顔再認による判断基準の効果


ー形態判断・示差的特徴判断・親和性判断ー


9807071


植田 奈美


《目的》
顔は個人の識別や同定にとって有効な手がかりであるだけでなく,顔の「所有者」である人間の心の状態を表出する身体部位でもある。人は相手の顔に浮かぶ表情や視線の動きを手がかりに,相手の感情,意図,思考を推測する(Ekman,1982)。人は顔に対して好悪や審美判断などの価値評価を行なったり,さらにはその人のパーソナリティや行動傾向(活発そうな,やさしそうな,など)も推測する(Shepherd,1989)。顔は,個人を同定するための視覚情報であるだけでなく,コミュニケーションの媒体,すなわち他者を知るための情報を得たり,逆に自己を他者に伝える機能も果たしている。
 同じ顔を同じ時間知覚しても,顔を見る見方が異なると,記憶のされかたにも違いが生じる。顔の形態的な特徴に注目させて,目の大きさや顔の形などについて判断を求めた場合(形態判断課題)と,顔から受ける性格印象について判断を求めた場合(意味判断課題)とでは,後者の方が後の再認成績が良くなる。これは顔の記憶における意味処理優位性効果(semantic superiority effect)と呼ばれている。
 未知顔の記憶を促進するのは意味処理だけではない。Winograd(1981)は同様の偶発記憶パラダイムを用いて,顔の中で最も特徴的な部位を「目・鼻・顎・耳・髪・頭の形・額・口・肌」の中から選択する示差的特徴判断の効果を検討した。その結果,再認成績は性格条件と示差的特徴条件の間で有意差がなく,いずれも形態特徴条件より優れていた。これは示差的特徴効果と呼ばれている。
未知顔を見た時の処理方法がその後の再認成績に強く影響するといえる。本研究では未知顔の認知過程において形態判断,示差的特徴判断,親和性判断の3種類の判断基準について分析する。
《方法》
北星学園大学の学生54名(男性24名,女性30名)を被験者とし,「判断課題(形態,示差的特徴,親和性)」×「再認時写真(同一,変化)」の6条件に各9名(男性4名,女性5名)を配置した。使用する写真は被験者と面識のない写真を用い,また再認時テストの変化条件に用いる写真は反転した写真を用いた。被験者には顔の判断に関するテストであることを告げ,POWERPOINT2000を用い15枚の顔写真(ターゲット刺激)を被験者正面のスクリーン上に映しそれぞれの判断課題において回答を求めた。5分間の妨害テストを行なった後,妨害刺激15枚を含む30枚の顔写真を記銘時と同じように提示し再認テストを行なった。
《結果・考察》
HIT率(ターゲット刺激を再認時に正しくYESと判断した割合)と,Fa率(誤再認率:妨害刺激を再認時にYESと判断した割合)を条件毎に求めた。さらにHIT率とFa率からd’値を算出し分析の指標とした(図参照)。

3つの指標それぞれについて判断課題×再認時写真の2要因分散分析を行なった。HIT率については形態に比べ示差的特徴,親和性が高く,Fa率について親和性は示差的特徴よりも有意に低い傾向にあったが,形態は親和性・示差的特徴のどちらとも有意差はなかった。d’値については形態が親和性より有意に低かったが,示差的は形態・親和性のどちらとも有意ではなかった。また,いずれも写真の違いによる主効果,交互作用はなかった。
態判断をするよりも再認成績がよくなることがわかった。また,示差的特徴判断をするよりも親和性判断をしたほうが,再認成績がよくなる傾向が見られた。これは,示差的特徴判断は個人の好悪に関係のない判断内容であるのに比べ,親和性判断は1枚の顔写真からその人の性向や性格などを想像し,自分の好みかどうかを判断すると言う課題であったためと考えられる。
本研究では再認テスト時にyes-noでの判断をさせた。しかし,判断課題の違いを明確に示すために再認テストの際に確信度を測定することによって,判断における迷いが見えたのではないかと考える。

(指導教員 豊村和真教授)