49.サマータイム

 今年の札幌の冬は、11月から雪が積もり始め、毎年のことながら毎朝の「雪投げ」作業が日課になった。我々が滞在した昨冬のアバディーンは、ほとんど雪なしだったが、ヒロコさんの情報では、今年はずいぶん雪が降り、そして積もったらしい。最近届いた長男の担任だった先生からの手紙によれば、雪のため臨時休校したらしい。

 そんな冬とはいえ、アバディーンから持ち帰った例の「鳥時計」は、12月、1月こそその鳴き声は聞こえなかったが、それ以外は朝から鳴く日が続いた。アバディーンとは大違いである。面白いことに、というか、想像されたことながら、あたり一面が銀世界になって、日の光を浴びると、真冬でも甲高く鳴き声を聞かせてくれた。光センサーのなせる技だ。

 アバディーン滞在時に、「北海道ぐらいサマータイムを導入してもいいのではないか」と考えていたが、札幌に戻ってきて、改めて日の出を見てみると、やはり11月、12月に比べて2月、3月の日の出は明らかに早くなっているし(当たり前だが)、最近の朝6時は、活動するのに十分な明るさがあるし、夕方も6時頃まで明るさが残っている。手元にある『理科年表机上版2001』によれば、今年の札幌の3月22日の日の出は5時35分、日の入りは17時49分となっている(3月のデータは2、12、22日の3日間が掲載されている)。『やっぱりサマータイムを実施してもいいよなあ、北海道ぐらい』と思いながら東京を見れば、同じ日の日の出は5時10分、日の入りは18時26分。
 『なーんだ、東京の方が日中が長いじゃないか。』
 ということで、サマータイムは、日の出・日の入りだけから見れば日本中で実施可能のような気がしてくる(ただし、九州・沖縄の日の出は札幌より約1時間遅いので、このあたりを勘案するとサマータイム実施は微妙なことになる)。
 『ところで、気温はどうなっているかな?』
 興味に任せて『理科年表』をめくってみた。

 この『理科年表』には、世界各地の気象データも掲載されている。英国の観測地点は、ロンドン、マンチェスター、プリマス、そしてアバディーンである。ロンドンは首都、プリマスはグレートブリテン島の南端付近の海沿いの町(地図でいえば島の下側)、アバディーンはグレートブリテン島の北東側、北海に面した港町で、この3つの観測地点は選ばれた意味が何となくわかるが、なぜマンチェスターが選ばれているか想像できない。西側であるとすれば、すぐ近くのリバプールを観測地点に選んでもいいはずだ(ま、こんなことはどうでもいいことだけど)。
 さて、当初の興味の中心は、札幌とアバディーンの最高最低気温の比較であった。ところが、『理科年表』では、世界各地のデータは過去30年間(1961−1990年)の平年値が採用されていて、残念ながら最高最低気温は記載がなかった。そこで、平年値(摂氏)で札幌と比較することにした(札幌も同じ統計期間)。と、ここまで考えて、アバディーンでお世話になったヒロコさんの出身地は大阪、サムちゃんはたしか横浜だったハズ。お二人に敬意を表して、大阪と横浜のデータも拾ってみた(一応参考までに・・・)。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
アバディーン 2.9 3.1 4.6 6.4 9.0 12.1 13.7 13.6 11.7 9.1 5.2 3.7 7.9
札幌 -4.6 -4.0 -0.1 6.4 12.0 16.1 20.2 21.7 17.2 10.8 4.3 -1.4 8.2
大阪 5.5 5.8 8.6 14.6 19.2 23.0 27.0 28.2 24.2 18.3 12.9 7.9 16.3
横浜 5.1 5.4 8.2 13.7 18.1 21.1 24.5 26.4 22.7 17.2 12.4 7.7 15.2

 比較してみると、年間の平年気温に大差ないことがわかる(アバディーン7.9度、札幌8.2度)。しかも4月はまったく同じ。
 違うのは冬の気温だ。4月をスタート地点にすると、5月から10月までは札幌の方が気温が高いのに対して、11月になるとそれが逆転し、2月にはほぼ7度ほどアバディーンの方が札幌より高くなる。我々がマイルドな冬と感じたのも無理はない。
 『それにしても、大阪の8月は暑いなあ。たまらんわ』

 『理科年表』では、平年気温のあとに続いて、湿度、降水量のデータが記載されていた。
 まず、湿度。このデータは、観測地点によって統計の対象期間にばらつきがあって、アバディーンの場合は1960−1967年の8年間。札幌と比較すると次のようになる(単位は%、日本の統計期間は1961−1990年)。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
アバディーン 86 83 80 78 78 77 78 81 83 84 87 88 82
札幌 72 71 69 64 67 75 78 78 74 69 68 71 71
大阪 62 62 61 62 64 69 71 68 69 67 66 63 65
横浜 54 57 61 69 72 79 81 78 79 73 66 59 69

 これまた面白いのはアバディーンと札幌の7月の湿度はまったく同じ。とはいえ湿度は圧倒的に札幌の方が低い。しかし、だからといってアバディーンが不快だったというわけではない。湿度の高さが不快に感じるほど気温が高くないからだ。
 『本州は、案外、平年ベースの湿度は高くないもんだなあ』

 最後は降水量。これは過去30年間の平年降水量(mm)で比較できた。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
アバディーン 82.2 51.7 58.4 53.4 61.1 53.8 60.6 75.3 68.5 77.5 75.2 73.6 791.3
札幌 107.6 94.1 81.8 63.2 54.8 66.4 68.7 142.0 137.7 115.6 98.5 100.1 1129.6
大阪 45.8 60.4 102.0 133.8 139.4 206.4 156.9 94.8 171.5 107.5 65.1 34.4 1318.0
横浜 53.0 74.5 120.5 146.7 151.6 217.5 135.1 146.3 196.4 174.0 104.0 49.4 1568.9

 降雪量もアバディーンより札幌の方が多い。5月こそアバディーンの方が多くなっているが、その他の月は札幌が多い。年間降水量で比較すると、340mmも多いのだ。経験からして、この多さのほとんどは雪に起因しているような感じ(『理科年表』には降雪もとかして水にして降水量に加算したことが記載されている)。
 アバディーンでは(というより英国全般にいえることなのかもしれないが)、雨が多いといってもにわか雨程度で傘いらず、ということがこのデータで裏付けられていると思う。

 アバディーンから持ち帰ったアバディーン・カレンダー(おみやげ用のコンパクトなカレンダー)に目を移せば、英国では今日からサマータイムになる。いまだに不安定な気候だとはいえ、ずいぶん日の入りが遅くなっているハズだ。アバディーンもこれから次々に花が咲き乱れるいい季節を迎えるに違いない。[25/03/2001]

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