障害者に対する態度の研究
9707057
鈴木 孝征
[目的]
現在の一般社会において,障害者の社会進出を受け入れる態勢が整備されてきており,また,近年はノーマライゼーションという風潮を社会に浸透させようという運動が起きていることから,障害者が地域社会で暮らし,健常者と接する機会が今後ますます多くなっていくと予想される。しかし身体障害,知的障害は心身障害者対策基本法という法律で定義され福祉の対象とされていたが,この法律では精神障害者は定義されておらず,障害者基本法と改正された時に初めて定義されたことなどを考えると,身体障害者や知的障害者は精神障害者よりも早くから社会的に広く認識されるようになり,一般社会や健常者の態度や理解において格差が生じてしまったのではないかと思われる。このことについては以下の仮説1,仮説2を検証することで明らかにする。
また,障害者に対する受容的態度を高めることに重要な要因は何であるかを把握することで,障害間にある格差を解消することを目的とし,このことについては以下の仮説3,仮説4を検証することで明らかにする。
仮説1:身体障害者と知的障害者に対する受容的態 度は精神障害者に対するそれと比較して高いだろう。
仮説2:身体障害者と知的障害者に対する接近許容度は精神障害者に対するそれと比較して高いだろう。
仮説3:障害に対する知識が高い被験者は,低い被験者よりも障害者に対する受容的態度は好意的であり,どの障害でも共通するだろう。
仮説4:障害者との交流経験が多い被験者は,少ない被験者よりも受容的態度は好意的であり,どの障害でも共通するだろう。
[方法]
調査対象は北星学園大学の学生および介護福祉系専門学校生の合計198名である。性別の内訳は男性69名,女性129名である。調査内容は受容的態度についての16項目,接近許容度についての4項目,知識についての4項目,交流経験についての5項目を設定し,それぞれを精神障害,知的障害,身体障害にあてはめて作成した質問紙を1セットとした。
[結果と考察]
身体障害に対する受容的態度は知的障害と精神障害に比べ高く,知的障害と精神障害の間では差が見られなかった。この結果により仮設1は成り立たなかった。身体障害者用の設備が知的障害者と精神障害者用のものよりも多く社会生活を送りやすくなっているために,健常者は身体障害者と接する機会が知的障害者,精神障害者よりも多くなっているためと思われる。接近許容度については,隣人,友達,恋愛,結婚の4項目すべてにおいて身体障害の許容度が他の障害よりも高く,知的障害と精神障害の間で差がみられたのは隣人の項目で,知的障害の許容度が高かった。身体障害者は上記の考察と同様の理由から,日常生活で身近な存在であるという認識があるため知的障害者と精神障害者よりも許容度が高いと思われる。知的障害者と精神障害者の隣人項目における差は,精神障害者を危険視している人数が知的障害者よりも多く偏っていたことから,どれほど危険視しているかによるものと考えられる。この結果から,仮説2は成り立たなかった。受容的態度への知識,交流経験の影響は障害ごとに異なっていた。精神障害に対しては危険視するほど受容的態度が低くなる傾向にあり,知的障害では交流経験が多いほど高く,特にボランティア経験の有無が強く関わっていた。身体障害については知識が高いほど,また交流経験が多いほど受容的態度が高かった。健常者が障害者に対して受容的な態度を形成するにあたり,障害ごとに考慮する点が違うことからこのような結果になったといえるだろう。精神障害者を正しく認識し受容的態度を高めるには,まず「精神障害者は危険だ」という偏見を解消することが重要であり,無意識のうちの偏見がなくなれば交流経験を多く持つことで態度の改善につながるのではないだろうか。知的障害者と身体障害者に対しては交流経験から得た好意的なイメージが,偏見が少ない分素直に態度の改善につながるのではないかと思われる。このように,健常者が持つ受容的態度の形成に影響を与える要因は障害ごとに異なっていることが明らかとなり,仮説3,仮説4は成り立たなかった。
(指導教員 豊村和真教授)