんと¥180,000,000、一億八千万円にもなるのである。日本にこんな大金が与えられる番組があるだろうか。せいぜい「一分間で100万円のチャンス」がいいところだ。あまりにケタが違いすぎる。

  出題形式は、問題に対して4つの選択肢が与えられ、その中から一つの正解を言い当てるというもの。概して問題のレベルはそんなに高くはないが、解答者の得意分野が出題されるかどうかがカギとなっているようだ。

  くまこさん、1問目と2問目を正解し3問目。
  「コンピュータのカーソルを動かす道具を何という? A:ラビット、B:モグラ、C:マウス、D:リス。」(あまりにバカバカし過ぎて上岡苦笑い)
  「マウス。Cです。」
  「くまこさん、£300獲得です。」
  その後も順調に正解していくくまこさん。
  「それでは第7問。Granite Cityと呼ばれる都市はどこ? A:アバディーン、B:カーディフ、C:エディンバラ、D:ポーツマス。すでにくまこさんは£2,000獲得しています。最低保証は£1,000。まだ三つのライフラインが残されています。」
  「Aだ、アバディーンだ」と小生。
  「うーん、会場の人に聞いてみます。」と、くまこさん。
  「それでは会場の皆さん、スイッチの準備をして下さい。Granite Cityと呼ばれる都市はどこ? A:アバディーン、B:カーディフ、C:エディンバラ、D:ポーツマス。それではどうぞ。」
  すると、会場の人がこれだと思うもののアルファベットのスイッチを押す。その集計結果が画面に映し出される。第10問目ぐらいまでは、会場の意見は正解一つに集中する。
  「会場の意見では、Aに80%、Bに3%、Cに10%、Dに7%です。」と上岡竜太郎。
  「会場の皆さんを信じます。A、アバディーン。」と、くまこさん。
  「ファイナル・アンサー?」
  「イエス。」
  上岡竜太郎は、ここでちょっと間をおく。ちらっとくまこさんを見て、
  「くまこさん、4,000ポンド獲得です!」てな具合である。

  第10問目ぐらいになると、見ている方も手に汗握る展開になる。そりゃそうだ、高額賞金なのだ。しかしそれとは裏腹に、10問目あたりまでくると英国の細かいところが出題され、小生にはちんぷんかんぷんの場合もあり、そうなると、あとは正解かどうかだけが楽しみとして残される場合が多くなる。解答者にとっても、さすがに手強い問題のようでライフラインを使うことになる(5問目ぐらいまででライフラインを使うと、せいぜい£2,000ぐらいでおしまいになる)。くまこさんの場合すでに会場の意見を聞いたので、残りのライフラインは二つだ。一つの問題に複数のライフラインを使うこともできる。
  そして第10問目を正解すると、何と「£32,000」と記された小切手が示される。¥5,760,000である。しかし上岡竜太郎はそれを見せただけでくまこさんには渡さない。第11問目に移るのである。

  「では11問目。すでにくまこさんは、£32,000獲得しています。残されたライフラインは二つ。いいですね。次の女優の中で、1999年10月のオークションで£768,182で落札されたドレスを身に付けていたのは誰? A:ブリジット・バルドー、B:ジュディー・アンドリュース、C:ジュディー・ガーラント、D:マリリン・モンロー。」
  ちょっと考えたくまこさん。
  「友達に電話します。」
  「わかりました。友達の名前は?」
  「網走のトド美さんです。」
  すると、会場内に電話の呼び出し音が2、3回聞こえる。
  「ハイ、トド美さん、『百万長者は誰の手に?』の上岡竜太郎です。」
  「ハーイ、上岡さん」と、トド美さんの声。
  「ハーイ。いまあなたの友人のくまこさんがここにいます。すでに£32,000獲得しています。」
  「ワーオ。」と、トド美さん。
  「それでは、くまこさん、問題を読んで下さい。30秒以内です。どうぞ」
  そしてくまこさんは問題を読み上げる。電話を受けた友人も迂闊なことはいえない。何しろ高額賞金がかかっているのだ。適当にいったりして間違った場合、その後の友人関係が壊れる恐れがあるのだ。その辺はみんな心得たもので、問題を聞いてまったくわからない場合、素直に「わからない」と答えている。
  「うーん、たぶん80%の確率でマリリン・モンローね。」と、トド美さん。
  友達から解答が出るとだいたい正解なのだが、くまこさん、「80%の確率」にひっかかっているらしい。そこでくまこさん、「フィフティ・フィフティ」といって三つ目のライフラインを使った。
  「それではコンピュータ、誤答二つを消して下さい。」と上岡竜太郎。
  誤答二つが画面から消える。残ったのは、ジュディー・ガーラントとマリリン・モンロー。ちょっと考えたくまこさん、
  「私にはわからないわ。友達はマリリン・モンローというけれど、80%が不安材料ね。お金を持って帰ります。」

  この番組の寛大なところは、というより日本では考えられないところは、問題を聞いて答えられない場合、「お金を持って帰ります」といえば、それまで獲得した賞金がそのままもらえることである。日本であればこうはいかない。次の問題に移る前に問題を採るかお金を採るか、必ず決めさせるハズだ。お金を採ったらそれでおしまい。そのあと問題を読み上げて「簡単な問題でしたね」などといって解答者を悔しがらせたりするのが日本流だ。しかし、英国では問題をいい、十分考える時間を与え、なおかつ「お金を採る」ということが許されるのである。

  「ファイナル・アンサー?」と上岡。
  「イエス、ファイナル・アンサー」とくまこさん。
  「あなたには£32,000が与えられました。ちなみに正解はマリリン・モンローでした。サンキュー。」
  これで、£32,000は北海くまこさんのもの。くまこさん、小切手を手に拍手の中退場。ただちに次の挑戦者が決められるのである。 

  ところで、『そんなすごい金額がもらえるとはいってもほとんどは£1,000ぐらいでしょ?』という声が聞こえてくる。それも日本流の勘ぐりだ。今回のシリーズで挑戦権を得た者は6〜7名いた。そのうち£1,000で帰ったのはたった一人であった。£4,000が一人、£8,000が二人。あとは£32,000を持っていった人もいたし、£250,000が二人、そして£500,000を持っていったおじいさんもいたのである(くれぐれもいうが£500,000は日本円で¥90,000,000、九千万円である!)。ちなみに、次の問題は1と2が£250,000の問題、3が£500,000の問題であった。挑戦者はいずれも正解だった(そして小生も)。
1 「ノーベル賞を最初に受賞した女性は誰? A:キューリー夫人、B:マザー・テレサ、C:ナイチンゲール、D:パンクハースト。」
2 「Five Spice Powderはどこの地域の伝統的調味料? A:中国、B:地中海、C:ポリネシア、D:中東。」
3 「日本語の『カミカゼ』はどんな意味? A:神聖な旅、B:神聖な風、C:自己破壊、D:最終攻撃。」

  この番組は英国でも人気爆発のようで、書店で“Who Wants to Be a Millionaire ?”のクイズ本を見かけたし、昨年のクリスマスプレゼント用にこの番組のゲームセットが飛ぶように売れ、品切れ状態が続いたという。

  上岡竜太郎、いや違ったクリス・タラントは「次回のシリーズはMid Summer」だという。Mid Summerがいつを指すのかわからないが、ぜひミリオネアを獲得するところを見たいものである。[24/Jan/2000]


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