齊 藤 正 彰 @北星学園大学

2006.10.24 公開
2006.10.26 更新
2006.11.03 更新
2006.11.06 更新
2006.11.30 更新
2006.12.09 更新
2006.12.13 更新

最も条数の多い法律


現行の法律の中で、条数が一番多いものは?


ここで、「法律」とは、厳密な意味の法律とします。すなわち、日本国憲法第59条の定める方式に従い、国会の議決を経て制定される国法の形式をいうこととします。つまり、条約、政令、府令、省令などは含まない、ということです。
また、本則の条数を対象とし、附則は考慮しないこととします。

[*]法律の構成
    (法制執務コラム集:参議院法制局
[*]見落とせない附則
    (法制執務コラム集:参議院法制局

田島信威編著『立法技術入門講座〈第2巻〉法令の仕組みと作り方」(ぎょうせい・1988年)126頁によれば、

大きな条数を持つ法律としては、第一〇四四条まである「民法」、第八五一条まである「商法」、第七四七条まである「地方税法」などがある。

とされます。

 (1) 民 法 ? 

答えは民法、と早合点してはいけません。
実は、民法典は2つの法律からなるのではないか、という「疑惑」があります。

[*]広中俊雄「民法改正立法の過誤」
    法律時報71巻6号(1999年)120-121頁
[*]広中俊雄「民法改正立法の錯誤(再論)―政府見解の誤謬」
    法律時報72巻3号(2000年)93-96頁

試みに、法令データ提供システムで「民法」を検索してみると、


となっています。
民法(民法第一編第二編第三編)(明治29年4月27日法律第89号)は第1条〜第724条、民法(民法第四編第五編)(明治31年6月21日法律第9号)は第725条〜第1044条です。

ところで、平成17年4月1日に、いわゆる民法の現代語化が施行されました。

[*]法律の現代語化−求められる法文の民主化の努力−
    (法制執務コラム集:参議院法制局

このときの「民法の一部を改正する法律」(平成16年12月1日法律第147号)を見てみると、平成16年改正で「民法一本化」(?)が行われたようにも見えます。

平成16年12月1日法律第147号は、前出の法令データ提供システムでは見ることができません。ここでは、

[*]http://www.shugiin.go.jp/itdb_main.nsf/html/index_housei.htm
    (制定法律:衆議院

で見てみます。この「制定法律」のページには、第1回国会(昭和22年)以降に国会で成立した法律の本文に関する情報を掲載しています。

法律第百四十七号(平一六・一二・一)

  ◎民法の一部を改正する法律
 民法(明治二十九年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
 題名及び目次(明治三十一年法律第九号において付されたものを含む。)を削る。
 次の題名及び目次を付する。

   民法
目次
 第一編 総則

   [以下略]


となっています。

上では略しましたが、目次は、第4編・第5編まで続けて掲載されています。

[*]法律の目次
    (法制執務コラム集:参議院法制局

ちなみに、現在ある「△△法」を改正するために、「△△法の一部を改正する法律」が制定されます。こうした「一部改正法律」の内容が元の△△法に溶け込むこと(溶け込み方式)によって、△△法の改正が実現されます。

前出の民法の一部を改正する法律の内容を、もう1度見てみると、

 第八百九十七条に見出しとして「(祭祀に関する権利の承継)」を付し、同条第一項中「慣習に従つて」を「慣習に従って」に、「者がこれを」を「者が」に改め、同項ただし書中「但し」を「ただし」に、「従つて」を「従って」に改め、「、これを」を削り、同条第二項中「明か」を「明らか」に、「前項の」を「同項の」に改め、「これを」を削り、同項に項番号を付する。

 第八百九十八条の前に見出しとして「(共同相続の効力)」を付する。

 第九百条に見出しとして「(法定相続分)」を付し、同条中「左の規定に従う」を「次の各号の定めるところによる」に改め、同条第四号ただし書中「但し」を「ただし」に改める。


と書かれています。「改める」「削る」「加える」といった一部改正法律の定め方は、「改め文」とも呼ばれます。

[*]「改め文」―法令の一部改正方式―
    (法制執務コラム集:参議院法制局

なお、2005年版以前の六法と、2006年版以降の六法を見比べてみると、民法の体裁が大きく変わっています(第1編〜第3編が〈漢字+カタカナ〉の文語体から〈漢字+ひらがな〉に変わったこと、第4編・第5編にも見出しと項番号が付されたことは、もちろんですが)。また、「民法の一部を改正する法律」(平成16年12月1日法律第147号)は、本則は(大変長いですが)1項のみ、附則は第103条まであります。

さて、少なくとも現在は「民法」は1本の法律であると考えるならば、民法の条数は全部で1100箇条となります。

「民法は第1044条までではなかったか?」と思われるかもしれません。

実は、民法には、第32条の2、第84条の2、第84条の3、第98条の2、第174条の2、第269条の2、第398条の2〜同条の22、第465条の2〜同条の5、第806条の2、第806条の3、第811条の2、第817条の2〜同条の11、第849条の2、第859条の2、第859条の3、第876条の2〜同条の10、第904条の2、第958条の2、第958条の3、第969条の2といった「枝番号」のついた条があります。

既存の法律を改正して新しい条を追加する場合、新条文の挿入箇所以降の条番号が繰り下がるのを避けるため、枝番号が用いられます。

[*]条の枝番号と削除
    (法制執務コラム集:参議院法制局

したがって、枝番号が付いた条も1つの条であって、「第32条の2」は第32条の一部とか付け足しではありませんから、これらも数え合わせる必要があります。

他方、民法の第208条、第367条、第368条、第622条は「削除」とだけ書かれています。

条の追加による条番号の繰り下がりを避けるために枝番号を用いたのとは逆に、条の削除による条番号の繰り上がりを避けるために「第△条 削除」という抜け殻のような条を残すのです。

[*]条の枝番号や「第○条 削除」という条は整理されないのか
    (法制執務コラム集:参議院法制局

「削除」とされた条を数えないこととすると、差し引き1100箇条となるのです。

 (2) 商 法 ? 

では、「第八五一条まである」とされていた商法は、どうでしょう?

商法(明治32年3月9日法律第48号)は、会社法 (平成17年7月26日法律第86号)の施行に伴って、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年7月26日法律第87号)による改正で、商法第33条〜第500条が削除されました。



「抜け殻」となった条は数えないならば、商法は大幅に条数を減らしたことになります。

なお、法令データ提供システムの表示を見ると、たとえば、こうなっています。


会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による改正(削除)前は、第168条の2、同条の3、同条の4という枝番号のついた条がありました。「第33条から第500条まで 削除」には、これらの条も含まれているはずです。

ところが、法令データ提供システムの表示は、枝番号の付いた条は削り、それ以外の条は「抜け殻」を残すという形になっています。

ちなみに、会社法も第979条まである大きな法律ですが、条数は978箇条です。国会審議の段階で法案が修正を受け、第179条が丸ごと削除されました。公布された時から(最初から)第179条は「抜け殻」なのです。

ところで、978箇条ということは、民法典は2つの法律からなると考えるならば、民法(民法第一編第二編第三編)の751箇条を上回ることになります。

 (3) 地 方 税 法 ? 

冒頭で引用した『立法技術入門講座』の記述によれば、地方税法は「第七四七条まである」とされていました。しかし、地方税法は、出入りの激しい(?)法律で、枝番号や削除が多数あり、結局は1208箇条となるようです。

そうなると、民法を1本として数えたときの1100箇条を超えて、地方税法の条数が最多かと思うと、実はまだ伏兵がいました。

 (4) 中央省庁等改革関係法施行法? 

中央省庁等改革関係法施行法(平成十一年十二月二十二日法律第百六十号)の最終条は、第1344条です(枝番号つきの条も追加されています:第93条の2、第176条の2、第196条の2、第197条の2、第393条の2、第417条の2、第509条の2、第514条の2、第595条の2、第613条の2、第767条の2、第1009条の2、第1030条の2、第1138条の2、第1184条の2、第1222条の2、第1227条の2)。少なくとも、「瞬間最大風速」としては、これが最高であったかもしれません。


「瞬間最大風速」というのは、今は中央省庁等改革関係法施行法が最多条数と言いにくい事情があるからです。

中央省庁等改革関係法施行法は、条の追加はありますが、削除された条はありません。その意味では、形式的には、条数の減少はありません。

「形式的には」というのは、現在では役割を終えて、実質的に効力を失ったと考えられる条が多数あるからです。法令データ提供システムにおいても、中央省庁等改革関係法施行法は抄録とされ、条文の掲載を略されている条が多数見られます(法令データ提供システムにおいて条文が略されずに掲載されているのは、第1条〜第3条、第71条〜第77条、第1301条〜第1305条、第1307条〜第1344条のみです)


これらは、他の法律の一部改正法として、それらの元の法律の規定に溶け込んでしまったのです。

「瞬間最大風速」問題は措くとして、第1344条が現行の法律の本則の「条番号」としては最大といえるでしょうか? それは、どうすれば確認できるでしょうか?

こういう方法は、どうでしょう?


 (5) まとめ 

結局のところ、現行の法律の中で、条数が一番多いものは何か?

対象は本則のみとし、「削除」されて「抜け殻」だけとなった条は数えないこととし、当然ながら、追加されて枝番号・孫番号を付された条も1箇の条として数えます。

・民法典が1本の法律であると考えるならば1100箇条
・民法(民法第一編第二編第三編)だけなら751箇条
・商法は第33条から第500条までの削除により大幅減
・会社法は978箇条
・地方税法は1208箇条

というわけで、ここまででは地方税法が最多です。

問題は、中央省庁等改革関係法施行法です。この法律の多くの条は、他の法律の一部改正法ですので、施行とともに改正対象の法律に溶け込んでしまい、実質的にはその使命を終えます。

それでも、現在(溶け込み後)も、条文は削除されたわけではなく形式的には存在しているとして、これを数えるならば、追加された枝番号つきの条も加えて、合計1361箇条が現在の最高記録ということになりそうです。


〈とりあえず、おわり〉




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