人を生き生きさせる具体的な関わり方・環境の探索的研究
〜教育・保育・福祉における様々な事例を通して〜
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杉本 紗恵
【第1章 はじめに】
私は、4年生になる前の一年間、休学をした。様々な体験の中で「私のありのままが受け入れられた」と感じ、私を「生き生き」させた。「ありのままに受け入れられる」ことが、人を「生き生き」させるのではないだろうか。また、オーストラリアの「違いは良い」という考え方を持つ文化を目の当たりにし、日本の、「みんなと同じが良い」「みんなと同じじゃなきゃ」という考え方が時に“圧力”になり得るという特徴を見出した。「違いを良い」と思えないことが、コンプレックスを抱かせ、自信を失わせる要因なのではないだろうか。さらに、現在の日本の社会における、自殺、リストラ、ひきこもり、不登校、いじめ、孤独死、虐待、などの様々な問題や様々な事件、また、世界の問題とされるイラク戦争に表れているように、人が苦しむこと、人が死ぬことが充満している社会、それらに無関心でいる人々は、「生き生き」した社会、「生き生き」した人々であるとは言えない。
そこで、本研究の目的は、次の二つである。@人が「生き生き」するとはどういうことかを導くために、福祉や教育の分野での援助者や指導者という専門的な立場における、基本的な個別的な関わり、環境も視野に入れた関わりを探索的に考察すること。A「生き生き」した社会とはどういうものかを導くために、現在の社会における問題点を探り、専門的な視点から目指すべき社会を考察すること
【第2章 本論】
福祉や教育の場面で論じられる、「豊かなこころ」「自立」「自己決定」という言葉を考察した結果、「生き生き」した姿の具体的な要素は、「自信を得ている」「自分自身を発見している」「意欲的・自主的・主体的である」「安心感を得ている」「他者や周りへの関心を持つことができる」姿である。「ありのままに受け入れる」とは、肯定的なものだけではなく否定的なものも感知し、人間の全体に係わることであり、「人間としての尊厳と価値を尊重すること」である。さらに、学童保育や精神科デイケアそれぞれの実践より、人が「生き生き」するためには「ありのままに受け入れること」が重要であることが示された。
人を「生き生き」させる具体的な関わり方を探求するため、知的障害者更生施設や学童保育において私が直接関わった事例を考察した結果、「知ろうとする」「関わり続ける」「待ちの姿勢」「相手の好奇心に敏感に、刺激し続ける」「弱さも包み込む」「言葉や態度の裏側を見る」ということが重要であることが示された。
文献や、他文化との比較により、人が「生き生き」できない根本の原因は、現在の日本の社会にあり、それは日本の「便利な社会」「豊かな社会」「競争社会」「能力主義」という性質であり、この性質が「地域社会の希薄化」「人間関係の希薄化」を生み出していることが示された。
【第3章 結論】
福祉や教育に関わる援助者や指導者が、基本的な個別的な関わりとして、「知ろうとする」「関わり続ける」「待ちの姿勢」「相手の好奇心に敏感に刺激し続ける」「弱さも包み込む」「言葉や態度の裏側を見る」という視点を持って、「ありのままに受け入れられた」と感じられる関わりをすること、さらに、環境も視野に入れた関わりとして、「家族や地域社会と切り離さない形」や「仲間関係を大切にする形」での援助や活動をすることが重要である。
このような関わりによって、一人の人間が、「自信を得ている」「自分自身を発見している」「意欲的・自主的・主体的である」「安心感を得ている」「他者や周りへの関心を持つことができる」という姿を持ち、「生き生き」できるのである。そして、一人一人が「違いを良い」とする考えをもって「個人の価値を尊ぶ」という感覚や「人間関係の中で、地域社会の中で生かされている」という感覚が養われ、それは「地域社会の希薄化」「人間関係の希薄化」を解消することにつながる。こうして「生き生き」した社会が生まれるが、それは人が苦しむこと、人が死ぬことが充満している社会ではなく、「平和」な社会である。このような社会を目指すことは、教育基本法や福祉の理念、さらには、憲法においても「平和的な国家及び社会を目指す」「個人の価値を尊ぶ」と謳われていることと共通し、まさに目指すべき社会である。
(指導教員 豊村和真 教授)