青年期の自我発達上の危機と幼児期からの親の養育態度との関係
9907084
山内 勝義
【目的】
青年期の自我発達上の危機とは,児童期とは質的に異なった世界への移行が始まる中で,自己の危機や不安が体験されやすいという意味で用いられている。本研究では,青年期の自我発達上の危機をErikson(1959)の自我発達論および長尾(1989)を参考にして,「児童期までとは異なった心理状態が生じる発達上の転換期における不安定さ」と定義した。そして長尾(1999)は,幼児期からの親子関係の絆が基盤となり,交友関係の社会化が展開されるとする社会化理論(Radke-Yarrow et al. 1983)で自我発達上の危機状態を説明できるとしている。よって本研究では幼児期からの親の養育態度が,青年期の自我発達上の危機に影響を及ぼす要因であると仮定した。そして,その青年期の自我発達上の危機を幼少期からの親の養育態度との関係から検討することを目的とした。加えて自我発達上の危機の性差,男子と女子の親の養育態度に対する認識の違いを検討し,先行研究を基にして立てた以下の2つの仮説を立証する。
T.男子と女子では,父親と母親の養育態度に対する認識は異なる。
U.自我発達上の危機が高い者ほど親の養育態度が支配・介入的である。
【方法】
長尾(1989)が作成した,青年期の自我発達上の危機状態尺度(A水準),とSchaefer(1965)が作成した,父親・母親の養育態度を測定する質問紙から,宮下(1991)を参考に父親20項目,母親25項目を抜擢した調査用紙を作成し,北星学園大学の学生123名を対象として予備調査を実施した。そして回答の分布に編たりのある項目を削除し,主因子法による因子分析を実施して,ヴァリマックス回転を施し,最終的に青年期の自我発達上の危機尺度,4因子15項目と父親の養育態度2因子10項目,母親の養育態度2因子10項目からなる調査用紙を作成した。本調査は北星学園大学および他大学生の学生181名を対象に(男子88名,女子91名)に9月18日,25日に実施した。
【結果・考察】
結果1で,危機得点について男女間でt検定を行い,女子の危機得点が男子より高い傾向にあることが判明した。結果2では父母の養育特性について性別と養育態度で2要因分散分析を行った。その結果,性別の主効果が有意傾向であったため,養育態度について男女間でt検定を行った。この結果,女子が男子よりも母親を支配・介入的であると認識しており,仮説Tは母親に関して支持された。結果4では父母の養育特性について危機得点と養育態度で2要因分散分析を行った。その結果,交互作用が有意傾向であったことから親の養育態度,危機得点それぞれの単純主効果の検定を行った。その結果,父親の支配・介入のみで危機得点間に有意差がみられた。また危機得点高群の父親の支配・介入は母親の支配・介入と比較して有意に低かった。この結果から危機得点が低い者の方が,父親を支配・介入的と認識していることが判明し,父親の厳しいとされる養育態度は,青年期の自我発達上の危機を抑制する働きがあると示唆された。よって仮説Uは支持されなかった。
そして危機得点を従属変数,養育態度を独立変数とした重回帰分析の結果,標準偏回帰係数が父親の支配・介入で有意に高かったが,重回帰係数が有意でないことから,青年期の自我発達上の危機に影響を及ぼす要因は,父親の支配・介入的な養育態度のみに回帰できるものではいが部分的に影響を及ぼしていると結論づけた。
(指導教員 豊村和真 教授)