情報処理論 1998..2004年度講義資料

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3. データの読み方

統合型表計算ソフトウェア(PC対応版)の基本的な利用目的は、広い意味でのビジネス業務のホワイトカラーや人文社会系の学生などが身近な数値データを目的に応じて分析することである。国内の主要な統合型表計算ソフトウェアとしては、 "1-2-3"、"Excel"や"三四郎"などがある。 本章では、"Excel"を使用し、代表的なデータの見方を説明して、経済や経営データの持つ特性を明確に示す方法を考える。

経済系または経営系学部の学生である読者が利用する可能性の高いデータは、

1)時系列データ、  2)横断面データ、  3)調査結果のデータ、

の3種類に分類することができる。分析の元になるデータは生のデータとも呼ばれる。以下の章ではこの順に説明する。

3.1 時系列データの読み方

時系列データというのは、ある対象の時間の経過に伴う変化を記録する(あるいは記録した)データである。その利用の目的は、過去の変化における規則性をまとめ、今後の変動形態を予測することにある。そのためには、データの変動形態について以下の性質に注意して観察や分析をする。

  1. データは増加傾向(あるいは減少傾向)を示しているか?
  2. データは単調に増加(あるいは減少)しているか?また、その変化に周期性はあるのか?
  3. データの増加(あるいは減少)のペースは安定しているか? 加速(あるいは減速)しているのか?あるいは頭打ちになっているのか?
  4. データの変動が激しいときは適当な時間間隔でデータを平均化したり、データの値をある単位でデジタル化したりするなど、データを加工してみる。代表的な例は株価である。

3.2 バブル経済の終焉(GDPの指数化)

時系列データの例として、日本のGDP(またはGNP、以下も同様に読み替えて下さい)の経年変化を考える。 1980年代の輸出の急激な増加によってアメリカとの貿易摩擦の激化を恐れた日本政府は、 1985年のプラザ合意を受けて、円高誘導による輸出抑制および国内産業向けの低金利政策を実行した。当時の公定歩合は2.5%で戦後最低であった。 この結果、資金が株式市場や不動産市場へ向い、株式や不動産の価格高騰と”財テク”ブームが日本列島を駆け抜け、それらの価格が泡のごとく一気に膨れ上がった。

次の表は、名目GDP(単位は兆円)、6大都市の市街地価格指数でみた地価および東証株価指数でみた株価の、3つの経済指標に関する1970年〜1995年の暦年データである。 ただし、この表で地価と株価の数字は1990年3月(1968年1月4日)を基準値100とした場合の指数の系列である。地価は1978年以降を与えてある。 《参考書�Δ裡魁檻浩瓠▲如璽燭僚仆蠅�CSVファイルの中に注記してあるので利用に際しても削除しないこと》

【ブック名=バブル経済】(CSVデータ d-bbl 90/95/98, あり)

練習1: 時系列データのグラフ化

データの変動形態について増加傾向(あるいは減少傾向)(1)や単調に増加(あるいは減少)(2)に関して経年変化の動向を判定するには、折れ線グラフで表してみることが基本となる。 実体経済の指標であるGDPの変化、地価と株価の3つを折れ線グラフで描き、それらの動向を比較しなさい。

1995年度までのデータ d-bbl95.csv を利用して、横軸を西暦年、縦軸にGDP、地価と株価をとって折れ線グラフを作成する。 その前に、上の図はデータを1985年を区切りとして分けてあるが、これは画像の横サイズを小さく抑えるための便宜的処置である。70年から95年までのデータを3〜6行目に複写し、8〜11行目を削除しなさい。

練習2: GDP(GNP)の指数化

時系列データの変化を記述するためのデータの加工には、「指数」の形にすることがよくある。 「指数」というのは、基準年を定めてその年の値が"100"となるように他の年の値を変換して得られる指標である。 3つのデータの中でGDPは大きな数値なのでその変化を他と比較しにくい。そこでGDPについても1985年を基準に指数化する。その手順は以下の通り(データは1990年、データが1995年または1998年の場合はE列〜H列で適当に読み替えること):

  1. セルA13に「指数(1985年=100)」を入れ、セルA14〜A17にそれぞれ「西暦年、GDP、地価、株価」を入れる。1974年から1995年の元のデータをセルB15以降に複写する。
  2. 1980年を例として「指数」の計算式を入力してみる。1980年のデータはH列に、1985年のデータはN列にあるはずである。 1980年のGDPの指数を求める式は、セルB15に「=100*B15/N$15」となる。
  3. 同様に、地価と株価についてもあらためて1985年を基準に指数化する。地価の式は、セルB16に「=100*B16/N$16」、株価の式は、セルB17に「=100*B17/N$17」である。
  4. 1980年に対する計算式をその他の年度に複写してすべてのデータを指数化する。 ただし、77年以前の地価についてはデータが無いためエラーとなるので、式を削除しておく。
  5. 地価、株価、GNP(GDP)指数の3つの指数について折れ線グラフを作成する。練習2のグラフと比較してどのような相違があるか述べなさい。(1985年を基準にしたので、すべて100で交差しているのもその1つ)

練習3: 対前年変化率または年間の変化率

変動形態(3)の加速・減速に関して判定を正確に行なうには、生のデータよりも、変化率の形に加工したデータを用いて判断する方がよい。次に、GDP(GNP)の 対前年変化率または年間の変化率を計算する。

  1. セルA19に「対前年指数変化率」を入れ、セルA20〜A23にそれぞれ「西暦年、GDP、地価、株価」を入れる。20行目に西暦の年74〜95を入れる。
  2. GDPについて1975年の計算をするには、 セルC21に1974年から1975年の1年間の変化率を次式で計算する。
    = (C15 - B15) / B15
  3. この式をセル範囲C21〜X21に複写すれば、1975〜1995年の各年間の変化率がすべて計算される。結果をよく観察しなさい。

同様に、地価と株価についても対前年変化率を計算する。結果をよく観察しなさい。 なお、このデータの場合、形態の(4)について検討する必要はないと考えられる。

練習4: 変化率を折れ線グラフで描く

次に、名目GDP、地価および株価の変化率を折れ線グラフで描きなさい。練習3での表を観察したときの印象と比較してみなさい。株価(年平均)はバブル崩壊以外でもかなり変動してきたことがわかる。

練習2の生データや練習3の指数値のグラフでは名目GDPが加速度的に増加しているようにも見えたが、変化率のグラフからは、1975年以降の増加率が低下してきていることが分かる。95年にはついにマイナス成長になった。長い不況期のはじまりであろうか?

解説:  1990年4月から日本銀行が不動産業向け融資の総枠規制を民間銀行に行政指導し、更に公定歩合が連続的に引き上げられ、株価は大幅な値崩れを起こしてしばらく低迷した。 同時に不動産投機の行き詰まりが表面化した。上のグラフでも分かるように、地価はその後1990年9月をピークに若干下落に転じている。 しかし、地価の緩慢な落ち込みは、株価の崩落現象と比較すると同じマネー投機の対象であったことを思うと意外な印象を与えるかもしれない。 これに関する説明は日本経済の専門書に譲る。

練習問題3.1 上の練習1で取り上げた3つの経済指標に関する 1995年〜 年の暦年データを集めて、1995年以降(できれば 年まで)について同様なグラフを作成しなさい。 ただし、1980年のデータを100として各指数を計算する。また、データの出所を明示すること。

ヒント:総務庁統計局のPSI(ポケット統計情報)、 http://www.stat.go.jp/ 、経済企画庁の公表資料集、http://www.epa.go.jp/ 、およびそれらの資料に明示されている参照先を検索してみるとよい。(注:2001年1月の省庁再編に伴うURLの変更があります)

3.3 日本のGDP

時系列データの読み方をさらに説明する為に、続けて日本のGNPと人口の5年おきのデータを取り上げる。元のデータは、 A3:B15およびD3:E15のセル範囲のもので、C列とF列はこれからの練習で作るものである。 資料出所は、経済企画庁 (http://www.stat.go.jp/の「国民経済計算」ページ) および、労働大臣官房政策調査部編「労働統計要覧」1997年版である。 《参考書�い裡粥檻伽瓠▲如璽燭僚仆蠅眛韻検�

練習1: 

名目GNPおよび人口に関するれ線グラフを描いて、それを観察して、いずれの時系列データとも単調に増加し続けていることを読み取りなさい。

この例では、名目GNPおよび人口の両方のデータにおいて1950年の値に比べて1995年の値の方がはるかに大きくなっているので、両者ともこの区間で増加傾向を示していると言える。

  注:  国際的にはGNPの代わりに一般にGDPを使うことが多い。 近年のGDP値は、1985年が 320.4187、90年が 430.0398、95年が 482.9300 である。GNP値より若干少ない。

練習2: 形態の(3)に関して判定を行なう。

これに関しては5年間の変化率を次式で計算し、変化率の形に加工したデータを用いて判断する方がよい。

  1. C列を挿入する。
  2. セルC7に1950から1955年の5年間の変化率を次式で計算する。
    = ( ( B7 - B6 ) / B6 ) * 100
  3. 残り年に対してはこれを複写すれば、セル範囲C7:C15に名目GNPの変化率がすべて計算できる。

【ブック名=時系列データ】(CSVデータあり)
 
A
B
C
D
E
F
3
年
名目GNP
名目GNP
消費者
人口
人口の

4

単位:兆円 変化率(%) 物価指数 単位:百万人 変化率(%)

5

GNP GRR(GNP) POP GRR(POP)

6

1950

3.9470

83.200

7

1955

8.3990

112.7945

89.276

7.3029

8

1960

15.9980

90.4751

93.419

4.6407

9

1965

32.7730

104.8569

98.275

5.1981

10

1970

73.1884

123.3192

32.3

103.720

5.5406

11

1975

148.1699

102.4500

55.3

111.940

7.9252

12

1980

240.0985

62.0427

76.3

117.060

4.5739

13

1985

321.5559

33.9267

87.4

121.049

3.4077

14

1990

432.9719

34.6490

93.5

123.611

2.1165

15

1995

486.9214

12.4603

100.0

125.570

1.5848

練習3: 名目GNPの変化率の折れ線グラフ

次に、名目GNPの変化率を折れ線グラフで描きなさい。 生データのグラフでは名目GNPが加速度的に増加しているようにも見えたが、変化率のグラフからは、1970年以降の増加率が低下してきていることが分かる。

練習4: 人口データの変化率

人口データについても変化率を計算し、変化率の折れ線グラフを作成しなさい。 生データのグラフでは一定のペースで増加してきているようにも見えたが、変化率のグラフを見ると、人口の変化率は期間ごとに大きく異なった値で増加していることが分かる。

練習5: 人口データの指数化

人口に関して1995年を基準年と定め、1950年の指数値を計算する例を考えてみる。 指数値をH列に計算することにしよう。1950年の人口の指数値をセルH6に求めるには次の式

= ( F6 / F$15 ) * 100
を入力する。1995年も含めて他の年の指数はこのセルを複写すれば計算できる。

 指数に加工されたデータのグラフは、変化率の場合とは異なり、生のデータとまったく同じ形状のグラフとなる。しかし、指数データでは値が基準化されているので、生のデータよりも倍率が簡単に比べられるという利点がある。指数を本格的に用いるのは、複数のデータ系列を総合して分析する場合である。このような指数に関しては後の章で取り上げる。

練習問題3。2: 
 いま仮に、実質GNPは名目GNPを消費者物価指数で調整したものであり、

実質GNP =(名目GNP/消費者物価指数)×100
で与えられるとする。上の例で、実質GNPと名目GNPの変化を比較し、その違いがわかるグラフを描きなさい。(まず、棒グラフで試してみる)

練習問題3。3: 
 時系列データの表で人口1人あたりの実質GNPについて、5年ごとの年平均成長率を計算し、練習3の名目GNPの平均成長率とを合わせて、1つの折れ線グラフでを描き、2つのGNPの変化を比較しなさい。

 この章で説明してきたような観察を行い、データの変動形態を正確に把握することはデータの見方の基本であり、その目的に表計算ソフトウェアは手軽で非常に便利な道具となる。 このことは、統計学の色々な手法を学んでデータの性質に対する高度な分析結果が得られるようになっても、軽視してはいけない。 《参考書:�い�4.2章》

練習問題3。4: 
 企業が発行している株価の傾向を観察しその企業の業績を予測する。
 (注:株価は投資家の財務分析の結果を反映したもので、経営業績を予測する材料として適当ではないとする学説も有力である)
 1995年1月から1996年12月までの2年間(もしデータが手に入るならばより最近の2年間へシフトしてもよい) について、北海道拓殖銀行と野村証券の株価を東証第1部の平均株価と比較したい。東証第1部における始値、高値、安値、終値および1日売買高の月平均値を図書館やWWWの検索サービスなどで調べて、これらをグラフで表しなさい。
 株価グラフを作るには、まず、折れ線グラフを選び、その書式指定(フォーマット)にローソクの様式を選ぶ。 株価グラフには、始値・高値・安値・終値の4つのデータが必要である。売買高はオプションで付けられる。
 注:上記の2社は1997年始めに経営状況が不良なものと優良なものの代表として選んだ。しかし現在、前者は既に消滅しているのでこれに代わる別の企業を選ぶ必要がある。また、ここでは全てのデータの入手が困難ならば、始値=高値などとおいてよい。

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