大学生の健康観が食行動に及ぼす心理学的研究
9807046
森田 誠一
[目的]
1996年に,厚生省が成人病を「生活習慣病」と変更を行った。これは,成人病の発症と進行を予防できるという認識を国民の間に広く啓発して,行動変容へと結び付けていくために,新しく生活習慣に着目した疾病の概念を導入し、特に一次予防対策を強力にするために行ったものである。
そして,現代を生きる若者は子どものときから生活習慣病になりやすい環境のなかにいるとされている。 そこで,健康教育を行なううえでまず重要なことは,近年の若い世代のライフスタイルや健康状態など,実態を把握することであろう。次に,保健行動が行われる条件を明らかにすることが必要である。保健行動とは,「健康のあらゆる段階にみられる,健康保持,回復,増進を目的として人々が行うあらゆる行動」である(宗像,1996)
青年期を通じて身につけた食習慣,さまざまな食物環境への対処方法は,青年期以降の食行動の基礎を固めるものでもある(今田1996)。そこで、大学生となり,あらゆる面で自由度が増し,初めて自分で自分の生活スタイルを再構成していくと考えられる大学生と,身近であり,生活習慣病との関連も深い食行動にテーマを絞り,大学生の食行動と不健康について検討していく。以下に2つの仮説を述べる。
1.健康観と食生活の関連から,健康に対する自己効力感の高い人(Internal傾向)や健康の価値を重視する人,また,自炊の経験のある人のほうが自己の食事を考えることになるので,健康に配慮して食事についても気をつけていると予想される。
2.健康観と健康食品の利用との関連から,健康に対する自己効力感の高い人(Internal傾向)や健康の価値を重視する人が健康食品利用するのではないかと予想される。
[方法]
調査は,主に北星学園大学の学生と他大学の学生を対象に行った。有効回答数は100名(男性43名,女性57名)となった。
調査には,質問紙法による回答法を用いた。質問紙による調査は,2001年11月下旬から12月上旬にかけて,主にパソコン実習室,サークル棟の学生に対し個別に配布・回収した。その他,他大学の学生に対しても個別に配布・回収した。質問紙の内容は,問1-食生活の実態について,問2-健康食品その他について,問3-健康観について,問4-価値の順位付けについてからなる。
[結果・考察]
健康観と食生活についての関連については,健康観からの食生活への影響については関連がみられなかった。また,自炊経験のある人の方が,食生活が乱れているという結果になった。「食生活の乱れ」においては男性の方が女性より食生活が乱れていると言う結果になった。このような結果から,健康観が食生活に影響するという仮説は検証されなかった。これは,この世代が健康以外の価値を優先しても支障ががないために健康以外の価値を優先することが多くなるからである。そしてもう1つの原因として,食行動そのものである。食行動は私たちが生きていく上で大変重要で,身近なものである。つまり健康観が直接食行動に影響する可能性が低いものと考えられる。そして,自炊経験のある方が,食生活が乱れているのは,大学生には現在自炊している者が多く,自宅で家庭の料理を食べる機会が少なくなり,健康の価値よりも他の価値を優先とする大学生にとっては,外食や簡便なインスタント食品に頼ってしまうと考えられる。そして,男女差については,女性は,少なからず料理を作る側に立つことが多かったり,美容上のことを気にして食生活においても気を使うことになるが,男性は他人が作るものを食べるだけであったり,また調理すること自体を面倒としインスタントや外食などに頼る傾向があると考えられる。
健康観と健康食品の利用との関連については,大学生においては健康食品を健康のための食品として利用するわけではなく,真新しく単なる嗜好品してとらえている可能性がある。ただ,現代人には必要なものであると答えていることから,将来においては健康食品が必要となるが,今の青年期において健康な状態では健康食品を健康のためとして利用することはあまりないと考えられる。
(指導教員 豊村和真教授)