非行についての意識調査
−1991年当時の結果と比較して−

9707006

畠山 一郎


[目的]

近年,少年による刃物を使用した凶悪事件の発生や,殺人など,人を死に至らしめる犯罪の増加,凶悪・粗暴な非行の深刻化が進んでいる。また少年による覚醒剤などの薬物乱用も予断を許さない状況にあるなど,少年非行情勢は上昇局面を迎えており,極めて憂慮すべき状況にある。そんな中でメディアを通して今の若者達のモラルの低下や,罪の意識の希薄化などが声高に叫ばれている。
 そこで,本研究は問題行動として飲酒,喫煙,非行行為として万引き・窃盗を取り上げた先行研究の追調査を行い,以下の調査によって青少年の非行観の変化を明らかにすることである。
〈1〉1991年の卒業論文(橘)で行われた先行研究の結果と比較し,罪の意識の年代的ずれを明らかにし,非行に関する意識や態度の違いがあるか調査する。〈2〉非行経験のある者とない者とでは罪の意識に違いが見られるということはコールバーグによって説明されているが,。非行の種類によって,罪の意識に違いが見られるかを調査する。
 調査にあたって,以下のような仮説を立てた。
仮説1.罪の意識には,世代的ずれだけではなく,年代的ずれもあるのではないだろうか。1991年当時の学生と現在の学生とでは,非行に関する意識,態度は変化しているのではないか。
仮説2.非行経験のある者はない者に比べて,一般的に反社会的であると考えられている行動について,より問題を軽視する傾向にあるだろう。また,非行の種類によっても違いがあるだろう。

[方法]

北星学園大学の生徒169名(男子64名,女子105名)を対象とし,質問紙による調査を行った。
 質問紙は1991年の卒業論文で作成されたもの(有斐閣選書「非行少年の人間像」安香宏著の中で行われた「青少年の非行及び社会などに対する態度調査」を参考に,質問項目を喫煙,飲酒,万引きにしぼったもの)に10種類の反社会的行為をどれぐらい悪いことだと思うか7段階で答えさせる質問を加えて作成した。また,本研究に必要がないと判断した質問は除外した。

[結果・考察]

〈1〉1991年当時と比べて,未成年者の喫煙,飲酒,万引き・窃盗に関して,実際にその行為を行なっていた人たちの自覚の低下が見られた。また,未成年者の喫煙,飲酒に中学,高校時に経験している人たちの増加,その行為自体を悪いことだとは思わない人たちの増加が見られた。これらのことから,未成年者の喫煙,飲酒に対する罪の意識が希薄になっていると言えるだろう。しかし,万引き・窃盗に関しては,経験者の若干の減少,悪いことだと思うと答えた人の若干の増加をあわせて考えると,評価が厳しくなっていると言える。
非行に関する意識や態度が変化した理由として,それらを安易に満たせる状況になったことが一つの要因として挙げられる。また,情報化の進展による価値観の多様化など様々な要因が複雑に絡み合っていると思われる。
〈2〉罪の意識の有無によって,非行経験に違いがあるか調べるために,問題行動や非行経験の有無×その行為を悪いことだと思うか(2×3)をクロス集計し,分析したが有意差は見られなかった。次に経験の有無によって,反社会的行為の評定に違いがでるか分析したところ,未成年者の喫煙と万引き・窃盗の経験者は未経験者と比べると,反社会的行為をより軽視しているという結果になった。つまり,未成年時の喫煙や万引き・窃盗経験のある人とない人との違いは,罪の意識の有無ではなく,罪の意識の程度の差であると言えるだろう。
しかし,未成年者の飲酒に関しては,経験者と未経験者との間で明確な差が現れていない。これは非行の汎階層化,いわゆる非行の一般化として考えられる。未成年者の飲酒は社会全体の意識として,悪い行為ではないと考えられるようになり,未経験者も飲酒は悪いことだとは思っていなかったが,ただ単に興味がなかったためやらなかったのである。そのために罪の意識に明確な差が現れなかったのではないだろうか。

(指導教員 豊村和真教授)