授業内容
04/26
音声の性質
- 音声と他の音の違い
- 音声学の下位分野
- 自分の発音の観察
調音器官,発声のメカニズム
- 音声器官と調音器官の区別
- 調音器官の名称の確認
- 音声記号の書き方
- 気流の発生源と音の名称
- 声帯振動のメカニズム(動画)
- 子音と母音の違い
有標性
- 音の体系は無標(一般的)なものと有標(特殊)なものに分けることが一般的である.
- 言語獲得では無標なものから先に獲得し,有標なものほど後に獲得される.
- 言語喪失では有標なものから先に喪失し,無標なものほど後まで残る.
- 調音位置の有標性:両唇>歯茎>軟口蓋
- 調音方法の有標性:破裂音>摩擦音
音韻論の諸概念
- 音声学と音韻論
- 訓令式とヘボン式
- 音素
- 異音
- 最小対
- 相補分布
- 音韻規則
05/10
カ行の子音
音声学
- 調音位置:軟口蓋,調音方法:破裂,声帯振動:無声
- 口蓋垂音:調音位置を後方にずらす。
- 帯気音:閉鎖の開放と声帯振動のタイミングをずらすことによって産出する。
- 口蓋化:「キ」や「キャ,キュ,キョ」
- 促音:直後の子音が長く発音される。
- 長音:直前の母音が長く発音される。
音韻論
- 口蓋化の規則:/i/の直前の子音を口蓋化させよ。
- 口蓋化子音の制約:口蓋化の特徴を持つ子音(=拗音子音の音素)の直後に/i/はこれない。(/e/はまれにOK)
- カ行子音の音素=/k/
- キャ行子音の音素=/kj/
パ行の子音
音声学
音韻論
- パ行子音の音素=/p/
- ピャ行子音の音素=/pj/
タ行の子音
音声学
- タ・テ・ト=調音位置:歯茎,調音方法:破裂,声帯振動:無声
- ツ=調音位置:歯茎,調音方法:破擦,声帯振動:無声
- チ=調音位置:歯茎+口蓋化,調音方法:破擦,声帯振動:無声
- そり舌音
音韻論
- /t/=タ・ティ・トゥ・テ・ト
- /c/=ツァ・チ・ツ・ツェ・ツォ
- /cj/=チャ・×・チュ・チェ・チョ
マ行の子音
音声学
- 調音位置:両唇,調音方法:鼻,声帯振動:有声
- 無声音の[m]では[m]の下に白丸をつける。
音韻論
- マ行子音の音素=/m/
- ミャ行子音の音素=/mj/
05/17
ナ行子音
音声学
音韻論
ラ行子音
音声学
- 調音位置:歯茎,調音方法:はじき,声帯振動:有声
- イギリス英語の/r/:歯茎・接近・有声
- アメリカ英語の/r/:そり舌・接近・有声
- スペイン語の/rr/:歯茎・ふるえ・有声
- フランス語の/r/:口蓋垂・ふるえ・有声
- 英語の/l/:歯茎・側面接近・有声
- 軟口蓋・側面接近・有声
音韻論
- /r/:ラ行
- /rj/:リャ
- 日本語のラ行の分布:和語では語頭に現れない。
サ行子音
音声学
- サ・ス・セ・ソ:歯茎・摩擦・無声
- シ:歯茎硬口蓋・摩擦・無声
ただし後部歯茎音の記号(長い"s")で代用することが多い。
- そり舌音
- 歯音:舌端が上歯の真下に来るように調音する。
音韻論
ハ行子音
音声学
- ハ・ヘ・ホ:声門・摩擦・無声
- フ:両唇・摩擦・無声
- ヒ:硬口蓋・摩擦・無声
- 有声の[h]:母音中のハ・ヘ・ホに見られがち。
音韻論
- /h/:ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ
- /hj:ヒャ・×・ヒュ・(ヒェ)・ヒョ
- /f/:ファ・フィ・×・フェ・フォ
ヤ行子音
音声学
音韻論
- /j/
- 口蓋化子音と同じく,/a,u,o/の前にのみ来れる。
ワ行子音
音声学
音韻論
ガ行子音
音声学
- 母音の間:軟口蓋・摩擦・有声
- その他:軟口蓋・破裂・有声
- 鼻濁音:語中の濁音を鼻音で発音する話者がいる(東北地方とか,それ以外でも高年層を中心に)。NHKなどのアナウンサーはこれを標準語の発音としている。
- 口蓋垂・破裂・有声
音韻論
バ行子音
音声学
- 母音の間:両唇・摩擦・有声
- その他:両唇・破裂・有声
音韻論
05/31
ザ行子音
音声学
- 母音の間:歯茎・摩擦・有声
- その他:歯茎・破擦・有声
音韻論
ダ行子音
音声学
- ダ・デ・ド:歯茎・破裂・有声
- ヅ=ズ,ヂ=ジ(四ツ仮名)
音韻論
- /d/:ダ・ディ・ドゥ・デ・ド
- /dju/:デュ(もしあれば)
ン(撥音)
音声学
- 両唇・鼻・有声:両唇閉鎖音の前
- 歯茎・鼻・有声:歯茎閉鎖音の前
- 軟口蓋・鼻・有声:軟口蓋閉鎖音の前
- 口蓋垂・鼻・有声:末尾
音韻論
- /N/(原音素):鼻・有声という特徴のみ持ち,調音位置は後続音によって決まる。
- 他の原音素:/Q/促音(子音という特徴のみ持つ)
母音
- 作る要素:舌の前後(位置),舌の高低(方法?),唇の丸め
- 前後:前舌−中舌−後舌
- 高低:狭−半狭−半広−広
- 丸め:円唇−平唇
基本母音
日本語の母音
- /u/=中舌で円唇が弱い。が,表記としては後舌を使うことが圧倒的に多い。
- 無声化
- 母音=/i/か/u/
- 前が無声子音
- 後ろが無声子音か何もない(末尾)
母音連続
同時調音
- 同時調音:二箇所で狭めを伴う調音
- 二重調音:閉鎖の度合いが同じ
- 二次的調音:閉鎖の度合いが異なる
- 主な二重調音:破裂,接近
- 主な二次的調音:唇音化,(硬)口蓋化
- その他の注意する調音
- 破擦化
- 帯気音化
- 鼻音化
- 有声化
- 丸めの強い
- 丸めの弱い
- 息もれ声
- きしみ声
- 歯音(化)
06/07
モーラと音節
- モーラ:最も小さな韻律単位。1文字1モーラ。
- 自立モーラ
- 特殊モーラ
- 音節:色々な言語で重要な韻律単位。自立モーラと特殊モーラをまとめて1と数える。
- 聞こえ度の山の数=音節数という関係が多くの場合に成り立つ。
- 交換エラーのパターン
- 混成の作られ方
- AB+XY→AYという語形成
- 日本語:AYの長さ=XYのモーラ数
- 英語:A=子音,Y=ライム
- 吃音とモーラ
- 日本語では初頭のモーラを繰り返すことが多い。
- 英語では初頭の子音を繰り返すことが多い。
- 音節構造の言語間比較:日本語はモーラ中心,英語はライム中心。
- (外来語)略語形成の条件
- 最低2モーラ必要である。(例:ヘリコプター→ヘリ,*ヘ)
- 最低2音節必要である。(例:ダイヤモンド→ダイヤ,*ダイ)
- 略語は軽音節+重音節は基本的に許されない。(幼児語も同じ)
- 音節構造の有標性:重音節+軽音節<軽音節+重音節
アクセント
- 音声的実現による分類(ピッチアクセント,ストレスアクセント)
- 弁別特徴による分類(アクセント,トーン)
- トーンの分類(音節トーン,単語トーン)
- アクセントの機能
- 日本語アクセントの特徴:ピッチアクセントで位置が弁別的。
- ピッチパターンの特徴
- 最初の2モーラの高低が異なる。
- 一度「高」から「低」になったら,二度とあがらない。
- そのため,単語にアクセントの有無,位置を記載しておけば,自動的にピッチパターン(各モーラの高低)は出てくる。
06/14
- ただし,必ずしも全ての単語について,そのアクセントの有無,位置を覚える必要はない。(少なくとも無意味語は覚えているはずがない)
- 外来語アクセント規則:後ろから3モーラ目を含む音節。
- 外来語の平板化条件
- 全体で4モーラである。
- 最後が軽音節の連続である。
- ただし,語末母音が/u/(語源的には挿入母音が多い)だと平板型になりにくい。
- 複合語アクセント:後部要素が複合語全体のアクセントパターンを決める。
- 後部要素が平板,または語末アクセントのとき
- 長い(3モーラ以上)→語境界の直後の音節
- 短い(2モーラ以下)→語境界の直前の音節
- 後部要素が語頭,語中アクセントのとき→後部要素のアクセントを保持する
- 複合語アクセントの揺れ:もとのアクセントの位置や語境界ではなく,後ろから3モーラ目を含む音節に置かれることも結構多い。(例:なまたまVご〜なまたVまご/みなみアVメリカ〜みなみあめVりか)
- 複合語アクセントの規則と外来語アクセントの規則はかなり「近い」関係にあることを示唆している。
- 動詞,形容詞のアクセント
- 有無のみの対立する。
- 語幹末の音節に置かれやすい。
- まとめ:次のところにアクセントは置かれやすい
- 後ろから3モーラ目を含む音節
- 語の境界に隣接した音節
- これは単純語の名詞についても言える。すると,言語(日本語)を獲得するときに本当に覚えるべき情報は実は思っている以上に少ないかもしれない。
06/28
リズム
リズムの類型
フット
- 日本語のフット=2モーラ
- 英語のフット=強勢のある音節1つとそれに続く強勢のない音節
- 日本語でフットが影響する現象:韻文,数字,惑星,曜日
- フットと音韻現象:アクセントの分離
イントネーション
- アクセントとイントネーションの異同:単位,機能
- 句末のイントネーションを作る要素:上昇・下降/速い・遅い
アクセント句
- 句頭の上昇:単語のはじめに見られる上昇。
- アクセント句:句頭の上昇が起こる領域。この領域の中には最大一つのアクセントが含まれる。だからアクセント句と呼ぶ。
- 文のピッチパターンは必ずしも単語を単独のピッチパターンを足したものにはならない。
句レベルの規則(アクセント句の規則など)が存在している。
- アクセント句の音韻条件:左から見ていって,アクセントを含む単語に後続する助詞までが一つのアクセント句になる。
起伏+起伏:(やまVもりの)(きょVうだい)
起伏+平板:(やまVもりの)(こども0)
平板+起伏:(やまもと0のきょVうだい)
平板+平板:(やまもと0のこども0)
- アクセント句の統語条件:左から見ていって,統語構造の新しい始まりではアクセント句も新しく始まる。
例:「熊本のおばさんに怒られた」vs.「熊本でおばさんに怒られた」
- アクセント句のリズム条件:1つのアクセント句に単語は3つまでしか含まれない。
07/05
音声のバリエーション
- ラーソラ調
- 高い平坦調
- じりじり上昇調
- 高い山と低い山
- 末尾の上昇
- 空気すすり
音声の物理と心理
- 音響音声学:音の物理的性質を探求する分野
- 音:言ってしまえはただの空気の波
- 音の3要素(知覚/物理)
- 基本周波数:音波の周期が1秒間に繰り返される回数(単位はHz(ヘルツ))
- 母音の音響特徴:F1とF2
- F1:舌の最高部が低いと高い数値になる。
- F2:舌の最高部が後ろになると低い数値になる。
- 調音位置の違い
- [p]:低いF2,F3
- [t]:1600-1800HzぐらいのF2
- [k]:1300Hzあたりと3000Hzあたりにローカスがある。
07/12
音声の物理と心理
- voice bar (buzz bar):有声音で低い周波数に見られるエネルギー
- 摩擦音:全体的に雑音が見られ,破裂音や破擦音よりその部分の持続時間が長い。
- 歯茎音周り(粗擦音)とその他では振幅が異なる。
- 有声音の方が無声音よりも振幅が大きいが時間が短い。
- 歯茎音は歯茎硬口蓋音よりも高い周波数にエネルギーが集中している。
- 鼻音:低い周波数壱岐に強い振幅を持ち,高い周波数域の振幅を弱める(アンチフォルマント)。
- 接近音:母音の連続に比べて持続時間が短い。
- そり舌音:F3が下がっている。
- 側面接近音:子音部分のエネルギーが弱い。
- はじき音:[d]の閉鎖が短くなったもの。
- 母音の内在時間:[a]>[o]>[u]
- 環境と持続時間:[dad]>[tad]>[tat]
- 単語全体の時間は音節よりもモーラと相関を持つ。
- 促音の直前の母音はやや長めに発音される(今のところ日本語独自の傾向)
- リズムの計測:第1句+ポーズ=第2句=第3句+ポーズ
- 感情と音声:感情の違いはピッチに良く現れているが,それ以外(モーラの長さや口の開け具合など)も大きく関与している。そのためピッチだけ取り替えても感情が入れ替わったようには聞こえない。
- カテゴリー知覚:有声と無声の知覚
- 連続的知覚:母音における開口度の知覚
- マガーク効果:聴覚と視覚の相互作用