18.旅行者と付加価値税

  英国を訪れる旅行者は付加価値税の還付が受けられることは各種のガイドブックで紹介されているので、ご存じの方も多いだろうし、実際に利用した方もいるだろう。正確にいえば、英国に限らずEC域内で買ったおみやげ(商品)の支払い代金に含まれる付加価値税は、ECを離れて日本に帰るときに、申請することによって付加価値税の還付が受けられる。この制度は小売輸出計画(Retail Export Scheme)といわれる。
  小生、この制度を利用してたんまり付加価値税の還付を受けようなどという、よこしまな気持ちはないが(これホント)、いくつかの本を読んでいるうちに、どうやらこの制度、1999年4月に部分的に変更になった点があるようなので、興味半分で調べてみた。ここで紹介する内容は、英国税関(HM Customs and Excise)の三つの通達、つまり、
704号「付加価値税小売輸出について」(VAT Retail Exports)
704/1号「ECを離れる旅行者のための付加価値税の還付について」(VAT refunds for traveller departing from the European Community)
704/2号「小売輸出計画旅行者ガイド」(Traveller's Guide to the Retail Export Scheme)
に基づいている。いずれも1999年7月発行のものである。

 さて、付加価値税の還付を受けるためには次のような条件がある。この二つの条件が1999年に変更になった(ただし従前の規定はわからないので悪しからず)。
1.海外からの旅行者であること。
  これは当然といえば当然。EC域外からの旅行者(EC域内に居住地や通常住む家を持たない者)に対して適用される制度であるわけだ(ただしEC域内に住んでいる人たちへの取扱規定もあるがここでは割愛)。
2.おみやげを買った日の翌月から起算して3ヶ月目の月末までにEC域内から離れること。
  この条件には注意する点がいくつかある。まず英国を離れるのではなくEC域内を離れることだ。EC域内とは、次の15カ国(地域)である。
オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス(モナコを含む)、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、英国
 次に「買った日の翌月から起算して3ヶ月目の月末」とは「3ヶ月以内」とは違う。通達で示されている例では、「2月3日におみやげを買った場合、5月末日までにEC域外から離れること」とある。ということは、もし1月31日に買ったとすれば、4月末日にECを離れなければならないということでもある。
  日本でよくある「ヨーロッパ7日間、5都市めぐり」(想像するだけで気が滅入る)などというツアーは、上述の二つの条件を満たしたものが多いと思う。また旅行者で3ヶ月以上EC域内にとどまる人はそんなにいないだろうから、二つの条件はいつでもクリアできるだろう。

  次に注意しなければならないことは、どんなものでも還付が受けられるわけではない、ということである。つまり、おみやげとはいえ、それは規定上は「商品の輸出」なのだ。たとえ付加価値税を支払ったとはいえ、サービスの提供(形のないもの)には適用されないし、食事などには適用されない。しかも、EC域内を出るまで使うことはできない。買ったままの状態で飛行機に乗り込まなければならないわけだ。スコットランドに住む我々が、カシミヤの高級セーターを買ったとしても、寒いからちょっと着てみよう、などといって袖を通したとたん、それは「輸出」規定に引っかかり、還付申請ができなくなる。つまり国内での消費になって「輸出」にはあたらなくなるからである。

  さらに、旅行者にとって厄介なのが、この「計画」は販売者すべてに強制されるものではないということである。いいかえれば、この「計画」を適用して商品を販売するかどうかは販売者の任意なのだ。したがって、£200の商品を購入して還付申請をしようとしても、販売者がこの「計画」を適用するための登録をしていなければ還付申請は受けられない。この点について「通達」は次のようにいう、「まず、お店に入ったら、小売輸出計画が適用されるか聞いてみよう」。とはいえ、地元の住民を相手に商売をしていると思しき販売店以外、ほぼこの「計画」の適用登録をしていると考えて良さそうだ。
  この「計画」が販売店の任意ということから、たとえ適用申請をしている販売店でも、いくらからでも還付申請ができるというわけではない。あとで触れるように、還付のためには一定の手続きと手数料がかかる。つまり手間暇がかかるわけだ。そんな面倒なことをするのに、税込み£30程度の買い物(税額£4.47)にこの「計画」を適用するとは思えない。販売店によって異なるのだろうが、感覚としては(あくまでも感覚)、£100程度以上の買い物に対して還付申請をしてくれそうな気がする。
  たとえば、購入金額と付加価値税の額は次のようになる。

購入金額(VAT込) 付加価値税額
£50 £7.5
£100 £14.9
£150 £22.4
£200 £29.8
£250 £37.3

  還付申請をする旅行者側からしても、高額商品購入の場合の申請の効果が大きい。とはいえ還付してもらえるものは還付してもらった方がいいわけで、いくらから申請に応じるかを購入前に販売店に聞いた方が良さそうだ。

  ところで、「通達」では、販売店の心得として、「小売輸出計画」を利用する商品販売のためのチェックリストが示されている。ということは、旅行者は、これらの手続きが販売店によって、ちゃんと行われているかをチェックするためにも役立つ。それらのチェック項目は次の10点である。
顧客と販売する商品がこの「計画」を利用する資格があるかどうか
資格のある顧客が今まさに商品を買うためにそこにいるかどうか
顧客が商品販売時の翌月から3ヶ月後の末日にEC域内を離れるかどうか
認められた還付申請書かどうか
販売店と顧客が還付申請書のすべてに記入したかどうか
手数料について顧客に説明したかどうか
還付額と還付方法について顧客と合意したかどうか
購入後顧客が商品を持ち続けなければならないことを確認したかどうか
税関での手続きについてアドバイスを行ったかどうか
10 商品と還付申請書を、最終出発地の税関で証明してもらい、証明済申請書を販売店あるいは還付代理店に送付するよう伝えたかどうか

  さて皆さんがある販売店で、還付申請ができることを確認して総額£320のおみやげを買ったとしよう。付加価値税額は£47.7だ。£1=¥180として¥8,586も税金を支払ったことになる。これは申請をしないわけにはいかない。
  代金支払い時に還付申請書の作成を依頼すると、販売店では、まずパスポートの提示を求めてくる。つまり「EC域外からの旅行者」であることを確認するためだ。その確認が終わると、販売店では、
・税関の公式VAT還付書類(形式407)か、
・販売店が形式407に準じて作成した書類か、
・小売輸出計画用販売インボイス
を作成してくれる。
  還付申請書はおみやげを買ったときに作成してもらうのが原則である。あとで店に戻って作成してほしいと依頼して拒否されても仕方がない。この還付申請書は販売店側の記入欄と旅行者側の記入欄があるが、販売店が求めた部分にサインをすることと、還付の方法(小切手か、指定の口座に振り込みかなど)を決めることを忘れてはならない。
  また、申請に際して手数料(administration fee)がかかるのが普通のようである。「通達」ではそれがいくらかは明記されていない。したがって販売店側のいったとおりの金額がそのまま手数料になる。手数料がいくらかも販売店に確認すべきだろう。還付額はこの手数料が差し引かれた金額である。
  もし購入後の旅行中に還付申請書を紛失した場合には、ただちに販売店に行って申請書の複製(DUPLICATEと記される)を作成してもらう。そんな場合に備えて、還付申請書を受け取ったら、ニューズエージェントにでも行ってコピーしておくといいだろう(コピーは1枚5p程度)。

  還付申請書と買った商品は、空港で税関の職員に提示しなければならない。英国からダイレクトに日本に戻る場合は英国の空港で税関の職員に提示すればいいが、他のEC諸国に立ち寄る場合(トランジットも含めて)には、空港内の自分が搭乗する会社のカウンターに尋ねたほうがいい。還付申請は原則的にEC域内の最終出発地で行うことになっているが、各地の空港でその取り扱いが異なっているらしい。したがって「通達」にも、還付申請をしようとする旅行者は、少なくてもフライトの2時間前には申請を済ませることが、太字で記されている。
  商品の中には、機内持ち込み(Hand baggage)できず、ボストンバッグと同じように預けてしまう(Hold baggage)ものもあるだろう。その場合にも、チェックインの前に自分が搭乗する会社のカウンターに尋ねることになっている。

  税関の職員が還付申請書と買った商品のチェックを終えると、還付申請書に還付許可の証明スタンプを押してくれる。その証明付きの申請書は、
・空港内にあるポストから販売店か還付代理店(VAT還付を専門に扱う業者で販売店ではない)に送付するか、
・空港内にある現金還付ブースに持ち込む
ことになる。現金還付ブースならその場で還付が受けられるので便利なようだが、この還付ブースを利用できるかどうかは、販売店が指定した還付代理店がそのブースを経営しているかどうかが問題となり、しかもその際、さらに手数料が差し引かれる。その手数料は付加価値税3%相当額のようだ(17.5%の3%ではない!)。先の例を引きあいに出せば、17.5%の付加価値税£47.7がそのまま還付されるのではなく、14.5%£39.5が還付されるということになる。
  郵送した場合、申請書作成時に示された還付額が、これまた申請書作成時に記入した方法で手元に届く。還付まで1〜2ヶ月かかるらしいが真偽のほどはわからない。また、還付は販売店または還付代理店から行われるので、税関当局は一切関知しない(ことが「通達」で示されている)。したがって一切のクレームは販売店または還付代理店に行うことになる。

  また、「通達」では、証明スタンプが付いた還付申請書を投函する前にコピーしておくことも勧めている。これはいつまで経っても還付額が送金されない時のクレームの時に役立つという。しかし、出発前の忙しいときにそんな暇があるかどうかは疑わしい(相当早く空港に行けばいいのだが)。

  ところで、付加価値税制から見れば、旅行者に対する商品の販売は「輸出」と同じなので、ゼロ税率が適用される商品供給ということになる。販売店では、顧客がレジデントなのかノンレジデントなのかわからないので、最初は標準税率で商品を販売し、ノンレジデントであるという申告と証拠に基づいて還付申請書を作成し、税関の証明スタンプ付きの申請書が旅行者から届き次第、還付額を送金する。それと同時にその商品販売が輸出にあたるのでゼロ税率を適用するむね帳簿に記録しなければならない。ということはスタンプ付きの申請書が旅行者から販売店に届かない限り、ゼロ税率取引とは見なされないわけである。[6/Dec/1999]


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