ホワイトヒル・ストーン・サークル(Whitehill Stone Circle)

  スコットランド観光局(Scottish Tourist Board)発行の『スコットランド−見どころと旅の情報(2000年版)』(もちろん日本語版)によれば、英国の立石(スタンディング・ストーン)の4分の1はグランピアン地方に集中しているという。もちろん、この中にはシンボル・ストーンやストーン・サークルが含まれるハズだ。すでに我々は古代史トレイルやHS(ヒストリック・スコットランド)関係のシンボル・ストーンやストーン・サークルのいくつかを見てきたが、それらは氷山の一角に過ぎないわけだ。
  しかし、氷山の一角しか訪れることができないことも確かである。というのも、それらのほとんどが地図に記載されていない場合が多いからである。いいかえれば、すでに我々が見たシンボル・ストーンやストーン・サークルは、すべてAAのロードアトラスに記載されているものだったのである。

  ところが、お城巡りなどをしていると、道路ぎわに、その周辺にストーン・サークルがあることを示す道標を見つけることがある。もちろん、その日にそこを訪れる予定には入っていないので通過するだけだが、『行ってみなければなるまいな』と思わずにはおれない衝動に駆られる(義務はないのだが)。シンボル・ストーンやピクト人に憑かれてしまったといえばいいのだろうか(ハハハ。我ながらオーバーだ)。

  ホワイトヒル・ストーン・サークルは、地図に記載がないストーン・サークルの一つである。このストーン・サークルはアバディーンの自宅からは25.4マイル、30分程度のところにある。
  我々はお城巡りの途中、A944を走っていてこのストーン・サークルの存在に気付いた。アバディーン方向から行けば、オールドヘッド(Ordhead。Oldheadではない)の町を過ぎて、しばらく行くと、ピットフィッチー森林(Pitfichie Forest)に入る道が右手に見えてくる。このピットフィッチー森林は、グランピアン地方でよく見られる、ウォーキングや乗馬、自転車などができる広大な森林である。そのピットフィッチー森林に入る道に向かって、ストーン・サークル・トレイル(古代史トレイル)のマークが付いたホワイトヒル・ストーン・サークルを示す道標があった。

  我々はその道標が指している方向に車を進めた。ほんの数分進むと、その道は左手に折れる道と交差する。そこにまた道標が立っている。
  『ホワイトヒル・ストーン・サークルまで2分の1マイルか』
  その道標から約800メートルのところにストーン・サークルがあることを示している。ちょうど2分の1マイルほど走ると、右手に広がる駐車場。道はその先にもずーっと続いているが、自動車はそこまで。あとはウォーキングをする方は、そこから徒歩で森林を歩き回ることになる。もちろん、我々はストーン・サークルを見に来たわけで、道標が正しければ、その駐車場周辺にストーン・サークルがあるはずだった。

  車を駐車場に停めて周囲を見る。すっかり森の中。そこに、古代史トレイルを巡っていた時に見た、お馴染みのポールが立っていた。
  そのポールを見て我が目を疑ってしまった。そのポールには、たしかにホワイトヒル・ストーン・サークルの文字が見えたが、なんとその下に、「1マイル」と書かれ、矢印まで書いてあったのである。
  「さっき見た道標には2分の1マイルと出ていたのに、さらに徒歩で1マイル歩かなければならないよ」
  1マイルといえば約1600メートル。歩いて歩けない距離ではない。しかし心の準備ができていない。しかもその道は小高い丘に続く道だ。森林浴をしにきたのではない。とはいえ、ここまで来たからには引き返すわけにもいかない。
  「よし、行ってみよう」
  我々は、どこまでも続いているように見える林道を歩き始めた。こんな道を歩くのは、町内会で行った瑞穂の池に行って以来だ。
[注:我々が住む札幌の自宅の近くに野幌森林公園がある。森林公園には林道が切り開かれウォーキングのコースができているが、その一つの目標地点が瑞穂の池である(ローカルな話題で恐縮です)。]


右にポール、そしてどこまでも続く林道

  林道を進むと、やがて、右手下方向になだらかに続く緑のじゅうたんが見えてくる。それとは裏腹に、林道の側や左手一帯は、今現在もさかんに木を切り出していて、同じ長さに切られた木々が積み重ねられている。とてつもなく広い範囲で木の切り出しが行われている。
  林道は急な坂道ではないので、そんなに標高は高くなっていないようだ。ただ、あたり一面の木々が切り出されているために、まわりは禿げ山だが、その奥には背の高い木々が続いていて、我々がいる場所が、ちょうど盆地のような恰好に見えた。
  聞こえてくるのは野鳥の鳴き声だけ。まったく静か。時間すら止まっているように感じる。
  「ヤッホー」
  悪い癖だ、こんなところに来ると、思わず叫んでみたくなる。しかし、その声は、きれいな木霊(こだま)となって周囲に響く。こんなところに来たのも久しぶりなら、ヤッホーなどと叫んでみるのも久しぶりだ。しかもこんなにきれいなやまびこを聞いたのは初めてだ。こんなに響くやまびこが初めてだった子供達は、やまびこを聞いてちょっと恐くなったようだ。考えてみればそうだ。一方向を向いて発した声は、グルッと周囲をまわるように反響したのである。

  さて、そんな林道を歩くこと30分。我々はやっと目的地に到着した。

  このストーン・サークルは、名前こそ付いているが、まったく未整備のストーン・サークルだった。周囲を柵で囲まれていることもなければ、何の説明書きもない。
  しかも、あたり中、背の低い木々が生い茂っている。そんな中に、ホワイトヒル・ストーン・サークルはあった。

  形は不完全ながら、たしかにサークル状に石が置かれている。それほど大きくはない。しかし、イースト・アクホリシス・ストーン・サークルのように、横たわる大きな石があったし、その石の両脇には、立てかけられるように縦長の石があった(片方は倒れていたが)。サークルの内部には、無数の小石が見える。これはクラーリー・ストーン・サークルやローンヘッド・ストーン・サークルに近いものがある。つい最近、太い木を伐採した跡まである。

  どういう筋合いのストーン・サークルかは不明ながら、周囲の状況からして、そのあたり一帯を伐採していたら、偶然発見したような感じだった。それもそんなに古いことではないように思えた。何しろ、今まさに伐採の最中なのだ。すぐ近くには、切り出した木が積んであるのだ。もしかすると、現在調査続行中で、とりあえず、見たい人には見せてあげるといったところなのかもしれない。
  「クレイグストン城と同じように、また、日本人初だったりして。」
  「そうかもしれない。そういうことにしておこう。」

  30分かけてたどり着いたストーン・サークルだったが、小雨がぱらついてきたので、10分程度見て自動車に戻ることにした。帰りは下り坂だったため、わずか20分弱で駐車場に戻り、アバディーンに向かって発進した。


戻る