歩行についての研究


9707013

井出 知子


[目的]

われわれ人間にとって歩行とは,誕生してから獲得されるもっとも日常的な自然運動であり, 生涯にわたって重要視されるべき,基本的運動・活動の1つである。つまり,歩行とはわれわれ 人間にとって欠かすことの出来ない運動であり,また日常の生活に非常に密着した運動である。 その歩行や姿勢の特徴から,われわれはある一定のイメージを持ったり,そのときの心理状態に よっても歩行の方法に変化が見られると思われる。例えばうれしいことがあったときと悲しいことが あったとき,イライラしているときとリラックスしているときなどの心理状態によって,それぞれ 歩き方のイメージも異なって感じられる。
このように人間の歩行と姿勢には心理的な状態が深く関わっていることをGardiner(1964)は示唆 している。また鈴木(1984)で,ある環境状況・心的状況である姿勢を取らせると,特徴的な気分が 生じることが示されている。さらに春木(1991),弓場(1996),佐々木・春木(1998)らも, 歩行が意識に影響を与えることを示唆している。
これらを受けて,本実験では,被験者に通常歩行と条件歩行をさせ,その間に意識の変容が見られる かどうかを検討する。また,それぞれの歩行によって意識がどのように変化し,それによってもたらさ れる意識性について特徴が見られるかを検討する。

[方法]

北星学園大学の1〜4年生までの学生42名(男子21名,女子21名)を被験者とし,「猫背歩き(背中を丸め, あまり腕を振らないで歩く)」,「ずるずる歩き(体の力を抜き,地面を蹴らずに,足の裏を引きずるよう に歩く)」,「スキップ(リズミカルに片足2回ずつ交互に軽やかに地面を蹴り,手は自然に振る)」の3つ の条件に各14名(男子7名,女子7名)を配置した。被験者にはまず30秒間の通常歩行をさせ,気分を表すと 思われる20の形容詞対を用いた意識評定用紙を用い,意識評定をとった。次に,口頭での説明も加えて条 件歩行のビデオを見せ, 30秒間の条件歩行をさせ,再び意識評定をとった。

[結果と考察]

通常歩行後の意識評定と条件歩行後の意識評定の差についての対応のあるt検定の結果と,意識評定の 差に関して歩行条件を要因としておこなった1要因分散分析の結果から,以下の様なことが言える。 「猫背歩き」は,否定的な気分の変化をもたらす影響力があると言える。特に弱々しく,不健康で, 不快な,また内向的で思索的な,抑圧された気分をもたらす歩き方であると言える。「ずるずる歩き」は, 否定的な気分の変化をもたらす影響力があると言える。特に不健康で,暗く,また消極的で嫌いな, そして不快な歩き方であるということが言える。また「スキップ」は,肯定的な気分の変化をもたらす影 響力があると言える。特に,健康的で,明るく,晴れやかで行動的な,楽しく開放された歩き方であると える。
以上のことより,通常歩行と条件歩行では意識の変容が見られたと言える。また,それぞれの条件歩行 にはそれによってもたらされる意識性に特徴が見られたと言える。よって本実験の結果から,歩行と意識 には関連性があるということが言える。

(指導教員 豊村和真教授)