方向感覚について
9707076
対馬 聖子
[目的]
経路学習の空間情報の中で,認知地図形成に大きく関わっているランドマークに着目し,方向感覚が良い人は意識的努力によって注意深く空間情報を獲得しようとし,そのために獲得される情報量は多くなると考えられる。それによって実験課題の再生率は高くなり,作成時間については記憶した情報量が多い分,検索に時間がかかるため作成時間は長くなると考えられるという仮説を立てて検討する。最終的に意識水準と行動水準で方向感覚の良否に違いがあるかを検討する。
[方法]
被験者:北星学園大学の学生33名(男8名,女25名)
手続き:最初に方向感覚質問紙(竹内,1992)に回答させた。次に,被験者にビデオ映像で経路を学習させた。学習時には画面上に映る全ての情報を見落とさないようにしながら経路を記憶するように教示した。経路学習後,まずB4サイズの白紙に経路を自由再生させた(自由再生課題)。次に,学習経路を含む都市地図上に経路を再生させ(地図経路課題),さらに地図上に記されている対象物に関して,経路学習に利用したものには赤で印をつけさせた(地図上の手がかり再認)。手がかり数は正しい経路上にあるもののみとした。
刺激:自動車の中に固定したビデオカメラで前方の風景を撮影した。車の速度は平均30km/時であった。学習経路は右折9 回,左折6 回を含むJR大麻駅からJR野幌駅までの経路を採用した。
[結果・考察]
・被験者の分類:方向感覚質問紙の総合得点で被験者を3群に分け、方向感覚意識水準レベルと名付けた。平均値は67.88点だったので61点未満を「低群」,62点以上75点以下を「中群」,76点以上を「高群」とし,いずれも11名である。
・自由再生課題:再生率と作成時間は方向感覚意識水準レベル別に図1に示した。質問紙と再成率の間、再成率と作成時間の間、再成率と作成時間の間、いずれも何ら関係はなかった。
・地図経路課題:再生率と作成時間は図2に方向感覚意識水準レベル別に示した。手がかり数は高群4.91個,中群3.36個、低群4.64個であった。質問紙得点と手がかり数の間には関係はなかったが、手がかり数が多いほど再成率は高く,再成率が高いほど作成時間は長かった。まとめると、方向感覚の良い人ほど意識努力によって空間情報の獲得数が多いだろうという仮説は検証されなかったが,記憶した情報が多いほど検索に時間がかかるため、作成時間は長くなるという仮説は検証された。
一般的に「再認」の方が「再生」に比べて再成率が高くなると考えられている。しかし自由再生課題を「再生」、地図経路課題を「再認」とすると、再生の再成率の方が高かった。逆の結果が得られた理由は,記憶している無数の貯蔵情報の中から求める情報を適切に探し出すことを「検索」というが、この手がかりの検索の有効性の問題が本実験の結果と結びついてくると思われる。つまり貯蔵情報の再生において検索手がかりが適切で、再認において不適切だったために、遂行結果で再生は再認を上回ったということになる。意識水準での方向感覚自己評価と行動水準での結果は関係があることから、方向感覚の良否は日常の空間行動の経験をもとに評価していると考えられる。
(指導教員 豊村和真教授)