21.本場のクリスマス

  9月から始まったアバディーンのクリスマスは、11月中旬にボンアコードショッピングセンター内にクリスマス飾りが設置され、そして11月28日に、ユニオンストリートのクリスマスライトが点灯されて、いよいよ街中がクリスマス一色に染まりだした。12月4日には、ユニオンストリートに隣接したユニオンテラスガーデンにスケート場もオープンした。

年末年始情報のリーフレット

  先日、日本のある人から「本場のクリスマスを大いに楽しんで下さい」という手紙を受け取った。いいたいことは良くわかるのだが、「本場のクリスマス」という表現に思わず笑ってしまった。日本人からすれば、クリスマスは輸入の行事であるし、それをどこから輸入したのかといえば西欧であるのだろう(もしかしてアメリカ?)。英国は文字通り西欧なので、まさにクリスマスの本場であることには違いはない。しかしクリスマスに本場もウソ場もあるものではない。アドヴェントに祈りを捧げ、キリスト降誕の日を祝う人々が世界中にいて、一方で、クリスマスイヴとクリスマスを単なる行事と考えて、便乗したイベントを企画したりバカ騒ぎする輩もまた、世界中にいるだろう。あえて日本との違いを見出すとすれば、当然のことながら日本以上にクリスマスを祝う人々が多いということ、そしてスコットランド人の気質なのだろうか、それともアバドニアンの気質なのだろうか、何とも雰囲気が暖かく感じられる点だ。


 

このクマさんは毎年登場するらしい

ボンアコードセンターのクリスマス飾り。電動で
動きもあり、ホントにほのぼのする。

  さてアバディーンのクリスマス。

  アバディーンの唯一の繁華街、ユニオンストリートは、12月の毎週日曜日は歩行者天国になる(朝9時から夜6時まで)。そしてその歩行者天国では、絶叫マシンや幼児向けの乗り物などが設置され、50pから£1ぐらいでそれらを楽しむことができる(マシンのロゴから想像するに、それらはビーチレジャーセンターの遊園地から運んできたに違いない)。また、日曜日ごとになにかしらのイベントが繰り広げられて市民を楽しませている。12月5日は子供達向けのエンターテイメント(ぬいぐるみやサンタの恰好をした芸人のパフォーマンス)が繰り広げられたし、12日は何故かスケートボードの演技、そして19日はスコッティシュ・ディと称して、バグパイプの演奏やスコティッシュ・ダンスが披露された。

グランピアン警察バグパイプ隊の皆さん

  それらのイベントもさることながら、我々を楽しませてくれるのは、家々の飾り付けだ。最近は午後3時には暗くなる(もっとも真っ暗になるのは4時頃だが)。すると、家々の窓に飾られた赤や青や黄色のキューブライトが点灯・点滅する(日本ではクリスマスツリーに巻き付けるライトを思い浮かべればいい)。また窓際にキャンドルが飾られた家もあれば、玄関にサンタクロースやスノーマンの形をした置物を置いている家もある(もちろんこれも内部から光るような仕掛けになっている)。それぞれに個性があり目を楽しませてくれる。また、家の中には、150センチ〜180センチものクリスマス・ツリーが飾られている。畳の部屋にはそんなに大きなツリーは似合わないけれど、当地ではホントに部屋にマッチしている。日本ではちょっとした置物程度のツリーを飾るのが普通だが、当地では、そんなに小さなツリーこそ珍しいようだ。

  この季節はポストマンたちも大忙しだ。クリスマスカードが大量に投函されるからである。どれほど大量なのかといえば、設置されているポストからカードが溢れだしているほどだ。これは決して誇張ではない。小生も12月に入って日本向けにカードを投函し始めたのだが、8日過ぎからそんな現象に出くわした。ある日などは最初に行ったポストにどうしても入らず、違うポストに行ったほどである(しかも「押し込んだ」ほど)。考えてみれば当地では年賀状と同じ役割がクリスマスカードにはあるようだ。
  さらに、学校でもカードの交換が盛んだ。我が家の子供達も、毎日、3〜4枚のカードをもらい、そのたびに返事を書く日々が続いた。友達からもらうカードはおおむねシンプルで、市販のカードに相手の名前(もちろんファーストネーム)と自分の名前を書くだけだ。
  もらったカードは、カードホルダーに差し込むか貼り付けて、これも飾っておくのが風習らしく、ミーハーな我が家でも真似をして飾っている。カードの絵がそれぞれに個性があるので見ていて楽しくなってしまう。

  余談ながら、当地はクリスマスに限らず、カードのやりとりが好きなようだ(アバディーンだけではないと思う)。町には大きなカード屋さんが数軒、そして文房具屋や書店にも必ずカード売場がある。しかもいつでも数人がカードの品定めをしている。当然その種類も豊富で、クリスマス用のカードは、「父親向け(dad)」「母親向け(mum)」「夫向け(husband)」「妻向け(wife)」「おじいちゃん向け(grandpa)」「おばあちゃん向け(grandma)」「両親向け(parent)」に始まって、「おじさん向け(uncle)」「おばさん向け(aunt)」「息子向け(son)」「娘向け(daughter)」「兄弟向け(brother)」「姉妹向け(sister)」、さらには「甥向け(nephew)」「姪向け(niece)」「友達向け(friend)」「若いカップル向け(couple)」、はたまた「いとこ向け(cousin)」「義兄弟向け(brother-in-law)」「義姉妹向け(sister-in-law)」などなど。これを一つ一つ吟味して買い求める市民が実に多いのである。

  さらにまた、学校の女性の先生や、スーパーのレジの方々(中年の女性)の中には、サンタクロースのピアスをしている人も見かける。決して少ない数ではない。
  スーパーでは、クリスマス用のお菓子が様々並んでいるが、日本のようなブーツにお菓子がつまっているというようなものは見かけない。クッキーの詰め合わせやチョコレート、キャンディの詰め合わせが主流だ。詰め合わせといってもその大きさは半端ではない。ちょうど日本のクリスマスブーツ[大]と同じくらいの容器にチョコレートだけがたくさんつまっているものが販売されているのだ。見ただけで歯が浮いてくる。ケーキもまた、日本のような生クリームケーキはほとんど見ない。スーパーで見るものは、スポンジのまわりをシュガーでコテコテに固めてある(とてもろうそくなど立ちそうにない。ささらないだろう)。それに赤や青などの着色料で模様を付けているものだ。テルタビーズなどのキャラクターの形をしたものもある(センズベリーにはキティの形をしたものもあった)。
  フラワーショップでもリースを売り始めた。本物のヒイラギを使って、日本で見るリースより幾分大きくみごとだ。それらのリースがフラワーショップの軒下にいくつも並べて飾ってあるのを見ると、日本の松飾りのように見えてくる。

  小さいことながら、こうして見てみると、なるほど本場のクリスマスに違いないなと思ってしまうのである。[21/Dec/1999]

【追録】これぞまさしく本場のクリスマス
  12月24日、いうまでもなくクリスマスイブ。クリスマス用の食料品(といっても大したものではないが)を買うために、そしてドライブを兼ねて、あえて近くのアスダではなく、センズベリーに向かった。するとどうだろう、町の中心部が車で溢れかえっている。金曜日だとはいえ日中(午後)である、皆さんお仕事をしている時間だ。それにもかかわらず、いたるとことで渋滞にぶつかった。
  スーパーの駐車場は満車。当然店内も混雑の様相。いままでこんな混雑には出くわしたことはなかった。さらに、いつもは沢山の食料品がある陳列棚は、部分的に品物がないところもあった。野菜コーナーの一部、精肉コーナーの一部がそうであった。何とか買い物を済ませ、自宅付近に来たとき、またまた渋滞にぶつかった。その車の列はブリッジオブドンのアスダに向かうものであった。

  さらに驚いたのは12月25日、クリスマス当日である。
  「どうせ家にいても暇だし、たまにはゲームセンターにでも行くか」ということになり、途中でCD機で現金を引き出し、アバディーン唯一のゲームセンターがあるファンビーチに向かった。24日とは違って道路には車はなく快適。ほどなくしてゲームセンターに着いた。駐車場所を探そうとしてゲームセンターの入り口付近に来たとき、ゲームセンターが休みであることに気付いた。『日本ならこんな日は稼ぎ時だぜ』と思いながらも、休んでいる事実にはかなわない。そこで、町中をドライブすることにした。何しろ車がほとんどないのである。スイスイ走ることができる。
  郊外の墓地では、お墓に生花を活けている家族がいた。見ればいくつものお墓が生花で飾られていた。
  そして、町の中心部(ユニオンストリート)にも車はほとんど走っていない。目に付く車はタクシー。タクシーだけは営業しているらしい。人すらまばらだ。たまに見る人影は、ほとんどが東洋系で(我々もその一部だ)、地元の人たちは、いない。
  そんな状態だから、99.9%の店はもちろんクローズしている。営業しているのはガソリンスタンドと、そこに併設されているコンビニだけ。どんな小さなニューズエージェントも、コンビニすらもすべて休業。

  そうなのだ、これが「本場のクリスマス」なのだ。それはかつての日本の12月31日と1月1日の雰囲気そのままだ。クリスマスイブ(大晦日)にクリスマス(お正月)のご馳走を大量に買い込む。そしてクリスマス(元日)は家族や親戚とゆっくりと過ごす。クリスマスの翌日はボクシングディー(Boxing Day)(注)で国民の休日。今年は12月26日が日曜日なので27日が振替休日になる。まさに正月三が日だ。
  25日、帰宅した我々は、BBCで女王陛下のクリスマスメッセージを見て、しみじみ今年も終わりだなと思ったものである。

:ボクシングディー(Boxing Day)〜ボクシングディーについては、ヒロコさんのページで「ボクシングをする日」と間違えたヒロコさんとクリスの愉快な会話が出ていたので、ボクシングをする日ではない、ということは知っていた。この日は、英国やカナダの法定休日で、ポストマンやお店の使用人に、クリスマスプレゼント(Box)をあげる日というのが、そのいわれのようである。[26/Dec/1999]


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