方向感覚と活動性の関連について
9907059
佐々木 健



【目的】

 谷(1987)や竹内(1992)の研究では,方向感覚とYG性格検査の活動性の間に有意な関連があるとされている。また,Bryant(1982)の研究では,方向感覚と道に迷う事に対する不安との間に有意な関連があるとされている。しかし,道に迷う事に対する不安が高い人は葛藤が生じやすく,それが原因で活動性が低いとも考える事もできる。つまり,道に迷う事への不安と活動性の間にも有意な関連性が存在しているのではないかと考えられる。
 そこで本研究では,方向感覚と活動性の関連について竹内(1992)やBryant(1982)の先行研究を追試し,道に迷う事に対する不安を外出前不安と外出中不安の2つに分け,それを取り除いた上で方向感覚と活動性の関連を検討する事を目的とする。また,実際の外出回数との関連,竹内(1992)の研究では追究されなかった性別ごとの方向感覚と活動性の関連,方向感覚を規定する要因についても併せて検討する。
【方法】
 北星学園大学の学生243名を被験者とした。質問紙は方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S),矢田部ギルフォード性格検査,STAI日本語版(外出前状況,外出中状況)をもとにして作成し,それを被験者に回答させた。
【結果・考察】
 被験者の中から欠損値のなかった192名(男性83名,女性109名)を分析対象とした。 SDQ−S得点と活動性の関連を調べた結果,SDQ−S得点と活動性の間に有意な相関関係が見られた。また,因子ごとの得点と活動性の関連を調べた場合も同様の結果になった。以上の事から,竹内の先行研究の結果は支持されたと考えられる。次に,性別ごとにSDQ−S得点と活動性の関連を調べた結果,男性,女性の両方とも有意な相関関係が見られた。
 SDQ−S得点と道に迷う事に対する不安との関連を調べた結果,外出中,外出前の両方ともSDQ−S得点と有意な相関関係が見られた。性別・因子を組み合わせて考えると,性別が女性で,因子2の時に,外出中不安とSDQ−S得点との間で有意な相関関係が見られないが,それ以外はSDQ−S得点と道に迷う事に対する不安との間に有意な相関関係が見られた。以上の事を総合的に考えるとBryantの先行研究の結果は支持されたと考えられる。
 SDQ−S得点と実際の外出回数との関連を調べた結果,SDQ−S得点と外出回数の間には有意な相関関係が見られた。因子ごとの得点と外出回数との関連を調べた場合も同様の結果になった。しかし,性別ごとに調べると,女性では有意な相関関係が見られたのに対し,男性では全く相関関係が見られなかった。このような結果になった理由として,男性は近所のコンビニなど周知の場所へ行く機会が多く,それが結果に反映されたのではないかと考えられる。
 SDQ−S得点を従属変数にして,外出前不安,外出中不安,性別,活動性を独立変数として重回帰分析を行った結果,他の要因を取り除いた場合でも方向感覚と活動性の間には有意な関係が存在した。また,因子ごとの得点で同様の分析を行った場合も同様の結果になった。以上の事から,他の要因を除いた場合でも方向感覚と活動性の間には有意な関連性が存在すると考えられる。
 方向感覚を規定する要因としては,SDQ−S得点では性別,外出前不安,活動性の3要因が挙げられた。因子ごとに見ると,因子1では,性別,外出中不安,活動性の3要因が挙げられた。因子2では活動性,外出前不安の2要因が挙げられた。このように,因子によって規定する要因が異なっているのは,竹内(1990)が述べている方向感覚が複数の要因から成り立っているという事を反映していると考えられる。また,因子1は方位に関する意識についてであり,この因子の中心となっている方位に関する判断は外出中に行われていると考えられる。そのため,因子1は外出中不安と有意な関連が見られたと考えられる。因子2は空間行動における記憶についての因子であり,実際に移動している時の項目が中心である。この事から,外出中不安が規定因子として得られると考えられる。しかし,本研究ではこの考え方と矛盾する外出前不安が規定因子として得られた。しかし,重回帰分析の結果から,因子2は外出前不安と有意傾向しか見られていないので,単なる偏りと推測される。
(指導教員 豊村 和真 教授)