10月ももう終わりだというある日、アバディーンからネス湖(Loch Ness)へのドライブを実行した。
  ネス湖といえば、もちろんネッシー(Nessie)である。数年前、ネッシーをとらえたあの有名な写真の撮影者が、あれは真っ赤なウソ、合成写真だったと暴露して、やや興ざめの感はあるものの、それでもネッシーはいてほしい、と思うのは小生たちの年代の郷愁だろうか(矢追純一のUFOや、川口浩探検隊の世界といっしょだ)。

  ルートマップ(“AA 2000 Road Atlas Great Britain”、初版£6.99のものを£2で買った)を見れば、アバディーンからインヴァーネス(Inverness)まで105マイル、インヴァーネスからネス湖畔のドラムナドロヒト(Drumnadrochit)までは14マイルとある(ドラムナドロヒトって変な名前だなあ、アセトアルデヒドを思い出してしまう)。合わせて119マイル、約190q。時速50マイル(mph)で行けば片道約3時間の行程である。インヴァーネスはアバディーンのちょうど北西方向にある。幸いなことにアバディーンからインヴァーネスまではA96の一本道だ(A96は、どうやらアバディーン・インヴァーネスが始終点のようだ)。

  朝、まだ夜も明けない8:15am過ぎ自宅を出発。天候は風雨。この季節には珍しく気温は高く、なま暖かい風が吹いていた。絶好のネッシー日和だ。
  A90をぬけてA96に入りひたすらインヴァーネスを目指す。車はハントリー(Huntly)、キ−ス(Keith)、エルギン(Elgin)をぬけ、ネアン(Nairn)の手前のフォレス(Forres)で休憩。アバディーンからここまでは79.4マイル。10:15am着。フォレスでの休憩が事前に決まっていたわけではない。トイレの標識を見つけて立ち寄ったまでである(近くにNelsons Towerという見所があるらしいが。ちなみにここのトイレは有料で20p)。
  A96の街道筋は、今が黄葉の最後といった風情で、黄色の葉が雨のように降りそれはみごとで美しかった。英国は紅に色づく葉よりも黄色に色づく葉の方が多く、黄色の中に紅が混じっていることもあり、そのコントラストは日本にはない美しさだ(そういえば北海道も黄色が多かったかなあ)。途中、雨は降ったり止んだりだったが、風は相変わらず吹いていた。
  10:40am、フォレスを出発してインヴァーネスへ。11:30am、インヴァーネス市街に入り今度はネス湖に通じるA82に乗り換える。程なくして左手にネス川(River Ness)が道路と平行して流れ、さらに短距離ながら右手にも運河のような川が平行するようになる。つまり川に挟まれて道路が続いているのだ。そして11:50am、ようやく、ドラムナドロヒトにあるロッホネスビジターセンター(The Original Loch Ness Visitor Centre)到着。アバディーンから122.6マイル(約196q)。まずビジターセンターの駐車場を借りて昼食(おにぎり持参)。

  1時間ほど休憩して、いよいよアーカート城(Urquhart Castle)へ。ビジターセンターからアーカート城まではA82を通ってわずか2マイル。アーカート城に着いた時には雨は上がっていたが相変わらず風は強かった。車を駐車場にとめて入場口へ。入場料は大人£3.80、子供£1.20。ついでに日本語のガイドブック(£2.50)も購入(この時期のここにもいましたよ、3人の日本人バックパッカーが)。
  いうまでもなく我々はネス湖にネッシーを見に来たのである。別に城を見学しに来たのではない。しかし、ネッシー目撃ポイントの一つがこのアーカート城付近のネス湖であり、この城の敷地に入らなければネス湖畔まで接近できない。ネス湖は周りを山に囲まれており、道路は山の中腹を切り開いて通されているため、道路の所々にあるビューポイントからは、湖を見下ろす形でしかネス湖が見られないのである(たしか摩周湖もそうだった)。やはりネッシーを間近で見たいし、それがダメでもネッシーが住む湖の水にさわってみたいというのはミーハーな東洋人の性であろう。

  とはいえ、結果からいえば、この崩れかけた石造りのアーカート城は、すこぶる良かった。まだ他のスコットランドの城を見ていないが(エディンバラ城は大きすぎてピンとこない)、ロケーションが最高である。ネス湖に突き出た陸地の突端に建っていたであろうアーカート城。前は湖、後ろは山々。まさに自然を利用した要塞の典型である。いまでは、城の所々しか残っていないが、建てられた時には結構な大きさであっただろうことが想像される。今も残るタワーには急な階段を登る。決して高いタワーではないが、そこからはネス湖がぐるっと見渡せる。

  さて、ネス湖である。
  曇り空、湿った生暖かな風。深緑の対岸の木々。暗い湖。聞こえるのは風の音ばかり。出てもおかしくない条件が揃っていた。
  強い風にあおられて波が立っていた。湖面がまだら模様に見えるところもあった。遠くの方に目を向ければ、湖水の表面が他の色とは違って妙に黒く見えるところもあった。それは、その下を得体の知れない生き物が動いているようにも見えた。
  城の敷地からいくつかの方向を見ながら、ネッシーとの対面を待ったが、結局ネッシーは姿を現さなかった。
  城の水際門(Watergate)から水辺まで下りて、ネス湖の水に触れてみた。冷たい感触が走った。水際の石が一様に茶色だった。ネス湖の水は何か鉱物がとけているのだろうか、それともネッシーの何かが・・・。

  小一時間、アーカート城とネス湖を見学した。
  その後ドラムナドロヒトに戻り、ロッホネスモンスター展示館(Official Loch Ness Monster Exhibition)で、ネス湖(に見立てた池)で泳ぐネッシーと対面。ビジターセンターのネッシーは岩の上にその姿をあらわしていたが、ここ、モンスター展示館の中庭のネッシーは、池の中にネッシーが姿を現し、時折、体の向きを変えるといった凝りようだ。どちらも顔つきはゴジラに似ていたが、これは日本人のゴジラ観とスコティッシュのネッシー観が同じだからだろうか。面白いのは、ネッシーの全体像が明らかではないため、ビジターセンターのネッシーは大蛇のような姿で形成され、モンスター展示館のネッシーは恐竜のような姿であることだ。これは世に衝撃を与えた2枚の写真の影響であることは想像に難くない。1枚は湖面に背中の部分が出た写真で、これを見ればネッシーは大蛇のような姿をしていそうな気がする。一方、首から上が湖面から出た写真を見れば、恐竜のような姿を想像したくなる。後者は合成写真だと暴露されたので、ビジターセンターのネッシー像の方に軍配が上がるようだ。展示館には入らずおみやげだけを買ったが、そのほとんどのネッシーは大蛇のように描かれていた。付け加えれば、ビジターセンターもモンスター展示館も、どちらもトイレは非 常にきれいだった(思わず写真を撮ろうと思ったぐらいだ)。


ビジターセンターのネッシー
       
こちらモンスター博物館のネッシー

  2:40pm、インヴァーネス方面へ。
  A82からA96に乗り換えて一路アバディーンへ。途中4:00pm過ぎにLhanbrydeという小さな町の公共駐車場で10分ほど休憩(この町の名前は何と読むのだろう?)。ハントリーを過ぎる頃には暗くなり、アバディーンシャー(アバディーン郡といった地域名)に入ると朝と同じようにふたたび風雨の中。そして5:50pm、アバディーン着。総走行距離は252.2マイル(約403.5q)だった。


これはおみやげ。ネス湖を訪れネッシーを探したことを証明する証明書と
ネッシーの置物

  「夢を持ち続ける人」は、是非ロッホネスに足を運んでみるべきだ。静寂の中のネス湖とアーカート城は、きっとその昔のスコットランドに思いを馳せるきっかけを作ってくれるはずだ。もしここが、あまりにも有名な場所で、観光地化し過ぎていると思う人がいるならば、是非、10月末のオフシーズンに訪れ直してほしい。ただし、くれぐれも「夢を持ち続ける人」のみだが。

  以上、ネス湖から、大原がお伝えしました。


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