27.マイルドな冬

  ちょうど今頃は、札幌は雪まつりの時期で、一番雪が多く寒さが身にしみる季節だ。札幌にいれば、今年も除排雪が日課になっていたハズである(ちなみに、札幌では「雪かき」とはいわず「雪投げ」という。雪をかく程度で除雪や排雪ができるような量ではない)。

  さて、アバディーンに来る前は『さぞかし暗くて寒いのだろうな』と覚悟していた。日本では履かない「ズボン下」まで用意したほどである(夏に苦労して買い求めたものだ)。しかし結局履かずに済みそうな気配である。

  たしかに12月、1月の中旬までは暗い日が多かった。朝は、窓から外の風景が見え始めるのは8時過ぎ。子供達が登校する8時40分過ぎでも薄暗い日も多かった。小生が大学に行く9時頃にやっと明るくなるが、それでも安全のためライトを点けて走る自動車が多かった。曇っていれば(そしてこの方が多かったのだけれど)、お昼過ぎでもライトを点けて走ったこともあった。そして暗くなるのは午後3時過ぎ。朝9時と夕方3時の明るさがほぼ同じように感じた。一方、久しぶりに太陽が顔をのぞかせると、今度はその陽の光で運転ができなくなる。やや大げさにいえば、運転している時の目の高さと太陽の軌道が同じなのだ。晴れている日にはサングラスに替えて運転した。予備のために持参したサングラスがこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。
  しかし、そんな暗い12月、1月だったとはいえ、雪は数えるほどしか降らなかった。しかも一日中その雪が融けなかったのは1回しかなかった。また、強い冷え込みもほとんどなく、霜が降り、道路がツルツル滑ることは何度かあったが、それでも最低気温はマイナス2〜3度ぐらいだった。

  1月も半ばを過ぎる頃になると、基本的には曇りの日なのだろうけれど、太陽が見えることが多くなり始めた。12月の天気予報では、アバディーン付近は「黒の雲マーク」一つだったが、1月中旬頃からは「黒の雲マークに太陽の光」を付けたものが多くなった。最低気温も氷点下にはならなくなった。とはいえ、周期的に強風が吹く日が多くなった。この強風はゲール(Gale)といい、風が吹き荒れる感じだ(天気予報ではGale20とかGale30と表示しているということは風速20メートルということなのだろうか、やっぱり)。面白いことに、日中はそんなに吹かない。夜、しかも深夜にもっとも強く吹くようで、そんな夜は『明日まで吹くのだろうか』と不安になったものだが、朝起きてみるとすっかり風が止んでいることが多かった。そして、強い風で雲が吹き飛ばされるためか、その夜の星はキラキラ輝いて、それはきれいだった。我々が住んでいる地区は、アバディーンの中でも郊外で、しかも高台にあるため、余計な光に星の輝きを遮られることもない(もっとも、アバディーンは中心部でもネオンサインはほとんどないが)。『星座の名前ぐらい覚えておくんだった』と思ったりもしたほどだ。
  この時期の最高気温は4〜7度ぐらいだった。1月下旬に札幌でマイナス15度まで冷え込んだことがあったが、この日のアバディーンは7度だった。

  そして2月に入ると、明らかに日の出が早くなり、日の入りが遅くなっていることに気付くようになった。朝はさすがに8時過ぎにならないと明るくはないが、1ヶ月前なら真っ暗だった7時半には窓から外の風景がはっきり見えるようになった。曇り空の日でも見えるようになった。晴れた朝は、日の出前(7時頃)、オレンジ色に色づいた朝焼けが見られるようになった。
  日中は曇り空であっても、夕方になると太陽の光が窓から差し込む。その光は明るさを増したようだ。そんな日は、日没後に、またまた美しい夕焼け空を見ることができる。毎日がそうであるわけではないが、夕方5時頃まで明るさが残っている日もあるようになった。相変わらずゲールの日は周期的に訪れているが、これは仕方がないことだろう。
  最高気温もだいたい7度前後だが、10度を超える日も出てくるようになった。最低気温は3度前後。天気予報でも、今度は「白の雲マーク」や「白の雲マークに太陽の光」を付けたものが見られるようになった。

  そんな気配を感じたのか、庭先では、小さな白い花が咲き始めた。その花は日が出ると咲き、日が陰るとしぼむ。また、家々の芝は、一冬中、緑が絶えることはなかったが一段と鮮やかな緑になってきた(我が家の裏庭の雑草も伸び始めた)。

  こうして見てみると、たしかに暗い冬ではあるが、決して厳しい冬ではない。これは、札幌は厳しい冬ながら、雪のためか暗い冬とは感じないことと対照的である。日照時間が短いことを除けば、週末にどこかに出かけることは可能なのだ(小生たちは、1月の中旬から、毎週末にどこかにドライブに出かけている)。
  アバディーンの冬は概してマイルドだという印象だ。それとともに、札幌を離れてみると、札幌のような雪深いところに、どんなに吹雪こうが積雪があろうが、180万の人々が普段どおりに生活しているということにも、改めて驚いてしまうのも事実である。

  もちろん冬が終わったわけではなく、3月ぐらいまでは油断がならないだろうが、暗い冬の日々は過ぎ去ったような感じがする。そして小生のアバディーンでの生活も、6ヶ月が過ぎ去ったのである。[09/Feb/2000]


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