色彩の連想に関する考察
9807003 安藤千尋


【目的】
 色彩は見る人にその色と関連のあるイメージを想起させる。これを色の連想作用と いい,個人的経験,記憶,思想,意見などが直接投影される。連想には色相だけでな く他の要素も関わってくる。同じトーンの色は色相が変わってもそのイメージは共通 している。これをトーンの連想作用という。
 千々岩(1981)は色彩の内包的意味を明らかにするために,Wolff,W.の色−単語マッ チング法による3つの実験を行った。研究1では色の意味に関する日米学生間の交差文 化的比較が行われた。研究2では因子分析法によって色の意味に関する構造的次元が 明らかにされた。それらは第1因子から順に「活気と沈滞」,「あくどさと爽やかさ」, 「理性と感情」,「欲望と私欲のなさ」,「躁的と鬱的」である。研究3では被験者 に80色を示し51語のリストを使って判断させた。それによって,彩度が高いほど有意 味であるという結果が得られている。またここでは「活気と沈滞」,「あくどさと爽 やかさ」,「理知的と感情的」という3因子が抽出されている。
 本実験の目的は,言語に対して言語で反応した連想、すなわち色名リストに対する 連想と,言語に対して色で反応した連想、色見本に対する連想との関係を探ることと する。前者が言語思考による回答であるのに対して,後者は言語による概念を色の選 択の時点で視覚思考に転換することによって回答することになるため,異なった結果 になることが予想される。また,千々岩(1981)の研究で見出された因子が表れるか の検討もする。

【方法】
 被験者は北星学園大学に在学の男性14名、女性30名の計44名であった。刺激は「新 配色カード 199a」より黒・白・灰と赤・黄・緑・青・紫色相からトーンを変えて3 色ずつの計18色を色見本とし、それをもとに「日本語大辞典」の色名解説よりほぼ同 じと思われる色、18色を選んだ。全ての色が「○○いろ」となるように,語尾に「い ろ」のついていないものには「いろ」が付加された。
 実験は1〜3人で行われ,カウンターバランスをはかるために色見本→色名リストの 順番で行う場合と,逆の順序で行う場合を半数ずつに設定した。単語リストも場所で の記憶がなされないように,1枚目と2枚目の配置はランダムで変更した。被験者には 色の印象の調査であることを口頭で告げた以外は各自のスピードでそれぞれの単語に ついて回答させた。反応記入の所要時間は大体15〜20分であった。

【結果・考察】
 色名間、色見本間、色名−色見本間の関係を見るために相関係数を求めたところ、 色名における連想では同色相内での相関は紫色相以外ではあまり見られていない。そ れよりも同じトーンの対応色での相関がよく見られた。これは色彩の印象には色相よ りもトーンの印象が強くあらわれるということを示している。また、同色相内で相関 が見られない、ということはそれぞれの色が違うものとして認識されているというこ とである。一方色見本の場合は同色相内での相関は緑色相以外ではあまり見られなかっ た。色名の場合とは違い、トーンによる相関もあまり見られていない。よって色見本 で色の連想を行った場合はそれぞれの色がある程度独立していると言える。つまり、 色名の場合のように自分のイメージで連想を行うよりも実際の色を見て連想を行った 方が、色のイメージがはっきりするということになる。色名では色相よりもトーンの 印象が強くあらわれたが、色見本における連想では色相、トーン両方において象徴が あまり見られなかった。よって、千々岩(1981)の研究3で見られた「色彩の内包的 意味は色相よりも色のトーンによって決まる」という結果は色名においては支持され たが、色見本には支持されなかった。
 千々岩(1981)の研究との関連を調べるため主成分分析を行った。本実験では色名・ 色見本とも負荷量の程度は違うものの、各因子に含まれる色はほぼ一致した。それぞ れの因子に対応した単語も半数以上は一致した。おおまかに見れば因子分析において、 色名と色見本では特に差はなかったという結果が得られた。千々岩との関係は多少見 られたが、本実験においては第1因子に紫系が3色、第3因子に緑系が3色と全てのトー ンが含まれてしまったため、明度や彩度との関連は見られなかった。
(指導教員 豊村和真教授)