952307
福山 晶人
[目的]
我々,人間が何気なく行う数多くの行動の一つに歩行という行動がある。この歩行という行動は人間の行う移動行動の中で最も自然なものであり,又,日常生活のあらゆる場面で必要不可欠なものであると言える。歩行の獲得は寝返り,四つん這い,立位,歩行と人間の運動発達の過程でも最後に位置し,生活空間の拡大と共に言語,認知,言語,想像等の高次元精神活動の発達を促す基盤になっており,この歩行の動作に異常が認められれば,その者に非常に重大な影響を与えるのは想像に難くない。例えば歩行の姿勢の異常による情緒,言語,認知,想像等の高次元精神活動の発達の遅れだけでなく,いじめや仲間外れの対象の原因となったり,就職等の経済的自立の困難など,その者の生活にまで影響を及ぼしかねない。
しかし,何故歩行の動作に異常があるとこのような影響を及ぼす事が懸念されるのであろうか。それにはステレオタイプ認知(ステレオタイプ認知とは特定の人々や事象に対して抱かれる固定的で画一的で単純化された観念やイメージの事である)の存在が一つの原因になっていると指摘することが出来るであろう。それは,例えば佐々木(1997)はその研究で歩行とステレオタイプ認知の関係について何らかの傾向があると指摘しているように,一つの歩行パターンに対して我々はネガティブや,ポジティブなイメージを持っている事はないだろうか。
この事から本論文では正常である歩行動作(正常歩)と,我々,健常者に特有の癖のある歩行動作(癖歩行)と,知的障害児に特徴的な歩行動作の三つの歩行動作にそれぞれどのようなステレオタイプ認知の傾向があるのか明らかにする事を目的に行われた。
[方法]
本論文では独自に作成された質問紙を使用し,十八歩行パターンに対してそれぞれ我々がどの様な感情を抱くのか調査した。
調査対象者は178名(男性71名,女性104名,不明2名)であり,調査の実施については授業の合間や,自由時間を利用して配布し記入してもらった。
分析には自由記入項目に書かれた回答を独自の方法で分類し,クロス集計でまとめた。又,クロス集計でまとめたデータを多変量解析(これには対応分析を用いた)をして,十八歩行パターンが我々にどのように見られているかを調べた。
[結果と考察]
自由記入の質問項目であったため回答にばらつきがあり,クロス集計の結果から一歩行パターンにつき一イメージという結果には到らなかったが,対応分析の結果から,十八個の歩行パターンについて我々は以下のようなステレオタイプ認知の傾向を持っていることが明らかとなった。
我々が好意的に見ている歩行パターンは「D背筋を伸ばして歩く人」,「L手を大きく振って歩く人」,「Qさっそうと歩く人」の三項目であった。
そして,我々が好意的に見ている歩行パターンに近い属性を示していたのが「Hモデルのように歩く人」であった。
我々が中立的に見ている歩行パターンは「@歩くのが速い人」,「Cゆったり歩く人」,「O全身を上下させて歩く人」の三項目であった。
我々が中立的に見ている歩行パターンに近い属性を示したのは「Pピョンピョン歩きの人」であった。
我々が非好意的に見ている歩行パターンは「Aかかとをすって歩く人」,「B猫背で歩く人」,「E全身が横揺れして歩く人」,「Fがに股歩きの人」,「Gひざを曲げたまま歩く人」,「Iうつむいて歩く人」,「J歩くのが遅い人」,「Kせかせか歩きの人」,「Mドスドス歩きの人」,「N足を引きずって歩く人」の十項目であった。
我々が非好意的に見ている歩行パターンに近い属性を示す項目はなかった。
以上のことを踏まえて正しい歩行動作と,健常者に特有の癖のある歩行動作と,知的障害児に特徴的な歩行動作の三つの歩行動作を比べてみると以下のことが明らかとなる。
正常である歩行動作(正常歩)を我々は好意的に見ている。
癖のある歩行動作(癖歩行)を我々は非好意的に見ている。
知的障害者(児)に特徴的な歩行動作はを我々は非好意的に見ている。
以上のことから我々は歩行動作の異常の特徴が容易に認知できる者に対しては非好意的に捉えてしまい,その結果,知的障害児(者)に特徴的な歩行動作や癖のある歩行動作をする者に対し否定的な見方をしてしまうという事が明らかとなった。
(指導教員 豊村和真教授)