ドメスティック・バイオレンスに関する心理学的研究
―ドメスティック・バイオレンス評定尺度作成の試み・大学生の性別の違いによる意識の検討―
9907092
森下 敬子
<研究T>
【目的】
本研究は,ドメスティック・バイオレンスを「親密な関係にある男性から女性に対する暴力」と定義する。また,暴力については,「身体的暴力」,「精神的暴力」,「性的暴力」,「社会的暴力」,「経済的暴力」の5つの要素を想定した。現在,ドメスティック・バイオレンスで起こる被害は広範囲であり,具体的な個々の行為が「暴力」にあたるかどうかをひとりひとりが判断する際に共通の明確な基準はない。そこで,様々なドメスティック・バイオレンス行為を取り上げ,それらに関する評定尺度の作成を試みる。さらに,その尺度の信頼性・妥当性を検討する。
【方法】
<調査時期・調査対象>
予備調査1回目:2002年10月3日,4日に北星学園大学の大学生168名に実施した。
予備調査2回目: 10月17日,18日に137名に再検査を実施した。そのうち折半法,再検査法は81名で検討した。
<質問項目の作成>
5つの要素より予備項目を選定し,ドメスティック・バイオレンス問題を取り扱っている専門機関に内容的妥当性の検討をお願いした。
【結果と考察】
予備調査1回目の82項目の質問紙で,偏りのある項目を削除した。予備調査2回目の16項目で因子分析を行った結果,「自己中心的な態度」,「猜疑心的な態度」,「支配的な態度」の3因子が抽出された。信頼性の検討は,内的整合性と安定性の検討を行った。尺度全体でのα係数は,α=.910という値が得られ,折半法は,信頼性係数r=.935という値が得られた。再検査法は,r=.745(p<.001)という相関係数を算出した。以上のように,信頼性と妥当性を検討し,尺度の有用性が確認された。
<研究U>
【目的】
研究Tで作成したドメスティック・バイオレンス評定尺度を使用して,性差の検討を行う。先行調査である府中市生活文化部女性青少年課女性センター(1998),東京都生活文化局女性青少年部女性計画課(1998),北海道環境生活部女性室(2001)と同様に,男性の方が女性よりも全体的に暴力を容認する傾向が見出せるか確認する。
【方法】
北星学園大学の大学生331名(男性160名,女性171名)に実施した。
【結果と考察】
研究Tと同様の因子構造になるか確認した。その結果,やや構造が異なったものの,因子名については変わらず研究Uに用いることができた。その新たな因子構造で性別ごとの比較を行った。その結果,男性の方が女性よりも,ドメスティック・バイオレンス行為を容認していることが確認された。次に,どのようなドメスティック・バイオレンス行為において性差がみられるか確認するため,項目ごとの比較を行った。16項目の男女別の平均得点は,全体的に,「許されない」行為と判断されていたものの,一貫して男性の方が女性よりも,ドメスティック・バイオレンス行為を容認していることが明らかになった。項目1(お金の使い方を細かくチェックする),項目2(反論したり,異なった考えを言うと怒鳴ったり,不機嫌になる),項目5(気がすすまないのにセックスを強要する),項目8(子どもの父親が自分であるか疑う),項目10(原因が思い当たらないのに,よそよそしくしたり,冷たいやりとりをする),項目12(男性関係を疑う),項目13(男性が勝手に家を出る),項目15(男性が女性に対して,他の人との性的関係を疑う),項目16(どんな時でも,何かをするたびに,自分の許可を取らせる)において,0.1%水準で有意差が確認された。このことより,先行調査の結果を支持するものとなった。
(指導教員 豊村和真教授)