9807002
合坂 未幸
≪目的≫
身体イメージとは,身体像,ボディ・イメージなど
様々に呼ばれ,その定義も一様ではない。精神医学辞
典(1993)によると,「自己の身体に関して各人が意
識している空間的な心像をさす用語」とされている。
近年,多くの女性が痩せ願望を持ち,そのことが摂
食障害や対人関係にまで影響を及ぼすことが数多く研
究されている。女性にとっては自己というと身体のイ
メージが大部分を占めるまでになっている。さらに,
女性の痩せ願望にも流行による変化が見られ,痩せて
いてかつスタイルがよいことを好む傾向も見られる
(馬場,1989)。しかし,男性の研究は,身体イメー
ジが女性ほど深刻な問題ではないからか,あまり研究
されてはいない。その理由として,身体イメージを太
り・痩せという2極で捉えていることが挙げられる。
男性は,太り・痩せという概念よりも,より強くある
ことが望まれており,このことは太り・痩せだけでは
捉えることができない。そこで本研究では,Stunkard
(1980)のシルエット画9段階中の5段階を使用し,
そのシルエット画から,女性は胸が大きくなり,腰が
くびれ,脚が全体的に細くなるグラマー体型へ,男性
は筋肉質体型へと変化する画を作成した。この男女各
25のシルエット画を調査材料とし,シルエット画及び
身体満足度と自己意識との関連を検討した。
本研究の仮説は以下の3つである。
仮説1:男性は,筋肉質で標準の太さの体型を理想と
し,女性が思う男性の理想体型の方が筋肉質でない。
女性はグラマーで痩せ体型を理想とし,男性が思う女
性の理想体型の方が痩せでない。
仮説2:男女ともに,シルエット画で現実像と理想像
の差が大きいほど,身体満足度が低い。
仮説3:シルエット画で現実の体型と理想の体型の差
が大きいほど,公的自己意識や対人不安が高い。
≪方法≫
北星学園大学の学生180名(男性84名,女性96
名)を被験者とした。25のシルエット画から@現在の
自分の体型,A理想の自分の体型,B理想の異性の体
型をそれぞれ選択させた。次に,21項目5段階からな
るSCS自己意識尺度と,23項目7段階からなる身体
満足度に回答させた。
≪結果・考察≫
(1)シルエット画について
男性は,筋肉質な体型を理想とし,女性は痩せてか
つグラマーな体型を理想とした。また,女性が思う男
性の理想体型よりも,男性が思う自分の理想体型の方
が,筋肉質な体型について有意であったことから,男
性の筋肉質体型への強い願望がわかる。そして,女性
が思う自分の理想体型の方が,男性が思う女性の理想
体型よりも有意に痩せており,女性の盲目的な強い痩
せ願望を示唆する結果となった。
(2)自己意識と身体満足度について
男女共に,対人不安と身体満足度との間で負の相関
がみられたことから,自己の身体イメージに満足して
いない者ほど,対人関係を築く際に身体イメージが大
きな影響を及ぼし,しかも身体イメージが対人関係に
おいてマイナスに働くことがわかった。さらに女性で
は,私的自己意識及び公的自己意識と身体満足度との
間にも負の相関傾向がみられた。つまり,女性では自
己をイメージすることの大部分を身体イメージが占め
るという過去の研究から,本調査でも身体イメージが
自己意識そのもの全てに影響しているとわかる。
(3)シルエット画と身体満足度及び自己意識
シルエット画で被験者が選択した現在の体型と理想
の体型との差を「ずれ」とし,ずれの大きさと身体満
足度及び自己意識との関係を調べた。すると,男女と
もに,ずれが大きいものほど身体満足度が低いという
結果であった。このことから,今回作成したシルエッ
ト画が,身体満足度を視覚的に捉える役割を果たした
といえる。また男性では,ずれと公的自己意識及び対
人不安との間で負の相関がみられた。しかし,身体満
足度と公的自己意識の分析では相関が現われなかった。
このことから,男性は,身体満足度として身体部位を
評価することよりも,筋肉質な体型を含めたシルエッ
ト画を視覚的に捉えることで,自己の理想体型のより
明確なイメージをつかむことができると考えられる。
女性では,ずれと自己意識との間では相関関係がみら
れなかった。このことは,ずれの大きさに関わらず,
女性が抱く理想の体型が「痩せでグラマー」という確
固たるイメージができあがっていることが考えられる。