第三部分 日記風 3月

3月3日(星期天)
 非常に寒い日ながら、快晴の天気なので中心部方面に散歩。
 星期天(日曜日)だけあって、ずいぶん人が出ている。
 天津街では、そこここに行商がいて、「買ってちょうだい」というようなことを大声で叫んでいる。見れば、乾電池や音の出るおもちゃ、ひよこまで売っている行商もいる。人だかりができているのは、安い衣類の行商の屋台。シャツが10元ぐらいだから確かに安い。


真ん中で立っている数人が「家教」希望者

 天津街の近くに大きな書店がある。
 その前に「家教」と書いた札を持った学生風の人が結構立っている。家教。そうだ、家庭教師だ(日本でも学生は家庭教師のアルバイトのことを「家教」と表現していた)。「家庭教師をしますよ」と売り込んでいるのである。いわば、学生の宣伝広告営業活動。日本語学院の学生に聞けば、家教の時給は10〜15元らしい。数をこなせばいい稼ぎになりそうだ。

3月4日(星期一)
 今日から新学期。
 最初のクラスは、2年生の「日本概況」。
 女の子が圧倒的に多い。男子学生は真ん中から後ろに陣取っている(日本と同じ)。200名ぐらい入る教室がほぼ満杯。
 借りたマイクがまったく不能。大声でしゃべるも、後ろの方では「聞こえませーん」との声。真ん中の通路を往復しながら講義する。
 2年生は1年半しか日本語を勉強していないので、できるだけゆっくりしゃべる。しかし、中には寝ている学生もいる。内職している学生もいる。ちょっとショック。ま、全員が集中することは不可能だけれども・・・。
 初日ということで、90分授業のうち85分で切り上げる。しかし疲れた・・・。

3月5日(星期二)
 午前中、なにげなく上海衛視(上海の衛星放送なんでしょうか)を見ていると、紅青歌合戦なる番組をやっていた。なかなかいいメロディの曲が多い。最後に勝敗を決め、エンディングはナント「蛍の光」。紅白歌合戦そっくり。
 終日雨模様。日中、ちょっと雪混じり。
 今日のクラスは3年生「日本文化」。さすがに日本語の能力は高く、小生の日本での勤務先名も間違いなく読める。
 「これで今日は終わります」というと、「先生、お疲れさまでした」と唱和。これには笑ってしまった。
 講義中に、「美味しいレストランがあったら教えてね」といったところ、早速、講義終了後、3名の学生が来て紹介するという。「今日行こうか」と誘うとOK。男女各2名の学生と行く。中国の焼き餃子の店だという。その名は王麻子鍋貼(勝利広場近く)。バスで行く。しばし舌鼓を打つ。しかし、焼き餃子は日本の方が美味しいようだ。何しろ皮が粉っぽい。やっぱり中国の餃子は水餃子だ。これは日本では味わえない。もう一つ。中国東北地方でしか食べないという、豚肉の内臓をゼラチンで固めた半透明のオードブルも食す。たれはマスタードビネガー。これは何の癖もなく美味しかった。

3月6日(星期三)
 今日は2年生「日本概況」2クラス目。
 このクラスも人数が多い。中には、韓国語学院に所属していて、韓国語と日本語を学んでいる学生も少なからずいた。彼らは現在5年生でこの7月に卒業するという。
 従業中に携帯の受信音がなることもあった。慌てて止めていた。日本と変わらない。
 携帯電話の話題になったので、ついでに、日本の若い男女が遠く離れて恋愛関係にあることを「エンレン」というんだ、遠距離恋愛の省略だよと教えた。何人かはエンレンと唱えながら一所懸命憶えていた(変なことは教えられない・・・)。お金も余りないから、電話ではなく携帯でメールの交換をしているんだと話す。
 中国の携帯電話のメールでは、ピンインで打ち込み漢字に変換するとのこと。ま、パソコンのキーボードといっしょかな。

3月8日(星期五)
 今日で、講義第1週が終了。
 今日のクラスは、日本語学院棟ではなく第1講義棟という、新築の建物。さすがにきれい。日本と変わらない。ただ、ここでも教室の奥まで声が届かないらしく、これは、建物の構造に問題があるのではないだろうかと思う。マイクを借りてくるのを忘れたので、またまた教室をうろうろしながら、大声で話す。
 夜は、2年生とその友達4名、計6名で食事。日本人留学生2人も一緒だったが(一人は名古屋の大学からの男子学生)、その中の女子留学生は、ナント、北星の経済を99年に卒業して就職し、その後大連に来たという留学生だった。まったく知らない学生だったが、『世界は狭いなあ』と、妙に感じ入った。

3月9日(星期六)
 昨日今日と暖かく快晴の空。気分がいい。
 いつものようにダイエー南山店に買い出しに行った。いつものようにレジ袋に品物を入れてもらい帰る。部屋について、何気なく買い物袋を見た。
 『えっ?』
 その袋にはDaieiの文字はない。そこには「群英超市(Queen Supermarket)」と書いてあった。
 そのときは、何かの間違いで別のスーパーのレジ袋だったのだろうと思った。しかし、その後タバコを買うついでにもう一度ダイエーに行ってみた。看板は、確かに「群英超市(Queen Supermarket)」と書き換えてあった。
 そうなのだ、ダイエーではなくなったのである。まったく気付かなかった。7日に買い出しに行ったときには、確かにダイエーと書かれたレジ袋だった(ゴミ袋として取ってあるので間違いない)ので、8日か、あるいは今日からダイエーではなくなったのである。
 しかし、変わったのは看板だけで(もちろん所有権か経営権か、あるいはどちらもかが移転したのだろうが)、買い物自体には何も変化はない。何しろ、看板とレジ袋は変わっても、レシートの印字は、いまだにダイエー南山店の印字なのだから。

 NHK国際放送でJリーグを見る。NHKは映ることは映るが、映像は非常に荒い。この部屋に来たときにはまったく映らなく、つい2日ほど前に直してもらったが、それでもやっぱりクリアには映らない。さらに加えて、3月、4月は太陽の黒点の動きのために映像が飛んだり、映らなくなったりする。ニュースによる情報は重宝する。ただ、日本時間でニュースを流すため、「7時のニュースです」といわれて時計を見ると、当地ではまだ6時。1時間の時差というのは紛らわしい。

3月10日(星期天)
 まったくいい天気が続いている。気温も10度を超え、ジャンバーがいらないほど。
 キャンパスの中にある、グラウンドとバスケットコートでは、朝早くから夜遅くまで学生が遊んでいる。グラウンドではサッカー、バスケットコートでは、もちろんバスケットだ。とくに、バスケットは、朝小生が起きる時間には声が聞こえ、夜は真っ暗になった7時頃まで学生の声が聞こえる。一部大連出身者以外、全寮制なので、街に遊びにいかない学生はボールゲームを楽しむことになる(その中には日本人留学生も韓国人留学生もいる)。
 一方で、朝早くからグラウンドの片隅で本を片手にたたずんでいる学生もいる。暗記しているのであった。日曜日の学内でも、あちこちにそういった勉強している学生の姿を見ることができる。図書館も夜8時まで学生で一杯だ。日本語学院の教室は、よる9時でも学生の姿が見える。『それだけやれば日本語もうまくなるよな』と思う反面、『自分はどうだったかな』としばし反省。

3月11日(星期一)
 今日もいい天気。13度以上あるようだ。
 講義第2週が始まった。授業終了後、女子学生2名が来て「ガイドの勉強をしているが、どこかガイドさせてくれないか」という。「いいですよ」とはいったものの、右も左もわからない。観光ガイドで見所を勉強しておかなければならない。単なるガイドではない。ガイドになるための勉強をしている学生なのだから、当方もアドバイスできるようにしておかなければならない(でも大丈夫かな・・・)。

3月13日(星期三)
 ニュースは、NHKの国際放送を見ているが、この国際放送、子供向けの番組も一日に2回ほど再放送しながら流している。我が家には子供がいるので、「天才てれびくん(テンテレ)」「ハッチポッチステーション」など日本で子供たちが見ていた番組は懐かしくもある。しかし、さすがにそんな番組は、たとえ日本語TVの選択の余地はないからとはいえ、めったに見ることはない(だいたい消してしまう)。
 さて、賓館のテレビは、視聴できるチャンネル数が多い。地元の人が見ているだろうなと思うのは、中国中央電視台(CCTV)。これは11チャンネルもある。一日中京劇のようなものを流しているチャンネルがあるかと思えば(CCTV11)、スポーツ中心のチャンネル(CCTV5)などもある。英語チャンネル(CCTV9)もある。この英語チャンネルでは、朝8時15分から8時30分まで、‘After School Chinese(少児漢語)’という番組を放送している。これは英語を母国語とする人々に中国を教えるという語学番組で、なかなか面白い。
 また大連には大連電視台があり、これは5チャンネルある。そのうちのチャンネル4はスポーツ専門のようで、現在は、米国のNBA、伊国や英国イングランドのサッカーを放映している。さらに、安徽電視台、寮寧電視台というチャンネルも入る。そして、衛星放送として、一部でしか見ることができないだろうなと思われるチャンネルが、NHKをはじめとして、文芸影視、上海衛視、鳳凰衛視、Phoenix TV、HBO(これは英語の映画専門)、CNN(これは画像が荒くて小生の部屋ではほとんど視聴不能)などである。
 中国語ができないながら、当地のCMは、日本に似ていて面白い。しかも日本と同じでCMが長い。とくに目に付くのが漢方と西洋医薬を混ぜたものや、あるいはまったくの漢方薬などの医薬品のCM。
 ところで最近、朝起きてぼーっとしながら見ているのが、大連電視台チャンネル4で7時15分から40分までやっている「大連早班車(Dalian Morning Express)」。いうまでもなくニュース番組である。中国語のニュース番組など理解できるはずはない。参考になるのは、天気予報ぐらい。それでも見ているのは、その主持人(アナウンサー)である魏さんがいかにも中国女性らしく、しかも知的に見えるから(ちなみに、名前は日本の漢字にはないのでここでは表現することができないのが残念。おんなへんに尼を書いた字を2回書いてます)。

3月16日(星期六)
 今日は、曇り空で風が強く、かなり埃っぽかった。
 お昼に散歩がてら街に出た。昨日といい、今日といい、人が出ているなあと思ったが、3月15日は中国では消費者の日で、15日、16日と各お店でセールをやることが多いということだった(学生情報)。どおりで、昨日行ったマイカルの前のコンコースにも仮設のお店が軒を並べ、多くの人が出ていたわけだ。
 ところで、昨日マイカルの食料品売り場を歩いていると、デリカコーナーに寿司があった。にぎり寿司からのり巻きまで、ちょうど日本のスーパーにある寿司と同じような品揃えだ。魚の容器に入ったしょうゆまで付いている。値段を見れば、そんなに高くはない。思わず1箱買ってしまった。味はわからないので、無難なところで「助六」を買う。8元。


日本と変わらない。

 帰宅後、昼食として寿司を食べた。太巻き、美味しい。いなり寿司、美味しい。日本のスーパーで買う味とそんなに変わらないと思ったほど。思わず、アバディーンで食べたSUSHIを思い出す。太巻きの具は、きゅうり、シイタケ、カニかまぼこ、タマゴ焼き、奈良漬け、たくわん、ハム。決して赤ピーマンなど入っていない。これが禁断の味にならなければいいが・・・。

3月20日(星期三)
 今日は久しぶりの雨。乾燥して埃っぽかったので、ちょうどいいおしめりだ。晴れていて強い風が吹くと、乾燥した土が舞い上がり、視界不良に陥る。
 ある用件で副院長の部屋を訪ねると、「今日3時半から会議があります。そこで先生を紹介しますから、会議室の前に来てください」と告げられる。もし小生が何の用件もなく、終日部屋にいたのならば、そんな紹介の話もなかったのだろうか。ということはさておき、指定の時間に会議室で自己紹介。すでに知っている顔もあり(小生の勤め先に派遣されていた教員の方々)、懐かしく感じる。

3月21日(星期四)
 日本では今日は祝日。当地では平日。
 CCTV1の朝のニュースで、北京での黄砂被害(当地では沙坐暴というらしい)を見る。映像を見る限り(中国語が理解できないのだから映像を見て判断するしかない)、ここ数日相当ひどいらしく、女性は頭からすっぽりと顔を隠し、自動車は日中でもライトを点けて走っている。大連も自動車のほこりを見るからには、少しは黄砂が降ったような気がする。一方、NHK国際放送のニュースで東京の桜が満開になったことを知る。本州は暖かいらしい(北海道はまだ寒いようだ)。
 3年生の女子学生4名と、勝利広場地下のお店に、麻辣湯という四川料理を食べに行った。いかにも辛そうだが、料理自体は野菜入りのおでんという感じ。タレはごまだれ(日本のしゃぶしゃぶのごまだれと同じ)。そこにラー油をたっぷりと入れて食べる。こんな料理もあるんだなというところ。先週、焼き肉も食べに行ったが、そのタレもごまだれ(こちらはごまだれに小生があまり好きではない薬味が入っていた)。
 ところで、学生によれば、麻婆豆腐(当地では麻辣豆腐という)はどこの食堂にもあるという。では日本でよく食べる回鍋肉(ホイコーロー)や干焼蝦仁(いわゆるエビチリ)はどうかと聞いたところ、高級店にはあるでしょう、私たちは食べたことがないという返事。しかも干焼蝦仁は日本とは違うでしょうとのこと。どうやら当地ではエビだけでなく野菜がたっぷり入っているらしい。

3月22日(星期五)
 今日は、朝のうち曇り、午後から晴れたが肌寒かった。最高気温は7度の予報だった。
 今日で3回目の講義終了。
 今週は、2年生は第1週、3年生は第2週に書いてもらった自己紹介文の中から、質問などの部分を紹介して答えられるものは答えた。さすがに、「茶道や歌舞伎を教えてほしい」という質問には「わかりません」と答えるしかなかった。
 面白かったのは、小生が映画俳優の方中信に似ていると書いた女子学生がいたことを紹介した時。どのクラスでも笑い声が聞かれた。似ているという意思表示なのか、はたまた似ていないということなのかは不明。小生、「顔が見てみたい」というと、3年生の男子が早速メールをくれて、写真のあるHPを教えてくれた(自分での評価は差し控えます)。

3月23日(星期六)
 今日は、学生に連れて行ってもらって大連の秋葉原、電脳街を歩いた。
 たしかに秋葉原の裏通りの電気屋街といった感じがする。しかし店内にはそれほど多くのパソコンは陳列していない。たぶん、銘柄を指定すると裏から持ってくるといったシステムなのだろう。しかも定価はほとんど表示されていない。交渉次第ということだろう。どの程度値引きされるか不明ながら、歩いていてもらったチラシを見ると、日本と同じかちょっと安いような価格帯。
 たとえば、駅前電脳城1−1−F座にある恒新電脳という店の特売品のパソコンは、CPUペンティアム4、1.3G、メモリ128M、ハードディスク40G、17インチ平面ディスプレイ、DVD-ROMドライブ、56Kモデム内蔵、WIN98プリインストールで4,988元(約79,800円)。その他に、5,888元から6,388元ぐらいまでのパソコンが「店長おすすめ」となっている。
 驚くやら笑うやらなのがCDやビデオCDショップ。すべて海賊版。値段はその都度交渉。たとえば、大外の学生たちが日本語の勉強のために見ていたという『東京愛情故事(東京ラブストーリー)』のビデオCDは、2枚組で10元(約160円)。今はなきケ麗君(テレサ・テン)の2枚組CDが8元。台湾の人気グループで中国でもアイドルとなっているF4(流星花園)のビデオCD2枚組は10元(ちなみにこの4人組グループは日本のアニメからその名を取ったというが小生にはわからない)。いずれも粗末な包装。またWindows98やExcelなどの各種ソフトウェアも10元程度。
 別の学生に以前聞いた話では、大外の売店で販売している音楽CDなどは20元。電脳街のCDは10元。この差はどこからくるか。それはCDケースに入っているかどうかだけだという。どちらも海賊版には変わりがないらしい。本物は60〜80元するという。

3月26日(星期二)
 ここ数日、NHK国際放送がまったく映らなくなった。砂あらし状態。先日、ベッドメイクに来た服務員に、テレビをつけて「没有、没有」(mei2 you3)。服務員は「電視機なんたらかんたら」といって出ていってしまった。
 今日、講義を終えて部屋に戻ると、ベッドルームに大工とおぼしき人が入って天井に穴を開けている。『何やってるんだろう?』と思っていると、ちょうどそこに201室に滞在している日本人の先生が帰ってきた。
「テレビ、映らなかったでしょ?」
「ええ。」
「テレビが問題ではなく、どうやらアンテナに原因があるようなんです。この工事は、アンテナ線を新調するための工事だそうです。明日にはよく見えるようになるようですよ。」
 なるほど。さてくっきり見えるようになるかどうか。
 それにしても、ベッドルームで作業していながら、木くずは落としっぱなし。周りに何も敷かないでそのまま作業するなんて・・・。

3月28日(星期四)
 昨日のテレビのアンテナ工事はほとんどなかった。今日、天井裏に入って配線を取り替えていた。ようやく終わってNHK国際放送をチューニング。くっきりはっきりとはいかないまでも、だいぶきれいに映るようになった。しかし副作用。これまでクリアに映っていた当地のチャンネルのいくつかの映りが悪くなった(あーあ)。
 朝起きて、突然みそ汁が飲みたくなった。困ったときのマイカル頼み。早速マイカルに行って、インスタントのみそ汁を調達。ペースト状のみそ汁が6食分入って15.7元、260円程度。
 みそ汁だけというわけにはいかない。やっぱり寿司だ。今日は先日買った助六より量が多い稲荷寿司と太巻きで9元。というわけで、今日のお昼はリッチな食事となった。
 漢学院餐庁での夕食を終えて、薄暗い中、賓館に帰るとき、2年生の女の子が小生に「ラオシー」と呼びかけて手を振って帰っていった(ワー、青春!)。

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