パーソナル・スペースの実験研究
9807050
野田 理絵
〔目的〕
パーソナル・スペースに影響を及ぼす要因としては様々な要因があるが、そのひとつとして,視線
交錯(eye-contact)が挙げられる。吉田・堀(1989)は,視線交錯を通して,自己の内面に進入され
る感じを伴うのではないかと述べている。それならば,サングラスやミラーグラスで視線を遮断するこ
とによって,他者が接近したときの気詰まり感は減少するのではないだろうか。また,不安はどのよう
に関係していくのか,気詰まり感を数字で表せるマグニチュード推定法を用い,検討した。
〔方法〕
北星学園大学の学生44名を被験者とし,実験者は被験者とほとんど面識がない同大学の学生2
名とした。実験室の床に被験者が足の爪先をあわせる位置より,50cm,100cm,150cm,200cm,
250cm,300cmの位置に目印をつけた。このような印を正面,ななめの45度,横の90度につけた。こ
の計18ヶ所の位置の間を実験者が移動し,気詰まりの程度を被験者に表させた。これを裸眼とサン
グラスとミラーグラスの3条件,行った。移動の順序,メガネをかける順序はランダムであった。まず,
被験者にMAS(テイラー不安検査)をさせた。その後,所定の位置につかせ,教示をした。実験中
は,実験者が正面にいる場合にのみ視線を交錯させた。サングラスとミラーグラスをかけると相手か
らどの様に見えているのかを被験者に確認させた。
〔結果と考察〕
被験者の分類:MAS得点を2群にわけた。高群の平均点は28.18点,低群の平均点は13.50点であ
った。人数はいずれも22名であった。
方向,距離,視線遮断条件(裸眼・サングラス・ミラーグラス)を被験者内要因,被験者の性別,実
験者の性別を被験者間要因とする5要因の分散分析を行った。その結果,方向と距離,距離と性
別,距離と実験者,視線遮断条件と実験者の性別,視線遮断条件と実験者の性別に交互作用がみ
とめられた。
男性の被験者のマグニチュード推定値は裸眼の方がサングラスより有意に高かった。女性の被験
者においては視線遮断の効果はなかった。サングラスとミラー
グラスは男性より女性のマグニチュード推定値が高かった。女性は視線を遮断しても相手からの視
線を感じたのだろう。
MASの高群と低群を被験者間要因,視線遮断条件を被験者内要因とする2要因の分散分析を行
った。ミラーグラスより裸眼の方が,ミラーグラスよりサングラスの方が有意にマグニチュード推定値が
高かった。MASの高群と低群に有意な差はみられなかった。この結果より,視線遮断による効果に
顕在性不安は影響を及ぼさないということがわかった。ミラーグラスによる視線遮断は不安の高い者
であっても,低い者であっても,同じような効果がでるといえる。
サングラスによる視線遮断ではマグニチュード推定値が減少しなかった理由として,サングラスによ
る視線遮断では視線は完全に見えなくなることはないという点が挙げられる。一方,ミラーグラスは完
全に視線が遮断される。この全く相手からは自己の視線がわからないという状態が被験者に安心感
を与え,マグニチュード推定値が裸眼,サングラスより有意に低くなったのであろう。
今後の課題としては実験者の個人特性による効果を研究することが挙げられる。その点について
研究するには,実験者に対する好意度評定が有効であろう。
平均値をスプライン補間し,気詰まりの変化を表したものが図である。X座標が6,Y座標が7の位置
に人が立っているとみなす。
図 気詰まりの変化を表した図

(指導教員 豊村和真教授)