大学生における知覚されたサポートのストレスに対する効果について
9807043
馬渡 誉子


[目的]
 本研究では,「ある人を取り巻く重要な他者(家族・友人・先生など)から得られる有形・無形の援助」(嶋, 1991)としてソーシャルサポートを捉え,援助的な行動が,周囲の人からどの程度得られると思うか,という予想レベルでのサポートの入手可能性(知覚サポート)を取り上げ,ストレス度の違いによって,援助をしてくれる他者やサポート内容の知覚,期待度に差が生じるのかどうかを検討した。
[方法]
 被験者は,北星学園大学の社会福祉学部で,地域福祉論を履修している男女学生,および社会福祉概説を履修している男子学生を対象とした。有効調査回答者は,190名(男性56名, 女性134名)であった。
 調査内容は,福岡ら(1992)によるソーシャルサポート尺度と嶋(1992)によるストレス尺度から構成されている。ソーシャルサポート尺度は,第1因子(日常的・情緒的サポート),第2因子(アドバイス・指導サポート),第3因子(実践的サポート),第4因子(行動的交流サポート)の4因子25項目からなる。サポート源は,福岡(1992)の研究をもとに,特に重要であるとされる父親,母親,きょうだい,同性友人,異性友人の5つに設定した。ストレス尺度は,実存ストレス,対人ストレス,大学・学業ストレス,物理・身体的ストレスの4つの下位尺度について計20項目からなる。
[結果]
 まず,男女別の各尺度の下位検定を行った。母親では,行動的交流サポート,日常的情緒的サポート,実践的サポートにおいて,きょうだいでは,日常的情緒的サポート,実践的サポートにおいて,同性友人では,行動的交流サポート,日常的情緒的サポート,アドバイス・指導サポートにおいて男性より女性の方がより多くのサポートを期待している。父親,異性友人については,男女間による性差はなかった。ストレス尺度では,女性より男性の方が,大学・学業ストレス度が有意に高かった。
 次に,ストレス度(低・中・高)により,サポート期
待得点に違いがあるか検定した。
 男性では,実存ストレスに対する母親と同性友人によるアドバイス・指導サポートと,大学・学業ストレ

スに対するきょうだいによる実践的サポートにおいて,ストレス度別にサポート期待得点に差があった。女性では,実存ストレスに対する父親による日常的情緒的サポート,対人ストレスに対する父親による行動的交流サポート,物理・身体的ストレスに対する同性友人によるアドバイス・指導サポートにおいて,ストレス度別にサポート期待得点に差があった。
[考察]
 尺度の男女差の背景には,男性には困難な問題に遭遇した場合でも,他者からの援助を受けずに独力で解決する事が期待されるという社会的要因や,男性より女性の方が自分の周囲との接触頻度が高く,より共感性や自己開示が高い,といった男女の対人関係のあり方の相違の影響が考えられる。
 大学生にとって重要なサポート源は,母親と同性友人であり,このサポート源によるサポートを補う形で作用する場合は,ストレス度が高くなるに連れて,サポート期待得点は高くなり,母親と同性友人によるサポートだけでストレスへの対処がなされる場合は,サポート期待得点も低くなり,そのサポート源が持つ役割も小さくなることが示された。前者の傾向は,男性における実存ストレスに対する母親と同性友人によるアドバイス・指導サポートと,女性における物理・身体的ストレスに対する同性友人によるアドバイス・指導サポートで見られ,後者の傾向は,男性における大学・学業ストレスに対するきょうだいによる実践的サポートと,女性における実存ストレスに対する父親による日常的情緒的サポート,対人ストレスに対する父親による行動的交流サポートで見られた。このような差が生じる事は,ソーシャルサポートの持つストレス緩衡効果といえる。ストレスの強さに関わらず,同程度にサポートを期待し,得点に差が見られなかった事は,ソーシャルサポートの持つストレス直接効果といえる。普段日常から当然得られるべきサポートとして認知されており,サポートが常に得られるという知覚が,ストレスの低減に役立つといえる。大学生にとって,母親は良き相談相手として,同性友人は一緒にいて気を紛らわせてくれたり,自分の気持ちをわかってくれる存在といえる。
(指導教員 豊村和真教授)