1.紙幣は3つの銀行が発行

  スコットランドに来て最初に驚いたことは、3種類の紙幣が3つの銀行によって発行され流通していることだ。つまり、The Royal Bank of Scotland, Bank of Scotland, Clydesdale Bank(クレデェデールバンクと読むらしい)という3つの銀行が独自のSterling(英貨)を発行、それが何の不都合もなく流通しているのである。聞けばイングランドでもウェールズでもBank of England発行の通貨を使っているにもかかわらず、スコットランドだけは、3つの銀行独自の紙幣と、僅かながらBank of England発行の紙幣も流通しているのである。

[8月中に見たBank of England発行の紙幣は、スーパーでもらった£5紙幣1枚のみであった(それを記念にとってあるところがいじましい)。Bank of England発行の紙幣には、エリザベスU世が印刷されているのですぐ他と区別が付く。スコットランドの紙幣の肖像画はすべて男性である。ちなみに、スコットランドの紙幣をイングランド(たとえばロンドン)で使おうとすると、極端な場合、受け取りを拒否されるらしい]。

  代表的な旅行のガイドブックによれば(アカデミックじゃないなあ)、英国には、£50(まだ見たことがない)、£20、£10、£5の紙幣、£2(1998年から発行)、£1、50p、20p、10p、5p、2p、1pの硬貨がある。スコットランドでは、硬貨はBank of England発行のものを利用し、紙幣のみ独自のものを利用している。

  もっとも使い勝手がいいのは£10紙幣である。£20紙幣は使いでがある。外貨換算はレートに左右されるので一概にいえないが、小生は£1を200円で換算している。これでいくと、£10は2,000円、£20は4,000円ということになる。ちなみに£1=100pなので、1pは2円だ。

  また、面白いのは、The Royal Bank of ScotlandのCD(現金自動支払機)で現金をおろすとThe Royal Bank of Scotlandの紙幣、Bank of ScotlandのCDで現金をおろすとBank of Scotlandの紙幣、, Clydesdale BankのCDで現金をおろすとClydesdale Bankの紙幣が出てくることだ。それ以外のCDでは、3種類の紙幣が混在している。

  問題は、何故3種類の紙幣が同じように流通するようになったのかということである。日本では、日本銀行以外の銀行(個人もまた)が貨幣を発行することは法律で禁止され、万一そのようなことをすれば、すぐ御用となる。普通の日本人ならばそんなことをしようなどとは思わないだろう。日本で唯一貨幣の発行を認められているのは、株式会社日本銀行であり、日本銀行が発行した日本銀行券のみが日本の通貨として流通しているのである。

  国際的な取引を無視して考えれば、一国で唯一共通の貨幣を使用することによって、貨幣が交換の手段となる。妥当な価値の尺度になる。

  スコットランドではどうだろうか。貨幣単位はイングランドと同様にポンドである。貨幣単位が統一されている点で、いかなる紙幣であっても交換の手段として、あるいは価値の尺度として不都合はない。しかし、である。どうも釈然としない。ルーツは違うとはいえ、現在のスコットランドは連合王国の一部である。それにもかかわらず、何故Bank of Englandはスコットランドでの紙幣の発行を認めたのか。たとえ百歩譲ってスコットランドでの紙幣の発行が法的に認められたとして、何故、3つの銀行は自らの正当性を主張し、他の銀行の紙幣の発行を阻止しなかったのか。貨幣論あるいは金融論の専門の方、このスコットランドの貨幣制度についてお教え願えないだろうか。

  なお、スコットランドの紙幣は、国際的には認知されていない。スコットランドポンドを日本で両替しようとすると受け取りを拒否される。この意味で、国際的に認知された英ポンドはBank of England発行のものに限られるのである。そのような、国際的にも英国内でも認められていない紙幣が、スコットランドでは、3つの異なる銀行が独自に発行して、今日も堂々と流通しているのである。[20/Aug/1999]


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