食べものがたり

 日本と中国の決定的な違いは食費の違い。おおよそ日本の8分の1というのが実感。学生数名と食事に行っても、ビールを含めて100元(約1,600円)しない。そしてもうひとつの違いは、多様な料理・調理による食品の多さである。

 日本で、通常、食べるという意味で有名な中華料理といえば、干蝦焼仁(エビチリ)に回鍋肉(ホイコーロー)、青椒肉絲(チンジャオロースー)そしてデザートとして杏仁豆腐だろうか。また飲茶なんていうのも有名どころ。
 しかし、当地に来て、干蝦焼仁と杏仁豆腐は、まだ一度も食したことはない。回鍋肉と青椒牛肉絲は、菜単(メニュー)で見付けてそれぞれ一度ずつ食べただけ。もちろん、あるところにはあるのだろうが、とくに東北地方では日常的に食べるものではないらしい。飲茶もしかり。

 では何を食べているか。
 説明はとても簡単。野菜や肉を混ぜて、こってりと炒めたもの。しかしそれぞれが絶妙のバランスでとても美味しい。食材は日本にあっても、料理自体は日本ではほとんどお目にかからない料理ばかり。そしてそれらが非常にうまい。
 辛党の小生にとって、ピリリと辣味の付いた料理は、どれをとっても美味しく感じる。

 「中国では、飛んでいるものは飛行機以外すべて食べる」という話を学生に聞いた。飛んでいるものがそうであれば、手が届く範囲にあるものはすべて口に入れると考えても間違いない。
 「料理は中国、奥さんにもらうなら日本人、住む家はアメリカ」という話も有名な話で、学生の数名が語っていた(中国で生まれた話か、もしかして)。
 キリン坂下に、学生たちがひいきにしている思郷園という料理屋がある。そのとなりにト粮百飯店という料理屋があり、どうやら2軒つながっているような雰囲気なのだが、学生にいわせれば、味もサービスもまったく正反対だという。当然、思郷園の方が美味しいということになる。
 ここで最初に食べたのは3月中旬の寒い日だった。学生が注文した料理の中に、ナスの皮をむき辛く炒めた非常に油っこい料理があった。熱々をハーフーいいながら食べ、温まった記憶がある。油っこいけど非常に美味しい。当然、当時はぬるいビールだけだった。その後、何度か思郷園には行ったが、行くたびに、そして同行する学生が変わるたびに異なる料理が出され、どれもこれも美味しく食べた。

餃子にビールはよく似合う
 餃子は日本と違って主食。いわば日本のご飯にあたる。であるからして、餃子とご飯を一緒に食べることは、絶対に、ない。
 そして、普通に食べる餃子は水餃といわれる水餃子である。
 餃子は、醤油、酢、そしてたっぷりのきざみニンニクか、マスタードを入れたタレに付けて食べる(もちろんごま油を入れても美味しい)。
 熱々の餃子をほおばり、冷たいビールを流し込む。極楽極楽。
 ビールは、大連では、黒獅、棒垂島、烟台などの銘柄が一般的。ちょっと高級な店に入ると、Ice Budや朝日などが出てくる。ビールは概して高くて12元から15元ほどする。料理一品と同じぐらい。
 で、餃子。
 学生たちに定評があるのは、昆明街にある台北劉家餃子店。その種類たるや30種類以上。しかも餡(日本でいう具)が大きい。標準は20個だが、何皿か頼むと、小姐は「10個ずつにしますか?」と聞いてくる。そりゃそうだ、食べられるはずがないほどのボリュームなのだから。また、友好広場近くのパン・ドゥ・ドゥ(漢字が変換できないのでカタカナで。pang4 du1 du1と発音します:具がたくさんつまったという意味らしい)という餃子店も、おおぶりの餃子を食べさせてくれる。
 日本人は焼き餃子が好きということを知っている学生は、焼き餃子(当地では鍋貼という)を食べさせてくれる店に案内してくれたこともある。その中で、日本の焼き餃子に似て美味しかったのは、キリン坂下の昊源酒楼。メニューにはないようだったが、これが絶品だった。熱々を口に運び、またまたビール。同じ焼き餃子でも日本で流行している鉄鍋餃子のような大きな焼き餃子を食べさせてくれるのは、友好広場にある王麻子鍋貼。学生と最初に行った店だけに忘れられない。ここは、粥もたくさんの種類がある。
 黒石礁バスターミナルの近くには、有名な瀋陽の蒸餃子店、老辺餃子の支店がある。蒸餃子は、皮がぷりぷりしてこれまた美味しい。
 いずれにしても、餃子は、どこで、どんな餃子を食べてもそれなりに美味しい。
 学生たちに作ってもらった餃子も、いずれも個性的で満足のいく味だ。

 餃子に似たもので、日本でもよく知られたのがワンタン(昆屯。いずれも食ヘン)。
 「ワンタンが食べたいなあ」という小生のリクエストに応じたある学生が買ってきてくれたのが、学生寮の学食のワンタンだった。30個、調味料付きで3元。調味料をお湯で溶かし、その中にお湯で温めたワンタンを入れて食べる。思わず「まいうー!」
 その後、寮の学食まで食べに行ったほど。
 これはうまい。
 ところが、学生によれば、最近、この学食のワンタン屋が閉店したらしい。あまり客がいなかったようだ。残念。

拉面はラーメンではない
 当地の拉面は、日本でいえば乾うどんと同じようなものが多い。たぶん小麦粉で作っている。
 大肉面、大排面などは、どこの拉面店でも扱っている。何度か通ったのは、大外正門近くの新華拉面店。ここは評判のお店というわけではないが、おじさんが気さくでいい人。大肉面は5元。面は日本の面に似てるといえば似てる。
 しかしやっぱり一押しは、兄弟拉面。ここの大排面は、醤油味が濃いのだが、満足できる味。
 もっとも日本ではあまり食べることができない拉面もある。米線がそれ。大外近く、新華拉面店の並びに雲南過橋米線店がある。真っ白で断面がまん丸の面も面白いが、オイルの膜をはって冷めないようになっているスープに面や具を入れて食べる。オイルがきつくなく美味しい。
 いずれにしても、辛党の小生、当地の拉面には、テーブルに備え付けられている唐辛子油をタップリ入れて食べている。その刺激がたまらない。

 でも、無性に日本風のラーメンが食べたくなることがある。あのかんすいの入ったヤツ。少なくても小麦粉だけではないヤツ。
 邁凱楽には日本風のラーメン店があって、みそラーメン、しょうゆラーメンなどもあるようだが、結構な値段のようなので、いまだに食べてはいない。
 そこで、インスタントラーメンの出番となる(なんと発想が貧弱な)。
 中国は世界一のインスタントラーメン消費国なんだそうな。でも、味はいただけない。
 アバディーンに滞在したおり、中国産の、中国人好みの味付けをした「出前一丁」を食べてその不味さに驚いた経験を持つ小生、中国のインスタントラーメンには、間違っても手を出さない(中国の皆さん、スイマセン)。
 小生がひいきにしているのは、韓国のメーカーが製造している「辛」というラーメン。辛いもの好きの小生にとっては最高の味。これに、できあいのチャーシューを入れて食べる。邁凱楽やNew Martで買うことができる。さらに同じメーカーが製造しているのが「上海湯麺」。これは辛くないラーメンで、牛肉味と海鮮味の2種類がある。あまりピンとこない味だが、麺は「辛」と同じで、日本のインスタントラーメンと同じような食感。
 ついでにいえば、カップヌードルと焼きそばUFO。


見よ、この多彩なラインアップ(左から海鮮面・鮮湯猪排面・醤香牛肉面・番茄鶏蛋面・朝鮮泡菜面)

UFOだって負けていない(魚香肉絲炒面・四川火鍋炒面・蝦仁炒面・鉄板牛肉炒面)

 これの種類も非常に多い。すべてを食べ尽くそうと思っていたが、最後は飽きてしまって、まだ数種類残ったままだ。
 いずれも美味しいといえば美味しいのだが、どうも日本のようにしっくり来ないというのが実感。

中国風ファストフード
 中国のファストフードの代表が、煎餅菓子と串焼き、そして肉まん。
 煎餅菓子は、中国風クレープ。キリン坂の歩道に店がある。
 小麦粉を水で溶いたものを鉄板の上で薄くのばし、生卵を落とす。そこに2〜3種類のタレを塗り、魚肉ソーセージをはさみ、最後に香菜を散らして、折り畳んだものを薄いビニール袋に入れてくれる。2元。熱々を食べる。辛みがあってボリューム満点。学生は昼食として食べるという。
 串焼きは、街中のいたるところで売っている。炭で焼いた串焼きは、ほとんどが羊肉。これにたっぷりの塩とコショウ、唐辛子を振りかけ、場合によってはさらに辣醤を塗って食べる。1元。非常に辛い。でも一人で3串ぐらい食べている人もいるし、何より若い女性がそれを美味しそうに食べている姿を見ると、思わず『日本とは違うなあ』と思ってしまう。
 肉まんは、お店によって味が違う。学生のお薦めの店は、New Mart裏、麦当労(マクドナルド)対面の間口の狭い店。三味肉串店。本来は串焼きの店のようだ。肉まんは数種類あって1個1元。やはり具の味付けが日本とは違うが、これはこれで美味しい。

高級店・有名店へのご招待
 いわゆる高級店・有名店は、市内各所にある天天漁港、大外近くのバスターミナルのそばにある四川料理川王府、そして日本人にはおなじみ天津街の群英楼
 「天天漁港」「川王府」とも、4〜5人で、海鮮を好きなだけ食べると1,000元ぐらいになるというから、当地の食費からすれば、恐ろしく高い。しかし、味は折り紙付き。小生のお気に入りは、小エビのおどり食い。あー、もう一度食べたーい!
 「群英楼」は、大連では老舗で、かつては外国人専用(つまりは日本人専用)のレストランだったという。餃子は独特の盛りつけで出てくる。しかし、現在では、他に多くのレストランが出来たりして、地元の人はほとんど行かなくなったという。値段も手頃で店構えも中国風(唐風)なので、日本人観光客の夕食の場として利用されているらしい。小生が行ったときには閑古鳥が鳴いていた。周辺の再開発の狭間にあることも客が減った原因かもしれない。

ビールのお供:しゃぶしゃぶ・北京ダック・焼肉・麻辣湯そして麻辣豆腐
 当地ではしゃぶしゃぶ店も多い。肉はいろいろな種類があるが、学生が注文するのはだいたい羊肉。日本の羊肉と違って、本当に野生の羊の香りがする。
 日本との大きな違いはスープ。20〜30種類ぐらいの薬味が入っていて(それも丸ごと入っている)、それ自体に味がある。その中に肉や野菜を入れ、ごまだれで食べる。
 「中国でも有名ですよ」と学生が連れて行ってくれたのが、大連市人民運動場の一角にある北京東来順飯庄。北京に本店があるらしい。Ice Budを飲みながらハオチー。
 一度食べて好きになったのが鴛鴦(yuan1 yang1)鍋。おしどり鍋といったところ。
 これは、3月に学生にその存在を聞いていたがしばらく確認できなかった(って、そんなオーバーな)。
 おしどりは当地でも仲のいい夫婦を意味するようで、その名前が付いた鍋とはどんなものか、興味津々だった。
 この鍋は、鍋の中央が二つに分かれていて、片方が普通のスープ、もう一方が極辛スープが入っている。つまりは一鍋で二つの味が楽しめるというしゃぶしゃぶだった。小生が食べたのは、学生寮の近く、解放路からちょっと中に入ったところにあるしゃぶしゃぶチェーン店、小肥羊。お手ごろ価格。
 中国のしゃぶしゃぶで、学生が必ず注文するものは、凍豆腐のような豆腐(でも目は粗い)、太い春雨のようなもの、そして春菊。これは最低にして定番の具のようで、あとは好みに応じて具が変わる。

 大連で北京ダック。
 大外の近くに、全聚徳火考鴨店がある。ここには北星から漢学院に留学している学生に連れてきてもらった。彼らは漢学院への入学歓迎会で来たという(リッチだよな漢学院は)。
 北京ダックは一匹80元(どうして一匹というのだろう)。4人で十分の量。我々は個室で食べたが、こんがり焼いたものを部屋まで運んでくれて、目の前で皮をそいで供してくれる。当然、身も食べる。
 日本語学院の学生によれば「北京で食べれば100元以上するので大連で食べた方がトクです」という。
 たしかに日本では高級料理に数えられるが、大騒ぎするほどのものではない。普通のトリ料理。少なくてもB級グルメを自認する小生には、「非常に美味しい」とお勧めするだけの味は感じなかった。

 焼肉店も多い。
 大外の近くには、三千里という、大連でも有名な焼肉店、大連で数軒ある一心、その向かい側に雅園という焼肉店がある。肉の味の良さは、三千里、一心、雅園の順。
 タレはどこでもごまだれで、その中に数種類の薬味が入っている。一度、その味に閉口した小生、2度目からは「香菜不要」といってタレから取り除いてもらっている。
 香菜。シャンツァイ。コリアンダーの一種だという。
 これは、中国の一般的な料理にはフツーに使われている、中国人好みのハーブだが、どうにも好きになれない(もちろん中国人でも嫌いな人は結構いる)。
 香菜は、間違って料理に入っていれば、仕方なく食べる。刻んだ香菜は食べて食べられないことはない。慣れればそれなりに食べられるようになったが、焼肉のときにはどうにもダメ。
 それ以外は、今後日本では焼肉が食べられないと思うほど満足。だいたいが朝鮮族経営なので、韓国風の食べかた。やっぱり焼肉は炭火でなくちゃ、ね。焼いた肉をサニーレタスに巻いて食べる。時々、ニンニクも焼いて食べる。薄切りじゃがいもも焼いて食べる。キムチも食べる。ビール飲む飲む。うまいもんです、ハイ。
 男子学生も連れていくと、どうしてもビールの消費量が多くなり支払額も多くなる。ビール1本15元。4本も飲めば60元だ(もちろん大瓶)。それでいて料理自体は100〜150元程度。当地の焼肉は一皿100グラムなんてケチなことはいわない。300〜500グラムはあるから、4人で焼肉だけ食べるなら100元もあれば大満足。でも女子学生だから少ないだろうとは努々(ゆめゆめ)思わないこと。よく食べてくれる。この点では男子学生と変わらない。

 小生の辛い物好きを知った学生が連れて行ってくれたのが、勝利広場地下街(といっても地下4階だったか・・・)にある満達小吃
 ここは、カフェテリア形式のお店が数軒、同じような料理を提供してる室内屋台という感じで、そこで食べたのが麻辣湯。学生によれば、大連市内に麻辣湯を供する店はたくさんあるらしいが、ここが一番美味しいという。
 いかにも辛そうな名前だが、麻辣湯自体は辛くない。辛いのはタレ。ごまだれにタップリの辣醤を入れて食べる。麻辣湯自体は、日本のおでんとも鍋物ともいえる煮込み。自分が食べたい材料をリクエストして煮てもらう。肉もあれば、野菜もある、海鮮もあれば、かまぼこまであるのである。

 さて日本で辛い中華料理として有名なのが麻婆豆腐。当地では麻辣豆腐という。そして麻辣豆腐で有名な地方は、いわずと知れた四川地方。
 大連で本格的な四川料理を食べることができるのは、23バスで青泥窪橋で下車し、そこから森ビルの方に5分ほど歩いたところにある老成都。ほぼすべての料理が激辛。中でも夫妻肺片(fu1qi1 fei1pian4)という、牛肉の肺を使った料理は激辛の中でもその代表格。涼菜なので最初はそれほど辛く感じないが、じわじわと辛さが口の中に広がり、最後は玉のような汗が出て来るという代物。これを食べた後は、麻辣豆腐が辛く感じないから不思議。もちろん麻辣豆腐だって辛い。
 いずれにせよ、どんなお店でも麻辣豆腐は食べることができ、しかも安い。

甘いものもハオチー


薩其馬(?)

 大連駅周辺の雑多な小道を歩いていて目に付くのが、縦1メートル、横50センチ、高さ20センチほどのお菓子。見れば、ざまざまな実が練り込んである。
 学生によれば、これは薩其馬(sa4 qi2 ma3)という東北地方の名物だという(実はその学生も正確な名前を知らないらしい)。
 買うときは幅を指定すると、切り分けてくれる。100g、2元とのことだったが、これがくせ者。「これくらい切って下さい」といって重さを量ったらナント2kg以上ある。一度切ったらもとには戻せないので、46元にもなった。
 実と実をつなぎ合わせているのは水飴。しかも、実それ自体も味が付いている。もちろん甘い。しかしヘルシーな感じ。

 四川に行った学生が四川名物のお菓子をおみやげで持ってきてくれた。桂花羔(米ヘンが付く)と桔子酥。
 桂花羔の食感はらくがん。箱形に固めた白い桂花羔は、薄く切れ目が入っていて一枚一枚切り離して食べる。
 桔子酥は、むっちりしたジャム入りクッキーのような食感だった。


桂花羔

桔子酥

ビールのつまみはやっぱりコレ
 大連はいわずと知れた海の町。
 したがって、海産物は驚くほど豊富。スーパーなどに行けば、鱈の干したもの、さきいかなどを売っているし、大連駅周辺には、大きな店構えのおみやげ用の海産乾物屋もある。
 中でも、大連名物の乾物は鮮火考蝦。これはエビを乾燥させて軽く味付けしたもので、最初に口にしたのは、延安路にある金葵花(Sunflower)というレストランだった。これがビールによく合う。

 最近では、ビールのつまみとして香瓜子を食べるようにもなった。香瓜子。つまり葵花子。ひまわりの種である。薄く味が付いていて、慣れてくるとそれなりに美味しい。1袋1元程度。
 小生、木の実のたぐいは基本的には好きではない。したがって、ひまわりの種も決して口にはしないだろうと思っていた。
 しかし、世界杯の中継を見るために中山広場に行ったとき、まわりで絶え間なく種を口に運び声援している市民を数多く見た。それが実に美味しそうに見えたのである(帰るときには、中山広場にはあちこちに大量のカラが散らかっていた)。
 学生によれば、種のとがった方を口に入れ、広い方を手でつまんで歯でかむと、実が割れて中身が口の中に飛び出してくるという。つまり片手で食べるのである。ずいぶん練習したがいまだにうまくいかない(日本の皆さん、おみやげにしますがいかがですか?)。

そしてB級グルメ沈没

 学生がたまーに差入れしてくれることもある。
 体にいい五穀と豆類がたっぷり入った粥、桂圓蓮子八方粥は、歯が浮くほど甘い。これは常温のまま食べる。ちょうど茶碗1杯分で、何度か朝食として食べた。健康になった気分。New Martで1缶2元ほどで買うことができる。

 つまりは、辛いもの、甘いもの、油っこいもの、何でも口に入れているということ。
 それでいて、今まで、幸いなことに、大量に持ち込んだ正露丸は、一度も口にしていない(ありがたや、ありがたや)。

 しかし、たったひとつ、学生の差入れでもらったものの中で、一口、口に入れたあと、水を大量に飲んだものがある。
 ゴールデンウィーク後、実家に戻っていた学生が「おみやげです。独特のにおいがありますが口に入れるとにおいが気にならなくなります」といってくれたガラス瓶入りの食べ物。その名は、臭豆腐(Chou4 dou4 fu)。


見るだけで臭う

 名前からして強烈。臭い豆腐である。
 聞けば、これは、豆腐を発酵させたもの(まさに腐らせたものだ)。
 瓶を持っただけでにおいがする。瓶の口を開けたとたん、強烈な刺激臭。たとえれば、「くさや」を100倍臭くした感じ。「くさや」は焼く前こそにおいがきついが、焼いてしまえば美味となる。しかしこの臭豆腐は、焼くことも煮ることもしない。そのまま食べるのである。つまりは、刺激臭はそのまま残るのである。
 せっかくいただいたものだから、しかも食べればにおいは気にならなくなるというのだから、鼻をつまんで、スプーンでちょっとだけすくって口の中へ。
 「しょっぱーーーーーーーーーーい!」
 刺激臭もさることながら、その味の塩辛いこと。とにかく総毛立つほどの塩味。
 食べた感じはたしかににおいはしないのだが、その前に鼻についたにおいはまったく取れない。
 しかも悪いことに、締め切った部屋が、アッという間に刺激臭に包まれてしまった。
 こうして、B級グルメを自認する小生は、しばらく部屋についた刺激臭と格闘するハメになったのであった。[17/Jul/2002]

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