専門職者の精神障害者に対する態度

−接触経験および精神障害者への受容性との関連−

0207064
寺本 麻子


目的
 精神障害者との接触経験は,精神障害者に対する態度に好影響を及ぼす要因として重要視されてきた。しかし,その影響が接触経験の内容によることや,接触経験が豊富な専門職者の態度が必ずしも肯定的とは限らないとの結果も得られている。
 本研究では,精神障害者とかかわる専門職者と大学生を対象に,接触経験の要因と精神障害者に対する態度の間にある媒介要因について検討する。
 媒介要因として「精神障害者への受容性」を設定し,精神障害者に対する態度について,接触経験が直接効果をもつと同時に,精神障害者への受容性への効果を通して間接効果ももつと考える。 
 また,自己受容性をあわせて測定し,自己受容性が精神障害者への受容性に反映されるかを検討する。

方法
 大学生を対象とした予備調査で「精神障害者に対する態度」16項目,「精神障害者への評価」12項目を選定した。
 本調査は,精神病院およびデイケアで働く専門職者96(男性15名,女性81名,平均年齢41.5)と,大学生206(男性45名,女性160名,不明1名,平均年齢20.2)を対象とした。
 質問項目は,「精神障害者に対する態度」 (「精神障害者と同じ職場で同僚として働いてもよい」などの意見に対して「そう思わない」から「そう思う」の5段階評定16項目),「精神障害者評価」(「社交性がある」などの項目が精神障害者の印象に当てはまるかを「当てはまらない」から「当てはまる」の5段階評定12項目)および「精神障害者受容度」(「精神障害者評価」に対して「そのままではよくない」から「そのままでよい」の5段階評定12項目),自己評価および自己受容度(精神障害者に対するものと同様の各12項目)であった。
 接触経験として,専門職群は仕事の「経験年数」を,学生群は「接触なし」「直接接触」「間接接触」のいずれに当てはまるかを回答させた。

結果と考察
 「精神障害者に対する態度」項目について因子分析を行ったところ,専門職群と学生群で異なる因子構造がみられた。専門職群では「社会復帰と共生の因子」「個人的関与の因子」「職場内関与の因子」,学生群では「基本的接触態度の因子」「個人的関与の因子」「社会的人権の因子」と解釈した。また,精神障害者評価および精神障害者受容度項目についても因子分析を行い,下位尺度を構成した。
 専門職群と学生群の態度16項目の比較では,必ずしも専門職群で態度が肯定的になるとはいえないことが明らかとなった。また,専門職群の経験年数の長さ,学生群における接触経験が,態度の特定の因子に対してはプラスの効果をもつものではなかった。
 しかし,専門職群では経験年数が「社会復帰と共生の因子」および「個人的関与の因子」に直接効果をもつと同時に,精神障害者への「社交性評価」を通じて態度の各因子への間接効果が認められた。
学生群では,間接接触は態度の各因子に対する直接効果は認められなかったが,精神障害者への受容性のある側面を通しての間接効果が認められ,直接接触でも,態度に対する直接効果と同時に,間接効果が認められた。
精神障害者への受容性と自己受容性の関連について,専門職群のみに正の相関関係があることが認められた。豊富な接触経験によって,自己受容性が精神障害者への受容性に反映されるようになると思われる。
 本研究の結果から,専門職者と大学生では,精神障害者に対する視点が異なることが示唆された。
 さらに,接触経験は精神障害者に対する態度へ直接効果をもつだけでなく,精神障害者への受容性の特定の側面を通して間接効果ももつことが示唆されたといえよう。接触経験の要因が,精神障害者に対する態度に影響を及ぼすことを明らかにしていくために,接触経験と態度の間にある媒介要因を考慮した検討が今後も望まれるであろう。 
(指導教員 豊村和真教授)