極私的原価計算用語集(原価計算T)
原価計算の目的
基準では5つが列挙されている。すなわち、財務諸表作成、価格計算、原価管理、予算管理、基本計画の5つ。講義で扱うのは、財務諸表を作成するという目的のために真実の原価を集計する方法である。
原価計算制度(制度としての原価計算)(cost accounting system)
表現は原価計算制度でも制度としての原価計算でもどちらでもよろしい。つまりは、常時継続的に(いつもいつも)行う原価計算のこと。基準では実際原価計算と標準原価計算をその範囲に指定している。
原価の4大本質
価値消費性、給付関連性、目的関連性、正常性のこと。
経済価値性
経済価値というのは難しい専門用語。対価を支払って取得すること(お金を払って買ったもの)をいう。つまり「もらう・ひろう・タダ」は、原価計算の対象にならないわけ。ミネラルウォーターとしてボトル詰めされたわき水(湧水)は原価計算対象にならない?
価値消費性
原価が原価であるためには、経済価値を持つものを消費した場合。経済価値を消費しなければ原価にはならない。消費とはある一つの目的のために使用し、他の目的のために使えなくなった状態をいう。生協でパンを買えば、それはあなたが食べるためで、そのパンはもはや他の学生が食べるために陳列されることはない。あなたは消費者となる。
給付関連性
給付は難しいことば。生産物と同じ意味と思えばいい。生産物が難しいとすれば、作ったもの。価値の消費は作ったものの原価を構成する。
目的関連性
なぜ企業は生産するのだろう?売るためだ。なぜ生産したものを売るのだろう?その企業が存続するためだ。企業の存続(と成長)のために消費されたものが原価となる。
正常性
正常の反対語は異常。異常な発生額でないものが原価計算の対象になる。異常な発生とは何か?それは、たまたま1回だけ発生したもの、あるいはいつもと大きくかけはなれて発生したもの。ということは、いつもいつも発生するものだけが原価計算対象になる。
製品原価(production cost)
売上高と直接的な対応関係にある原価。製品原価は売上という取引によって、損益計算書上、売上原価と表示される。
期間原価(period cost)
ここでは、販売費および一般管理費とだけ覚えておこう。
実際原価(actual cost)
「実際に発生した」原価。簿記原理や応用簿記原理を思い出してみよう。取引はすべて「〜した」と過去形だったでしょ。これが「実際に発生した」ということ。
これを計算するためには、価格(単価)×数量という式を使う。このとき、着目すべきは数量の方で、価格は実際価格でも予定価格でもいい。数量だけは、実際消費数量でなければならない。
標準原価(standard cost)
実際原価とともに原価計算制度の柱になる原価。科学的・統計的に見積もられた原価だというけれど、科学的・統計的ってどういうことかなあ。その数値に合理的根拠があるってことでしょうね。
数値=消費数量が標準で計算される。厳密には標準消費価格×標準消費数量で計算される。
全部原価(full cost)
文字通り原価計算対象となるすべての原価。あまり気にしなくていい、この講義では全部原価が対象なのだから・・・。
部分原価(partial cost)
文字通り原価の一部を対象にした原価。あまり気にしなくていい、この講義では部分原価は対象にしないのだから・・・。
材料費(material cost)
費目別計算の3要素の1つ。材料の消費高。
労務費(labour cost)
費目別計算の3要素の1つ。労働の消費高。労働の消費という表現、すごいでしょ?皆さんが就職したら、皆さんは労働力を就職先企業に提供し、その対価(給料)を得る。企業から見れば、労働力という経済価値を有するものを企業活動で消費していることになる。
ただ、給料と労務費は違うことに注意が必要。労務費は、製品の製造のために消費されたものを指す(原価計算用語)。
経費(factory expense)
費目別計算の3要素の1つ。材料費でも労務費でもないものすべて。ということは、材料費と労務費をしっかり理解しておけば、それ以外のものは経費になるわけだ。
直接費(direct cost)
製品の製造に直接集計できる費目。
間接費(indirect cost)
製品の製造には必要だけれど、製品原価として直接集計できず、何らかの基準で配分が行われて、製品原価を構成するもの。
仕掛品(work in process)
「しかかりひん」と読む。現在製造途中にある状態をいう。
簿記上は、製造工程に投入された直接費はすべて仕掛品勘定で処理される。ちなみに費目別には、直接材料費、直接労務費、直接経費は、すべて仕掛品勘定で処理。
製造間接費(factory overhead)
間接費の総称(当たり前か)。費目別には間接材料費、間接労務費、間接経費は、すべて製造間接費勘定で処理。
単純個別原価計算(job order cost system)
原価部門別の原価計算のプロセスを割愛した個別原価計算。原価計算手続きが簡単なので利用しやすい。原価計算の手続きを勉強する上でも好都合。
配賦(application)
「はいふ」と読む。3人の兄弟がデリバリーピザをどのように分け合うか?年齢を基準にする場合もあるだろうし、じゃんけんで取り分を決める方法もある。どんな基準を利用するかどうかは別にして、分け合わないことには食べることができない。これと同じように、製造間接費の「かたまり」を各製品に配分することを配賦といい、配分する基準を配賦基準という。従来の原価計算ではこの配賦基準として直接労務費をとることが多かったようだ。米国では、新たな考え方で配賦を見直し、ABCなんていう方法を考えた。
振替(transfer)
これは簿記を勉強する上で、何とも厄介に思える手続き。講義で扱った事例は、「仕掛品20,000円を製品勘定に振り替える」などという事例。何をしようとしているのかといえば、ある目的のために仕掛品勘定に記入してあった20,000円を製品勘定に移動させようとしているわけ。仕訳は借方と貸方しかないので仕掛品勘定の借方の金額は貸方に書きうつすしかない。相手勘定は製品となる。
何のために?仕掛中のものが完成したので、完成したことをあらわす製品勘定に移動したいために振替仕訳をするということになる。振替仕訳の代表は総費用・総収益の損益勘定への振替。利益を計算したいわけだ。
原価計算表(cost sheet)
製品種類ごとに原価の発生額を集計した一覧表。
製造原価報告書(cost report)
単に原価報告書ともいう。文字通り製造原価に関する集計結果を一覧表示して、その情報を知りたいと思う人に報告するための書類。企業外部の人に原価情報を知らせるために作成されたり、経営者に知らせるために作成する場合もある。
単純総合原価計算(single process cost accounting)
見込生産に基づき、同じ種類の製品を繰り返し繰り返し生産する生産形態に適用される原価計算。皆さんが生協で買っている商品は「皆さんが買ってくれるだろう」という生協側の見込みで仕入れている。生協が仕入れる商品を生産するメーカーは、「生協が仕入れてくれるだろう」という見込みで製品を製造してる。このメーカーの見込生産で使われる原価計算が総合原価計算というわけである。
なお、総合原価計算の方法にはその生産形態の違いによっていくつかの方法がある。これについてはおいおい採り上げていくのでお楽しみに。
仕掛品原価
期間計算という性質上(会計の基本中の基本)、最初と最後に発生する製造途中にあるモノの原価。ちなみに、仕掛品の意味は同じながら、直接費を処理する仕掛品勘定と混同しないように。
最初に発生しているモノを月初仕掛品、最後に発生したモノを月末仕掛品といい、それぞれの原価が月初仕掛品原価、月末仕掛品原価という。よくよく考えるとわかるけど、当月の月末仕掛品原価は次月の月初仕掛品原価になる。わかるかな?
しかし仕掛品原価の計算はちょっと工夫が必要になる。つまり仕掛品がいくらなのか決めなければならない。これを仕掛品の評価という。評価方法は後日改めて・・・。
なお、原価計算期間は通常1ヶ月なので、月初・月末と表現しているが、もちろん期首・期末でもオーケー。
当期製造費用
当期に製品の製造に投入されたすべての原価。「当期に」というのがミソ。「当期の」製品の製造に投入されたすべての原価は総製造費用(月初仕掛品原価+当期製造費用)。
加工費(conversion cost)
基準では、直接労務費と製造間接費を足したもの、または直接材料費以外の原価要素と規定されている。どちらで計算するかはあなた次第というわけ。
ここに材料があるとしよう。この材料を製品に変換して販売する。材料を製品に変換するプロセスが加工だ。材料は何もしなければ製品に変わるはずがない。材料に手を加えなければならないわけだ。原価計算では、その「手を加える」プロセスを加工と呼び、加工のために必要な原価を加工費と称する。加工の中心となる原価要素が直接材料費と製造間接費。というわけで、総合原価計算では、直接材料費と加工費の2系統に分けて計算をする必要がある。
直接材料費(direct material cost)
製品原価として直接的に集計できる材料の消費高。
材料費の計算
こまかくいえば、材料費の計算は、材料の購入に関する計算と、消費額に関する計算に分けられる。前者は、材料をいくらで買ったのかを決定することで、後者は製品の製造のためにどれだけ材料を消費したのかを決定することである。材料の購入原価は材料そのものの購入価格に材料副費と呼ばれるものを加算するのが原則。
重要なのは材料消費額の決定。材料消費数量×材料消費価格で計算するのが原則。
予定価格法
予定価格は文字通り、いろいろなデータを収集してあらかじめ発生額を予測した価格。実際価格の近似値。実際消費価格に代えて予定価格を用いて原価計算する。でも実際消費価格にぴったり一致しない場合には、予定価格法によって計上された価額を修正する必要がある。その際に使われるのが、材料消費価格差異や材料副費配賦差異などの原価差異勘定。
そもそも原価計算の迅速化のために採用される方法として考えられた。しかし、現在のようにコンピュータによる処理が発達してくるとその意義が薄められるような気がするのだが・・・。
材料副費(Incidental material cost)
材料の購入から製造工程への投入までの間に発生したもろもろの費用。付随費用。材料の運送料や保管料をイメージすればいい。
材料消費価格差異
予定消費価格と実際消費価格との差額。原価差異の一つ。
実際原価計算制度における原価差異は、予定価格と実際価格との差額。
材料副費配賦差異
材料副費の予定配賦額と実際発生額との差額。原価差異の一つ。
直接労務費(direct labour cost)
製品原価として直接的に集計できる労働力の消費高。
賃金給料(wages and salaries)
かつて、ブルーカラー(作業員)がもらうのは賃金、ホワイトカラー(販売員や事務員)がもらうのは給料だということを聞いたことがある。歴史的にはブルーカラーは日給制、ホワイトカラーは月給制で、そのあたりから賃金、給料という使い分けが行われたらしい。もちろん、現在ではほとんど月給制になっているので、そんな区別は必要ない。勘定科目として、一応、賃金給料という言葉が残っていると考えていいだろう。
もっとも、原価計算では、賃金という言葉が生きている。
賃率(wage rate)
労働一単位あたりの賃金。実際賃率と予定賃率がある。労働一単位は、通常、一作業時間をいう。わかりにくいなあと思ったら、アルバイトの時給を連想すればいい。
給与計算期間
皆さんのアルバイト先の給料支払日はいつ?毎月20日?25日?30日?
毎月20日が給料支払日だとして、20日分までもらえることは少ない。だいたい5日前までに締め切って、15日分までの給料が20日に支給されるのではないだろうか。つまり、前月の16日から今月の15日までの労働に対して、20日に支払いが行われる。この「前月の16日から今月の15日まで」というのが給与計算期間。企業によって給与計算期間は異なっているが、就業規則に記載しなければならないことが労働基準法で定められている。
問題は、この給与計算期間と原価計算期間にズレが生じること。先の例では、原価計算期間(月初から月末まで)と給与計算期間との間には10日のズレがある。原価計算では、このズレを調整して労務費の計算を行わなければならない。
蛇足。そのズレを起こさないようにするには、給与計算期間と原価計算期間を一致させればいい。または、ズレを認識しつつも、実際支払額をもって労務費の計算をすることも考えられる。でもどちらも講義では扱わない。
予定賃率
実際原価計算における賃金の計算で、実際賃率のかわりに、原価計算の迅速性のために用いられる賃率。→予定価格法。
賃率差異(labour late variance)
予定賃率を用いて計算した賃金と実際に発生した賃金との差額。
外注加工費(sub-contract cost)
外注とは、いわゆる「下請けに出す」ということ。現在のメーカーは、材料などを下請会社に渡して部品を製造してもらうことが多い。その際、メーカーが材料を購入し、それを下請会社に引き渡して部品を作ってもらって納品させる。このときの下請会社に支払った手間賃が外注加工費となる。契約を結んで材料の調達から部品の製造までを一括して下請会社に任せ、できあがった部品を納入してもらうときは、買入部品費勘定で処理をする(ややっこしいなあ)。
経費の分類では支払経費。
特許権使用料(royalty)
特許権は、発明の独占的・排他的権利。特許権を持っているもの以外は、だれもそれをつかってはいけませんよという法律上の権利。でも、その特許権から利益を得ようと考えれば、自分が持つ特許権を誰かに使わせて、その代わりその使用料を得るという方法をとる場合がある。これを使用を申し出た側から見れば、第三者が持つ特許権を使用する場合に、契約に基づいて第三者に支払った金額を処理する勘定が特許権使用料。
経費の分類では月割経費。
統制勘定(controlling account)
簿記原理の時間に、元帳の売掛金勘定は、売掛金元帳の各人名勘定残高の合計額が記載されるという話を聞いたことがあると思う(忘れた?)。このときの売掛金勘定が統制勘定といわれるもの。
原価計算上、経費として処理される勘定科目は多岐にわたる。それを一つ一つ直接費と間接費に分けて処理するのは、ちょっと面倒。そこで、各経費の発生額を「経費」という勘定で処理することにして、経費仕訳帳で直接費と間接費の合計を計算する。このときの「経費」勘定が統制勘定となる。
配賦率
製造間接費の実際発生額を一定の配賦基準で除して求められる比率。具体的にいえば、製造間接費が100円、直接作業時間が5時間であるとすれば、直接作業時間が配賦基準になり、100/5=20円/hが配賦率になる。つまりこの場合、直接作業時間1時間あたりの製造間接費の発生額を意味する。どんな配賦基準を採るかによって配賦率が異なり、結果としての配賦額も異なる。→配賦
製造間接費配賦差異
実際原価計算制度における製造間接費の予定配賦額と実際配賦額の差異を処理する勘定。原価差異の一つ。