第4回 寸劇大会

 6月22日、午後6時から、大外礼堂で日本語学院の学生による寸劇大会が開催された。
 寸劇大会の数日前に、まず審査員をお願いしたいという電話での打診があり、その翌日、招待状を持参した実行委員から「審査委員長を引き受けてほしい」といわれた。ちょっと戸惑ったが、結局、引き受けることにした。もちろん、それとは別に、寸劇大会があることは以前に大外に来た先生たちから聞いていたので、かねてからぜひ見てみたいと思ってはいた。


こんな看板も出ました

 午後6時ちょっと前に礼堂に入ると、会場はほぼ7割がたの入り。裏方の学生が小生を手招きする。審査員席に案内してくれたのだが、この審査員席、最前列で、もともとスペースのない場所に机をおいたため、いわゆるかぶりつき状態。演劇を見上げるかたちだ。

 司会は、3年生のナイスガイG君、日本語が上手なRさん。G君はいつもと違ってスーツを着ていたし、Rさんは和服を着ていた。
 二人は、滞りなく日本語で司会進行していたが、彼らは原稿を用意し、それを丸暗記しての司会であった(小生、事前にその原稿の校正をお願いされた)。

 大会に先立ち、日本語学院長の挨拶(これは中国語)。
 その後、審査員の紹介と、審査員一人一人の励ましのことば。あらかじめ予定されていた審査員は5名の日本人専家だったが、当日風邪気味で一人休んだため、S先生、KO先生、KI先生、そして小生の4名で審査することになった。

 出場する学生は、1年生と2年生。
 4年生はまだしも、「なぜ3年生は出ないのか」と聞いたところ、「あまり乗り気な学生がいない」とのことだった。どうも今年の3年生は、こういったことに興味を示さない学生が多いようだ(何人かの3年生自身がそういっている)。
 さて、演題は次のとおり。
 1.幸せな家族(1年生)
 2.2×3の仲間(2年生)
 3.森の中の三人の小人(2年生)
 4.鏡(1年生)
 5.エンターテイメントニュース(2年生)
 6.101回目のプロポーズ(1年生)
 7.新西遊記(2年生)
 3番目の演目が終わったところで一休み。トイレ休憩ではなく、歌の披露。1年生の男子学生がF4(流星花園)の「流星雨」を日本語で熱唱。その歌声は平井堅以上。思わず唸ってしまうほど。どうも中国のこういったショーの場合、途中で歌が入ることが多いような気がする。

 さて、審査員は審査用紙とにらめっこしながら演劇を見る。審査項目は、内容40点、日本語能力25点、演技力25点、衣装10点、計100点。
 審査員に配られた【採点基準】にはこと細かく基準が示されていた。
 1.内容(総合的な完成度)
  1.一貫性があること
  2.筋が通っていること
  3.クライマックスが際だっていること
  4.場面がはっきりしていること
 2.日本語能力
  1.発音
  2.アクセントの美しさ
  3.イントネーション
 3.演技力
  1.自然であること
  2.感情込めてやっていること
  3.演技の面白さ
  4.個性
 4.衣装
  1.衣装の美しさ
  2.工夫の素晴らしさ
  3.個性
 これだけの基準を、わずかな時間で把握して採点しなければならないのだから、結構しんどい。とはいえ、見るべきところは、やはり日本語として意味が通っているかとストーリーのわかりやすさで、あとは個性的な「役者」を見付けることだった(個人賞がある)。


2×3の仲間

 さて、厳正なる審査の結果、次のような順位となった。
  一等賞 新西遊記
  二等賞 2×3の仲間 鏡
  三等賞 幸せな家族 エンターテイメントニュース 101回目のプロポーズ
  最優秀衣装賞 森の中の三人の小人
 今年は、7組出場で、7組ともいずれかの賞が得られるように配慮したとのことだった。したがって、審査員の得点順に一等賞1組と二等賞2組が決まり、残りの4組の中から三等賞3組と最優秀衣装賞1組を選ぶことになった。
 また各賞は次のようになった。
  最優秀男優賞 新西遊記で三蔵法師を演じた学生
  最優秀女優賞 森の中の三人の小人で継母を演じた学生
  優秀日本語能力賞 101回目のプロポーズで達郎を演じた学生
 これは、審査員一人一人が各賞候補者を挙げ、それを話し合いによって一人に絞り込んだ。しかし、最終的にはほぼ全員納得といった感じで選ばれたといってもいいほどだった。選ばれた学生は、それだけ演技、日本語能力が際だっていた。


 ところで、審査委員長特権で、当日、学生たちが演じた台本をもらった。
 当日は、内容やセリフに変更があったところもあったが、出演者たちは、もちろん、すべてのセリフを覚えて演技したのである。
 1年生は、もし入学後から日本語を学習したのであれば、まだ9ヶ月しか日本語を学んでないことになる。9ヶ月の日本語能力は不完全。しかし、演じた1年生のほとんどは、大外に入学する前から日本語を学んでいた学生のようで(いわずと知れた朝鮮族の学生)、彼らの日本語学習暦は6年にもなるのだから、そこそこにうまかった。

 とはいえ、台本を読んでも、舞台のセリフを聞いても、日本語としておかしなところはあった。中にはまったく意味が通じないこともあった。しかしこれらはご愛敬。彼らは、そうやってセリフを覚えながら日本語能力を高めているのである。笑うことはできない。
 それ以上に、彼らの努力には頭が下がる思い。
 また、後で聞けば、観客の多くは1年生だったようだ。2年生、3年生が笑っているところで、1年生は、同級生が演じている寸劇そのものを聞き取れず、何がおかしいのかわからないといった状態だったという。それでも、彼らもまた、寸劇を見ることによって、日本語能力を高めようとしているのであった。

 さて、審査員すべてが最高得点を付け、しかも最優秀男優賞までさらった新西遊記。随所に笑いが入り、現代を見事に切り取って古典に結びつけた内容、ストーリー展開の速さなど、内容も、セリフも、出場した7組の中では秀逸だった。
 ここで、その台本を紹介しようと思う。

新西遊記(2年2組)
第1幕
(母子の川)
悟空:八戒早く漕いでくれ
八戒:先輩、もう疲れたよ
悟空:余計なことをいうな、早く
法師:悟空、みなもう疲れたのでちょっと休みましょう
悟浄:そうそう私も疲れた
八戒:咽喉が乾いた、ちゃわんを
法師:飲まないで。きれいかどうかわからないから
八戒:大丈夫だよ
悟空:じゃ、出発しましょうか
法師:いいよ
八戒:もう出発するの、まだゆっくり休めてないのに
悟空:先生、ごらんください「少女の国」
法師:やっと着きました
みな:少女の国


新西遊記

第2幕
(少女の国)
庶民:あら男、ハンサムですね
(宮殿に入る)
女王:ようこそいらっしゃいました。みなさんはどうして私どもの国にいらっしゃったのですか
法師:私たちは東の唐の国からまいりまして、西の天竺へ行きます
女王:ごくろうさまでした。でもみなさんはどうしてこんな大変な事をなさるんですか
法師:本当の経文を取りたいです。ですから王様にサインしていただきたいんですが
女王:いいですよ。でももう遅いからあしたにしましょう
    あのう顔を上げてくれませんか
    あっみなさんはもう疲れたでしょう、ゆっくり休んでください
    あとで食事の用意をしますので
三人:どうもありがとう・・・・・・
女王:すみません、ちょっとお話があるんですが
法師:私にですか
女王:はい

第3幕
(法師と女王が公園を散歩している)
女王:見て、きれいな夜空ですね。月がおぼろ、星がきらきら
法師:そうですね。私こんな夜空あまり見たことがありません
女王:あのう仏の世界ではこんなロマンチックなところがありますか
法師:もちろん。もちろんありませんが、でも仏の世界に仏の世界なりの楽しみがあります
女王:楽しみ?あなたの言ってる楽しみって何ですか。自分の欲望を抑えることですか。つまらないと思わないのですか。人間にとって大切なものは楽しむことですよ。
法師:そういう意思での幸せ、私もわかっておりますけど、たぶん神様の意思でしょう
女王:神様の意思ですか。実は神様も人間の生活にあこがれを持っているらしいです。ただ実現できないだけです。でも神様でも私たちの幸せを奪う権利かありません
法師:あみだぶつ
女王:あみだぶつじゃないよ。見て、こんなきれいな夜空、こんなおいしい風の匂い、こんなハンサムなあなた。それにこんな美しい私。このような風景の中で私たちが出会って、これは縁じゃなくて何でしょう?
法師:よく考えさせてくれませんか
女王:いいですよ。私、私はあなたのこと、好きですよ。どうですか
法師:やっぱりちょっと
女王:どうしてですか。あなたは私が好きではありませんか
法師:いいえ、そういう意味ではないです。でも天竺へ本当の経文を取るのは私の任務です、そうしないと私の王様と人民に申し訳ないです
女王:経文、それは簡単ですよ
法師:簡単?天竺へ行く途中におにとかお化けとか一杯いますよ
女王:行く必要がないですよ。良子、パソコンを持ってきて
    これはパソコンと言います。その中に何でもありますよ
法師:経文?
女王:もちろん、見て、これは本当の経文です。ダウンロードしてプリントアウトすればけっこう
法師:よかったよかった
女王:じゃ残ってくれませんか私のために
法師:じゃそうしましょう

第4幕
(ホテルで、八戒が妊娠)
三人:おいしい・・・・・
八戒:あっ
悟浄:どうしたの
八戒:おなかが痛い、本当に痛い
悟浄:大丈夫?
八戒:先輩、助けてくれ
悟空:子供ができるかもしれないよ
悟浄:冗談言わないでよ、助けてあげようよ
悟空:しかたない、じゃ医者を捜しに
医者:どうしたの
八戒:おなかが痛い
医者:まさか川の水を飲んだですか
悟浄:はい
医者:この川の水を飲むと子供ができちゃうよ、男でも
悟浄:ほんとう?
八戒:子供
医者:大丈夫、我が国に薬がありますよ、えっ、でも男の人には利かないよ
八戒:ひどい目にあった
悟浄:それで
医者:手術しかないですよ
八戒:あっ、手術?
医者:手術の準備をしに行きます、少々お待ちください
悟空:僕も
    そんなこといらないよ、ほら
医者:こわい、だめだめ
悟空:八戒とそっくりね
医者:かわいい子供ですね
八戒:あっ何だこれ
悟浄:ほらその鼻、口元、先輩とそっくりよ
医者:名前はどうしますか
八戒:勝手に付けましょう
悟浄:先生に付けてもらいましょう

第5幕
(宮殿)
女王:やめよ
三人:ほら先生
悟浄:どうしたの
(子供が泣いた)
悟空:ばか、さかさまにした
法師:あっあかちゃん、誰の
悟空、悟浄:八戒の
法師:かわいい子ですね、その鼻、口元、八戒そのものですね
    名前は
悟空:まだないんですが
悟浄:先生に付けてもらいたいです
法師:そうですね、どんな名前がいいですか
女王:えっと、八戒二世はどうですか
法師:よかった
八戒:ありがとうござました
法師:ちょっと話したいことがあります
三人:何ですか
法師:この国に残ることにしました。この王様といっしょに暮らしていきたいです
悟浄:しかたがないな
八戒:本当?
悟空:じゃ経文はどうしますか
法師:それは簡単ですよ。これは真の経文です。悟空、王様に手渡してください
悟空:心配しないでくださいよ、まかせてください
八戒:じゃ私たちは帰りましょう
法師:ちょっと待って
三人:ほかに何か
法師:私たちの披露宴はあしたに行われる予定です
女王:ぜひ参加してください
法師:みなさんもね
八戒、悟空:またおいしいもの

第6幕
(披露宴)
(踊りながら終わり)

 最後の演劇が終わり、再び舞台の上に立たされて表彰式。
 「先生賞状を読んで手渡して下さい。」
 「一等賞、新西遊記・・・・・・読めない・・・・。」
 そのあとは、書いてある意味がわかっても中国語で表記されていたので、思わず舞台の上で、マイクを通して「読めない」と口走ってしまった。
 会場大爆笑。
 6時過ぎに始まった寸劇大会は、予定の時間をオーバーして、午後8時30分に終了した。[29/May/2002]

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